ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

文字の大きさ
上 下
166 / 258
連載

第313話 秘密

しおりを挟む

クラーケンを無事倒した俺達は、グリトニルにある自分の城に戻って来ていた。リーベはレヴィアがくっついて離れないので少し歩きにくそうにしていたが、苦笑するだけで好きにさせている。その様子を羨ましそうに見ていたシャリーは今俺に肩車されてご機嫌だ。

「お帰りなさいませ。皆さんお揃いなんですね。あら?そちらの方は?」

警備についていた女の子達に挨拶して中に入ると、ちょうど食堂で休憩していたルシノア達と顔を合わせた。リーベはこの世界に馴染の無い形の城が珍しいのか、さっきからキョロキョロとしきりに辺りを見回している。

「この人はリーベさん。レヴィアのお母さんだよ。今日からこの城に住む事になると思うから仲良くしてあげてね」
「レヴィアさんのお母様ですか?」
「よろしくね、みなさん」

笑顔で挨拶するリーベに対して、なぜかルシノア達女性陣が赤面していた。男から見ても魅力的な人だが、どうやら同姓にもモテるみたいだな。そんな様子を見ていたクレアがふとつぶやく。

「…成長したら、レヴィアちゃんもあんな風になるんでしょうか」
「たぶんね」

彼女達の成長速度は人間より遥かに遅く何千年単位だ。恐らく俺達が生きてる間にレヴィアの成長した姿は見られないだろう。それはとても寂しい事だが、こればっかりはどうしようもない。

突然歓迎会をやると言い出してリーリエ等調理担当の女の子達を困らせてしまったが、彼女達は短い時間で満足いく料理を沢山出してくれた。どうやらルシノアが突然の来客にも対応できるように予め食材を確保しておいてくれたらしい。やはり彼女は優秀な代官だ。

思ってもいないご馳走にありつけた女の子達は、歓声を上げながら次々に料理に手を出し酒を楽しんでいる。レヴィアは最初かいがいしくリーベの世話を焼き、彼女が止めるのもおかまいなしに料理を山盛り運んでいたが、やがてそれも飽きたのか、普段の食欲を発揮してシャリーと二人で奪い合うように料理を食べ始めた。そんなレヴィアの様子を笑って見ていたリーベが、グラスを二つ手に取りこちらに歩み寄ってくる。

「こんなに楽しいのは本当に久しぶりだわ。エスト君、私を助けてくれて本当にありがとう」

俺にグラスを渡しながら礼を言うリーベ。封印が解けた直後に見た姿は少し衰弱していた印象だが、今は顔色もよく元気な様子だった。食事云々より娘と再会出来た事で生きる気力が湧いてきたのだろう。

「どういたしまして。もうここはリーベさんの家でもあるんですから、遠慮しないで下さいね」
「ふふ、ありがとう。それにしても、改めて思うけどあなたはあの子の父親に似ているわね。同じ土地の出身なのかしら?生まれは何処なの?」
「生まれ…ですか」

俺がこの世界に生まれた理由…別に秘密にしていた訳じゃないが、あえて話してこなかった話題だ。それを耳ざとく聞いていたクレアやアミル達は、聞き逃してたまるかとばかりににじり寄ってくる。

「それは前から気になってました」
「主殿の出生の秘密か…大変興味深いな」
「兄様はどんな子供だったの?」
「エストの珍しいスキルとかの秘密が明らかになるのか?」
「親がドラゴンとかでも驚かない自信があるわ」
「わかったわかった!教えるからちょっと落ち着いてくれ!」

まるで問題を起こした芸能人に群がるリポーターの様に、俺はクレア達に取り囲まれてしまう。聖徳太子じゃないんだから一度に聞き分ける事なんて出来ない。それに、瞳をらんらんと輝かせながら期待している彼女達に、今更答えないと言う選択肢は通用し無さそうだ。まあ絶対秘密って訳でもないし、教えといてやるか。

「えーとな…実は俺は、この世界の生まれじゃないんだ…」
『?』

言葉の意味が解らなかったのか、全員頭の上にクエスチョンマークを浮かべて首をかしげていた。そりゃそうか。前世の俺だっていきなりこんな事言う奴が居たら、頭がおかしい人としか思わないだろうし。

「信じられないだろうけど、別の世界に生きていた前世の俺は、とある事情で死んだんだ。その時偶然にもこの世界に転生する機会を与えられてさ…若返った肉体をもってこの世界に生まれたもんだから、親も居ないんだよ」

未だに言葉の内容が上手く消化しきれていないのか、アミルなどは難しい顔をしたままうんうん唸っているが、クレアやディアベルのように聡い子達はその衝撃の事実に驚愕の表情のまま固まっていた。

「そんな事が…本当にあるんですか…?」
「俄かには信じがたいが…主殿がそんな嘘をつくとも思えん」
「でも…それなら聞いた事も無いスキルや見た事も無い城を造り上げられるのも納得かしら」
「じゃあ兄様は神様に遣わされてこの世界に来たの?」
「いや、神様では…なかったな。特に何をしろとも指示されなかったし。今までやってきた事は全部俺自身が考えた上での行動だよ」

反則ともいえるスキル『経験値アップ』の秘密を喋れば軽蔑されるかと密かに思ったが、どうやらそんな考えは杞憂だったようだ。彼女達は驚いてはいるものの、気味悪がったりする様子は無い。例えるなら、今まで気安く接していた相手が実は偉い人だったみたいな反応だ。

「なるほどね…それなら納得できるわ。あの人とエスト君の異常とも言える強さや発想。この世界には無い物だったのね。でも、別の世界から来たと言う事なら、いつか戻るって事もあるのかしら?」

合点が言ったとばかりに頷くリーベが何気なく発したその言葉に、その場にいた全員がビクリとする。俺としては全く考えていない事だったので慌てて弁解しようとしたその時、今まで黙っていたシャリーが俺の腰に飛びつき不安な顔で見上げてくる。

「シャリー?」
「ごしゅじんさまは、お父さんとお母さんみたいに居なくなったりしないよね?ずっと居てくれるでしょ?」

大人達の話は理解出来なくても、俺が居なくなるかも知れないと言う言葉に過敏に反応したのだろう。泣きそうになっているシャリーを抱き上げて笑いかけてやった。

「どこも行かないよ。俺はずっとシャリー達と一緒に居るから安心しろ」
「ほんとに?」
「本当だよ。シャリーに嘘ついた事なんて無いだろ?」

その言葉で安心したのか、シャリーはいつもの笑顔に戻り俺にしがみついてきた。クレア達もそれを見てホッと胸を撫で下ろしている。再び下位世界に移動できる機会があったとしても、今更この生活を捨ててまで転生するつもりなど毛頭ない。何より前世の俺と違って、今の俺は多くの人の命を預かる責任ある立場。彼女達を置いて死ぬ気など無いのだ。

「みんなも安心してくれ。俺は居なくなったりしないから。それより今はリーベさんの歓迎会なんだ、もっと楽しもう」
「そうだな。お前の話はよく解らなかったけど、それには賛成だ」

やれやれアミル。まだ子供のシャリーはともかく、お前には理解してほしかったぜ。だが今はお前のその能天気さが有り難い。クレア達に出会えたことも幸運だが、お前に会えたことも良かったと心から思えるよ。絶対口に出したりはしないけど。

「何やってんだエスト。お前が引っ込んでたら盛り上がらないだろ?早く来いよ」
「わかったよ。すぐ行く」

俺は苦笑しながらグラスの酒を一気にあおり、手招きするアミル達に下に足を向けた。
しおりを挟む
書籍第1~4巻が発売中です。
感想 107

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。