ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第294話 断罪の神

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領地に戻りシーティオのダンジョンに潜る事をクレア達に告げると、意外にも彼女達は全員乗り気で参加を表明した。久しぶりに魔物相手に戦うと言う事で随分と気合が入っている。ガルシアで一悶着あった時は人間相手に戦って手加減する必要があったから、ストレスが溜まっていたのかも知れない。

「魔物相手なら全力で戦えます!」
「久しぶりに腕が鳴るな」
「シャリーもたたかう!」
「私の力があればどんな敵もイチコロよ!」
「グワッグワッ」

この様子からして彼女達も俺同様、頭より体を動かしている方が性に合っているんだろう。やる気満々な彼女達を引き連れた俺はシーティオの公爵領近くに転移する。地図によるとこの公都から南東の行った山の中に目的のダンジョンがあるようだ。なのでここからはレヴィアに変身してもらって空から移動する事になる。

「レヴィア、また俺達を運んでくれるかい?」
「まかせて兄様!あっと言う間に運んであげるわ!」

俺だけ後ろを向いた後服を脱ぎ捨てたレヴィアは、その本性である巨大な黄龍へと姿を変えた。相変わらず黄金色に輝く鱗は美しくて見惚れてしまう。乗りやすいように頭を下げたレヴィアに一人ずつよじ登ると、レヴィアはゆっくりと上体を起こし少しずつ大空へ向けて浮上して行った。

眼下にある公都がどんどん小さくなり、レヴィアは滑る様に南東へと飛行を開始する。以前と同じく上に乗っている俺達は何の風圧も感じる事も無く極上の乗り心地だった。小一時間ほど飛行してレヴィアに止まってもらい地図と睨めっこすると、ちょうど今居る場所が地図に示された地形とそっくりだったので高度を下げるように頼む。だんだん大地が近づいて来たところで、山のすそ野にダンジョンの入口と思われる洞穴を発見できた。

「レヴィア、降りてくれ。たぶんあそこがダンジョンの入口だ」
「は~い」

地面に降りたレヴィアは変身を解いて再び人の姿に戻る。彼女が着替えている間に少し中を除いてみたが、入口から真っ直ぐ伸びた通路はかなり先まで続いているようで、火炎球を投げつけても壁に当たらずにそのまま奥に消えて行った。

「結構大きいダンジョンなのかな?」
「でも不思議と生物の気配を感じませんね」
「精霊達の数も少ないようだ。魔物が徘徊しているならもっと活発な筈なんだが…」

精霊が見えない俺にディアベルの言葉を確かめる術はないが、クレアの言う通りマップスキルには敵の反応が全く無かった。これ本当にダンジョンか?ただの洞窟だったりして…

「まあ潜って確かめるしかないな。行こうか」

ここまで来て引き返すと言う選択肢は無いので、俺を先頭にパーティーは洞窟の中に足を踏み入れる。マップに表示されるのはひたすら一本道だけで、分岐など皆無だ。これでは目を瞑っていても引き返す事が出来るだろう。やがて道はどんどん急こう配になり地下深くへと俺達を誘う。一時間ほど歩き続けた時、次第に俺達全員がプレッシャーのようなものを感じるようになっていた。

「これって…この先に居る敵の影響か?」
「不思議と体が震えてきますね…」
「なるほど、道理で他の動物や魔物が居ない訳だ」
「ご主人様…シャリー怖い」
「相手にとって不足なしってところね!」

マズいな。戦う前から雰囲気に飲まれて士気が下がっている。これでは直接相対した時に本来の実力を発揮できずにやられてしまう可能性すらあるぞ。思いがけぬピンチに何とかしなければと必死に頭を捻って無い知恵を絞りだした俺の対策は、歌を歌うと言う安直な物だった。だが単純だと馬鹿にするなかれ。古来より音楽とは人の気分を高揚させる効果があるのだ。

歌うのは以前街中で遊んでいた子供達が歌っていた歌だ。簡単な歌詞とメロディなので聞き慣れない俺でも何回か聞いただけで覚える事が出来たし、この世界の生まれであるクレア達なら当然のように知っている歌だ。慣れない歌を調子の外れの音で俺が歌いだせば、噴き出した皆が後に続く。いつしか俺達パーティーは大声で合唱しながら洞窟の奥深くまで辿り着いていた。

「止まって!何か反応がある!」

かなり深く下ってきた先でマップスキルに敵の反応が現れた。大きさで言えば以前ミレーニアで戦った悪魔より遥かに小さく、馬と変わらない程の大きさだ。だが感じるプレッシャーはかつて無いほどに強烈で、油断ならない相手だと本能が警告する。慎重に進んで行くと、通路の先にぽっかりと巨大な空間が広がっているのが解る。どうやら敵はその空間のど真ん中に居るようだ。

油断なく武器を構えて広間に入ると同時に照明弾代わりの火炎球を天井に打ち上げると、地面に映る影の中から生える様に一つの魔物が姿を現した。それは一瞬ケンタウロス族かと錯覚するような姿をしていたが細部がまるで違う。上半身が人で下半身が馬なのは同じだが、頭は犬で腕が四本あったのだ。そしてそれぞれの腕には炎を纏った二つの槍を手にしている。ステータスを確認しようと試してみるが、妨害されているらしく名前しか解らなかった。

アヌビス:レベル※※『ダンジョンマスター』

アヌビス…確かエジプト神話に登場した死者の罪を裁く神であり、ミイラを初めて作ったとも言われる神の名だ。だが姿と名前が似ているだけで流石に地球と同じ存在ではあるまい。でなければ俺達は神相手に戦いを挑む事になるのだ。

「油断するなよみんな…」

下手に手を出すとどんな反撃をしてくるのかが不安で、いつもの様に先制攻撃をするタイミングがつかめない。じっと動かないアヌビスの正面には俺が立ち、クレア達は奴を囲むように周囲に散らばり攻撃の機会を待つ。すると俺達の準備が整うのを待っていたかのように、突然アヌビスが槍を構えると俺目がけて猛然と突進してきたのだ。

いよいよ始まった。俺は盾を持つ左手に力を入れながら、アヌビスを迎え撃つべくグラン・ソラスに魔力を回すのだった。
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