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第293話 討伐依頼
しおりを挟む「話と言うのは何でしょうか?」
公爵に呼び止められ、腰を浮かしかけた俺は再びソファーに腰を沈める。一体どんな無理難題をもちかけられるのか警戒していると、公爵は一つの地図を差し出してきた。それにはどこかの地方の詳細な地形が書いてある。
「聞いた話によると、君は自分の領地で自作のダンジョンを造ったそうじゃないか。それのおかげで人が増えて景気も良くなっているらしいね」
「はあ…おかげさまで…」
地図との関連性が理解できないので何を言いたいのかいまいち解らない。自作のダンジョンを造った事とシーティオに何の関係があるのか。不思議に思う俺にフォルティス公爵は地図のある地点を指で差し示す。そこには何かの入口らしきものが書いてあった。
「君がダンジョンを造った経緯はこちらでも調べさせてもらったんだ。そこでだ。実はシーティオには滅多に人が寄り付かないダンジョンが一つあってね。そこには強力な魔物が巣くっていると言うもっぱらの噂だ。君にはそこに居る魔物を狩って魔石を回収して欲しい。」
「それは…」
つまりこれは冒険者としての依頼って事になるのか。なんか最近は国の代表として動き回っていた感じがするから、新鮮だな。しかし気になる所があるので依頼を受ける受けないの判断はそれからだ。
「依頼として受けるのは構いませんが、なぜ俺なんです?それに魔石を回収して来て何をするつもりなんですか?」
「君に頼んだのは、君達パーティーなら確実に仕事をやり遂げてくれると思ったからだよ。魔石を回収する目的はお察しの通り、新たなダンジョンを造る為だ。今回目標にしているダンジョンは複雑な地形の奥にあってね、簡単に人が近寄れる場所じゃないんだよ」
「…つまり、人が簡単に入れる場所に新たにダンジョンを造るために魔石が必要だと?」
「そう言う事だ。人が集まれば経済が活性化する。すぐには無理でも、十年二十年先にはガルシア並に発展するかも知れない」
確かにガルシアは巨大なダンジョンが王都の近くにあるために冒険者が多いし、彼等を目当てとした商人連中が街に詰めかけ多くの人で賑わっている。俺の領地もダンジョンや冒険者学校のおかげで急速に発展しているし、ダンジョン一つあるだけで人の集まり方は大分違って来るだろう。ただ、それには問題があった。
「お話は解りましたが、魔石を取って来ても必ずダンジョンが生まれるとは限りませんよ?専門家の話だと、適合しなければ魔石はただの石になるようですから」
公爵なりに調べたと言うなら既に知っているかも知れないが、以前自作のダンジョンを造る時に相談したグリトニルのギルドマスター、リリエラは確かにそう言っていた。俺の時は運よく適合してダンジョンが生まれたが、今回も上手くいくとは限らないのだ。
「分の悪い賭けだと言うのは理解している。だが、どんな可能性の低い事でも実行してみる価値はあるんだ。この国を立て直すにはあらゆる手を試してみないといけない。街に入る時に多くの商人達を見たかい?景気の良いのはこの公爵領だけでね、他は未だに最低限の生活しか出来てないんだよ。私は何とかして彼等の生活を良くしてやりたい。そのために君の力を貸して欲しいんだ」
そう言うと公爵は深々と頭を下げた。護衛の二人も同じように深々と頭を下げる。一瞬どうしようか迷ったが、ここまで民の事を真剣に考えている人に頭を下げられて断ると言う選択肢は無いだろう。基本自分達の事を優先するとしても、俺はそこまで鬼ではないのだから。
「頭を上げてください。俺で良ければ引き受けますよ。それに魔族の侵攻に対して腕を磨いておく必要もあるし、考えてみればちょうどいいです」
「本当かい?ありがとう!報酬についてもしっかりした物を用意させてもらうよ」
「ではクロウ殿を送り返した後早速向かう事にします。吉報をお待ちください」
公爵の差し出してくれた地図を手に取り、俺は席を後にする。急に予定外の仕事が舞い込んだが久しぶりに冒険者として活動出来る事に内心ではワクワクしていた。やはり俺は頭を使うより体を使う仕事の方が性に合っているらしい。
------
馬車に乗り込んで待っていたクロウ達使節団の面々と共にグリトニルに帰還した俺達は、すぐさま会見の成功をリムリック王子に伝えに城に上った。王子は相変わらず忙しく仕事をしていたようだがクロウからもたらされた吉報に顔をほころばせる。
「上手くいったか!良くやってくれた。正直シーティオの現状を考えると断ってくる可能性の方が高かったから不安だったんだよ」
「王子、その事についてフォルティス公爵から一つ提案があるのですが…」
クロウが公爵から出された条件の一つ、経済制裁の解除を口にすると王子はうんうんと頷いた。
「それは問題ないだろう。我が国はすぐにでもシーティオに対しての制裁を解除しよう。そして対策会議では各国の代表者にそれについて提案するつもりだ」
良かった。これで一つ公爵の懸念が減った事になる。王子なら各国の代表相手でも上手く話しをまとめてくれるはずだ。国と国の話はこれで終わりだが、あと一つ俺から王子に言う事がある。
「王子、明日からしばらく留守にしようと思います」
「なんだ急に?何か用事か?」
「ええ、実は…」
いきなりしばらく留守にすると言い出した俺に一瞬驚いた王子だったが、先程公爵に依頼された事を説明するとなんだそんな事かと安心したように胸をなでおろした。
「いきなり言い出すから何事かと思ったぞ。だがそう言う事情なら理解した。ちょっと行ってその魔物とやらを討伐してくるといい」
「簡単に言いますけど、強い魔物なら俺達が負けるかも…」
「それは無いだろ。君達パーティーが正面から戦って負ける魔物など考えられないぞ」
評価が高いのは結構な事だが過大評価だな。実際ミレーニアで出会った魔物と戦って全滅しかけた事があるし、まだまだ世の中には油断ならない敵が居るはずだ。狩るつもりが狩られていたって結果にならないように気合を入れてかかる必要があるなと、王子の下を去りながら俺は密かに覚悟を決めた。
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