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第314話 人材募集
しおりを挟む翌日の昼過ぎ、クロウ達をほったらかしにしていた事を思い出した俺は、慌ててヴルカーノの王都まで彼等を迎えに行った。怒っているかと思っていたがそんな事は無く、彼等はやけに上機嫌な様子だ。
「色々ありましたが、エスト殿達のおかげで交渉は上手くまとまりました。これで王子に良い報告ができます」
昨日俺やリーベが不在のまま行われた戦勝の宴の後、クロウはボルカンやグルーン達と細かい協議に入ったそうだ。それによると、まず要塞線が出来次第虎の子のドラゴンライダー達を警戒任務に当たらせ、魔族が侵攻する予兆があればすぐにヴルカーノ本国から兵を出すと言う事で話がまとまったそうだ。機動力の高いドラゴンライダー達が常時偵察してくれるなら格段に索敵能力が上がるだろうし、それだけ人類側は有利に戦える事になるだろう。
クロウと共にリムリック王子にそう報告したところ、王子は安心したとばかりにホッと胸を撫で下ろした。
「よくやってくれた二人とも。彼等の協力があれば来るべき戦いで頼りになる存在になってくれるはずだ。これで残りはミレーニアだけになったな」
最後に残ったのは一番行きたくない国のミレーニアだ。交渉事だと嫌でも国王ネムルに会わなければならないから今から気が重い。ネムルも自分を半殺しにした奴になど会いたくないだろう。
「あの王子…次は俺、クロウ殿達を運ぶだけに徹して交渉には参加しない方が良いと思うんですが…」
突然の申し出に王子は首をかしげていたが、すぐ俺がミレーニアで暴れた事を思い出したのだろう。納得いったとばかりに頷いた。
「確かに、君の以前の所業を考えると交渉の場に出ない方が上手くいくだろうな。では君は転移でクロウ達を移動させるだけにして、交渉中は街にでも留まるようにしてくれ」
良かった。なるべくなら気まずくなる事態は避けたいからな。準備が出来次第連絡すると言う王子の下を後にした俺は、アルゴス側の領地の様子を見に行くために転移で移動した。すると城の周りにちらほらと見慣れない仮の店舗が建っているのが目に入る。あれは…ひょっとしたら商人ギルドに頼んでいたやつだろうか?
「エスト様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
城に入るとエド夫妻が出迎えてくれた。以前一軒家に住んでいた時と違い、今の夫妻はピシっとした格好の身なりで見るからに仕事が出来そうな雰囲気を漂わせている。のどかな田舎の村長が急に責任ある立場に置かれてやる気をみなぎらせているようだ。
「事前連絡が無かったので多少戸惑いましたが、闘技会関連での商人ギルド絡みの細々とした交渉は済ませておきました。そこで少しご相談なのですが、この際大々的に人員を募集してはいかがでしょうか?正直言って、今の人数では多くの客が押し寄せてきた場合対処しきれません」
「人員の募集?また奴隷を増やすか?」
「確かに奴隷は絶対に裏切らない事が利点ですが、それでは金がかかりすぎます。今働いてくれてる子達と同じ条件で募集をかければ、すぐに集まると思いますよ」
観客の対処か…やはり今の内に人を集めるしかないかな。いざとなればグリトニル側に居る女の子達の力も借りるつもりだったんだが、集まる人数次第ではそれでも手が足りないだろう。だが都合よく腕の立つ人材ばかりが集まるだろうか?と、そこまで考えて都合のいい施設が目の前にある事を思い出した。
「なら闘技会の試験運用も兼ねて、コロッセオで希望者の腕を見せてもらうと良い。ある程度の腕を持っているものなら正規の待遇で即採用し、基準に達しない者でも希望があれば少し給与を下げて雇えばいい。グリトニル側のダンジョンもあるからレベル上げには困らないはずだ」
「なるほど。それで腕を上げれば正規の待遇で雇うと言う訳ですね。しかしその判断を誰に任せればよいでしょうか?私達では見分けがつきませんし…」
「それなら俺が用意するよ。彼女達なら大丈夫だろう」
俺が動き回っている間、クレア達は暇だろうから彼女達に試験官をやってもらおう。アミルでも良かったが、あいつの場合顔で選ぶ危険性があるので却下だ。新婚家庭にいらぬ波風を立てる訳にはいかない。
そうとなったら早速行動あるのみ。俺は今来たばかりの城から転移し、アルゴスの王都まで移動していた。まず足を運んだのは冒険者ギルドだ。難航するかと思った交渉は思ったより簡単に進み、新たに追加料金を払う事で仕官募集の広告を出していい事になった。ギルドとしても冒険者から仕官出来れば後々宣伝になるので渡りに船だったのだ。ちなみに、俺の言いだした仕官募集の広告は今後別の専用掲示板を作って載せる事になったらしい。それと共に大々的に職の斡旋を始めるのだとか。
「騎士に仕官する人をギルド経由で紹介する事はありましたが、ここまで本格的に始めたのは初めてです。これで雇用が増えて安定した生活を得られる人々が多くなればいいのですが」
ちょっとした思い付きだったのだが、思わぬところで人の助けになっていたようだ。感謝する職員達に恐縮しながら通りに戻った俺は、次に商人ギルドに足を運んだ。ここに来たのは勿論仕官募集の宣伝をしてもらうためだ。冒険者が寄り付きそうな装備屋に宿屋、飲食店の軒先に看板の一つでも立てて貰えばかなりの宣伝効果が見込めるだろう。
カウンターには闘技会の相談をした時に居た恰幅の良いオッサンが座っている。彼は退屈そうにカウンターに突っ伏していたが、俺の姿を認めると途端に笑顔になって揉み手をし始めた。またどんな儲け話を持って来たのか期待しているのだろう。その現金さに苦笑しながら、俺は彼の前で席に着く。
「お久しぶり…と言うほどでもないですね。今日はどんなご用件で?」
「実はまた宣伝を頼みたいんですが…」
俺が説明した宣伝方法はあっさりと受け入れられたが、闘技会と違い今回は商人ギルドにあまり利益が出ないので、価格交渉のみが難航した。店先に看板を建てる店舗は出来るだけ多くしたかったが、その分経費は多くかかる。看板や人がタダで湧いてくる訳がないからだ。結局特に繁盛している店舗のみを選び看板を置いてもらう事で話は落ち着いた。僅かな期間だけなのにそれでも金貨数枚を要求されたので結構な出費になってしまったが、その分優秀な人材が集まる事を期待しよう。
とにかくこれで種は蒔いた。後は実になるのを待つだけだ。
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