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第312話 母
しおりを挟むヴルカーノ軍には負傷者が数多くいたため、俺はすぐに範囲指定の回復魔法を負傷者達が居る複数の地点に設置した。かなりの魔力を籠めたのでしばらく消える事は無いし、範囲内に居れば骨折程度簡単に治せるはずだ。そうこうしている間に空からはゆっくりとレヴィアが下りて来て、その大きな頭を地面に降ろす。
地上に降りたレヴィアの頭から、ゆったりとしたローブ姿のリーベが飛び降りた。リーベは二十代後半から三十歳ぐらいに見える若々しさで、とてもレヴィアの母親とは思えない外見だ。身長はディアベルと同じぐらいでレヴィア同様金髪で紺碧、目の覚めるような美女。そして娘とハッキリ違うのは服の上からわかるほどの巨乳。…古の勇者が彼女の魅力にやられた理由が何となくわかった気がする。
人の形に戻ったレヴィアはクレアに預けていた服を素早く着込み、笑みを浮かべるリーベに向かって全力疾走したと思ったら両手を上げてその胸に飛び込んだ。
「母様!母様!やっと会えた!母様!」
「レヴィア…一人にしてごめんなさい。随分寂しい思いをさせてしまったのね」
子供の様に泣きじゃくるレヴィアを抱きとめとリーベは、その頭を優しく撫でる。そんな彼女の目にもうっすらと涙が浮かんでいた。仲睦まじいその様子を見ていると、親子と言うより姉妹にしか見えない。
「レヴィア。いい子だから泣いてばかりいないで、そちらに居る方々を紹介してくれない?」
しがみついて離れようとしないレヴィアに苦笑しながら、リーベは俺達に視線を向けた。レヴィアは俺達の前で号泣していたのが今更ながら恥ずかしくなったのか、目をこすりながら務めて明るい声を出す。
「そうね。紹介するわ母様。まずエスト兄様。兄様は勇者って呼ばれてて、物凄く強いのよ!そっちがディアベルお姉ちゃん。精霊魔法の達人で、フェニックスを呼び出せる凄い人なの!それでこっちがクレアお姉ちゃん!世界一の弓の使い手なの。この中じゃ一番長く兄様と旅をしてるのよ。そしてこっちがシャリーちゃん。可愛いでしょ!?こんなに小さいのに二刀流の使える私の自慢の妹!最後にドラン!私の弟!」
「まあまあ、急に家族が増えたのね。レヴィアの姉弟なら私はみんなのお母さんになっちゃうのかしら?子供達が増えて嬉しいわ」
嬉しそうに俺達を紹介していくレヴィアをリーベは優しい表情で見ている。なんだろう…この人を見ていると自然と心が安らぐ。全てを包む様な包容力がある人だな…。
「初めまして皆さん。私はリーベ。ご存知の通りレヴィアの母親です。娘がお世話になっているみたいですね」
「初めまして、エストです」
「クレアです。初めまして」
「ディアベルと言う。よろしく頼む」
「シャリーだよ!」
「グワッ」
挨拶する俺達を笑みを浮かべながら一人一人順番に見ていたリーベだが、俺の時だけジッと観察するように見つめてきた。特に注意深く見ていたのは剣と盾だ。やはり古の勇者の装備だけあって、何か思うところがあるのかも知れない。
「本当に懐かしいわね…あの人の使っていた装備を見たのは何年ぶりかしら。それに、貴方もどことなくあの人に似ているわ。珍しい黒髪に黒目。レヴィアが懐くのも無理ないかも」
うっすらと目を細めながらそう言うリーベに、思わずドギマギしてしまう。俺と似ているって事は、古の勇者はひょっとしたら日本人かそれに近い人種だったのかも知れないな。
その時、俺達に近づく足音に気がついて後ろを振り向くと、人間の姿になったグルーンとボルカンが近寄ってきた所だった。二人はリーベの前に立ち止まったかと思えば、いきなりその場に四つん這いになり頭を下げる。土下座スタイルだ。
「リーベ殿!本当にすまなかった!やむを得ない事情があったとは言え、親子を引き離したのは事実!大変申し訳ない!」
「ヴルカーノを代表して謝罪いたします。申し訳ありませんでした!」
グルーンはともかく、プライドの高そうなボルカンまでが謝罪したのは正直言って予想外だった。頭を下げた二人をレヴィアは敵意剥き出しで睨みつけていたが、リーベはそんな彼女の頭を撫でて落ち着かせ、自分も同じように地面に膝をついて彼等の手を取る。
「頭を上げてくださいお二人とも。私は海を守る者として義務を果たしたまで。確かにレヴィアを一人にしてしまった事は残念だけど、その分この子は良い出会いに恵まれました。あなた方を恨んではいませんよ」
「…リーベ殿…。感謝致す」
「…お礼申し上げる」
恨み言など一言も漏らさず相手を赦すその寛容さ、正に聖母と言う言葉がピッタリだ。この寛容さはクレアやディアベルも少し見習ってほしい。なにせ、俺が少し可愛い子を目で追っただけでも冷たい目を向けてくるのだから。
「ご主人様、何か?」
「主殿、良からぬ事を考えていないか?」
「…なんでもありません」
不穏な空気を察した二人にギロリと睨み付けられ、思わず目を逸らしてしまう。我ながら完全に尻に敷かれてるなぁ…
「リーベ殿、それにエスト達よ。魔物の討伐を祝ってこの後宴を催そうと思っているのだが、是非参加してくれないか?」
負傷者の手当てを終えたヴルカーノ軍は、少しずつ決戦場から軍を撤収させ始めている。多くの犠牲を払ったせいなのか、勝利したと言うのに彼等の表情は冴えない。中には友人や家族を失った者も大勢いるのだろう。涙を流している者も少なくなかった。グルーンやボルカンらは国の代表として魔物討伐の立役者である俺達に感謝の念を示したいのだろうが、お通夜みたいな雰囲気の宴に参加する気は毛頭なかった。
「悪いけど、宴は王都に留まっているクロウ達に任せるよ。今はリーベさんを落ち着くところに連れて行ってやりたい。クロウ達は明日にでも迎えに行くから…」
「私も疲れているから今は休みたいわ。せっかくレヴィアと再会出来たし、今はこの子達の話を聞きたいの」
主役二人にあっさりと断られた事でグルーンが一瞬情けない表情になったが、すぐに気を取り直し撤収する彼等リザードマン達の後に続く。
「エスト達には本当に世話になった。後日必ず礼をさせてもらおう。では今日の所はこれで失礼する」
「…エスト殿。感謝する」
言葉は短いがボルカンも感謝しているようだ。第一印象は最悪だったが、次に会う時はお互いわだかまりなく接する事が出来たらいいのだが。でも今はいい。疲れたのでさっさと領地に帰るとしよう。
クラーケンを倒した事で俺達はかなりのレベルアップを果たしていた。
エスト:レベル105 『フロアマスター討伐×2』『不死殺し』『アルゴスの騎士』『巨人殺し』『悪魔殺し』『ダンジョンマスター討伐』『海魔殺し』
HP 7400/7400
MP 6675/6675
筋力レベル:7(+8)
知力レベル:7(+9)
幸運レベル:3(+7)
所持スキル
『経験値アップ:レベル4』
『剣術:レベル6』
『同時詠唱:レベル2』
※隠蔽中のスキルがあります。
『新たなスキルを獲得できます。次の中から選んでください』
『電撃魔法:レベル4』
『火炎魔法:レベル4』
『同時詠唱:レベル3』
クレア:レベル100『フロアマスター討伐×2』『アルゴスの騎士』『ダンジョンマスター討伐』
HP 4920/4920
MP 3830/3830
筋力:レベル6(+3)
知力:レベル5(+3)
幸運:レベル6(+3)
所持スキル
『弓術:レベル6』
『みかわし:レベル4』
『剣術スキル:レベル4』
『扇撃ち:レベル6』
『強弓:レベル6』
『降らし撃ち:レベル5』
『格闘術:レベル1』
ディアベル:レベル90『フロアマスター討伐×2』『アルゴスの騎士』『ダンジョンマスター討伐』
HP 3825/3825
MP 4950/4950
筋力:レベル4(+3)
知力:レベル6(+3)
幸運:レベル4(+3)
所持スキル
『精霊召喚(炎)(風)(土):レベル5』
『精霊召喚(水):レベル3』
『剣術:レベル4』
『高速詠唱:レベル4』
シャリー:レベル89『フロアマスター討伐×2』『アルゴスの騎士』『ダンジョンマスター討伐』
HP 4120/4120
MP 1615/1615
筋力:レベル6(+3)
知力:レベル2(+3)
幸運:レベル4(+3)
所持スキル
『嗅ぎ分け:レベル4』
『剣術:レベル6』
『大跳躍:レベル3』
『みかわし:レベル6』
『受け身:レベル1』
レヴィア(黄龍):レベル不明
HP ****/****
MP ****/****
所持スキル
不明
俺とクレアはとうとうレベル100の大台に到達した。クラーケンに止めを刺したので俺は新たな称号『海魔殺し』と言うのが付与されていた。筋力と知力もそれぞれ一つずつ上がっている。クレアは俺と同じく筋力と知力が上がり、この戦いで多用した降らし撃ちと扇撃ちのスキルレベルが上がっていた。これでますます多数に対して強くなるだろう。
ディアベルも筋力と知力がそれぞれ上がっている。そして炎と風の精霊魔法同様に、土の精霊魔法が最高ランクの5に上がっていた。一体どんな精霊を召喚出来るようになるのか楽しみだ。
シャリーは筋力と幸運が一つずつ上がり、剣術レベルが限界突破したのか俺と同じ6になった。もう今のシャリーに剣で勝てる者など、俺以外に居るのかどうかも怪しくなってきた。レヴィアは相変わらず変化なしだ。やはり彼女と俺達ではレベルアップの方法が違うのかも知れない。
アヌビスとの戦いで得た『経験値アップ:レベル4』の威力なのか、今回は全員が十以上レベルアップしていた。やはり優先的に獲得して正解のスキルだ。俺が今回獲得するのは『同時詠唱:レベル3』だ。いつも思うが、グラン・ソラスに各種魔法を上乗せするのに時間がかかりすぎる。このままでは使い勝手が悪いので、この新たなスキルで少しでも緩和しておきたい。
さ、色々あったが魔物は討伐できた。今は城でゆっくりしよう。
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