ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第288話 アルフォンソ・ガルシア

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「国王…?この国の国王はベルナルドじゃ…」
「ベルナルドはワシの息子じゃ。あやつ、ある日突然ワシをこんな所に閉じ込めて人を病死扱いにしおった。ワシに仕えてくれる者達も力ずくで排除したし、やりたい放題よ」

彼の話が本当なら、ベルナルドはクーデターを起こして王位を簒奪したと言う事になる。衝撃の事実だ。これは思わぬところでベルナルドに対しての切り札を得たと思うが、気になる点が一つあった。

「なぜ、ベルナルドは貴方を殺さずに幽閉するだけに留めたのだ?」
「さあて、どうだろうな。流石に自分の父親を殺す決心がつかなかったのではないか?そんな事より、お主は何者じゃ?ワシを殺しに来たのではないのか?」
「俺は…」

と、俺が答えかけたところで俄かに外が騒がしくなった。どうやら倒れた兵士達が発見されたらしい。急いでドアを閉めて土魔法で固定し、外から開かないようにすると同時に、駆けつけたらしい兵士達がドアを激しく叩きだした。

「開けろ!開けるんだ!」
「逃げ場など無いぞ!」

そんな騒音には一切構わず、俺はアルフォンソと名乗る老人に手を差し伸べた。こんな所に居ては落ち着いて話も出来ない。

「なんじゃ?」
「逃げましょう。俺が貴方を国王の座に戻してみせますよ」

国王の座に戻す。そんな大それた事を何でも無いように言う俺の言葉に、アルフォンソは困惑したようだったが、すぐに手を伸ばしてきた。このまま幽閉されて飼い殺しになるより、僅かな希望に賭けてみたくなったのだろう。俺はがっしりとその手を握り、転移でこの場を後にすると、次の瞬間俺達二人は俺の城の中にある食堂に出現していた。突然現れた黒ずくめと老人の組み合わせに、食事を摂っていた面々が驚いて固まっている。

「曲者です!取り押さえなさい!」

ちょうど食堂に来ていたルシノアが混乱から素早く立ち直り、即座に戦闘班に指示を出す。言われた女の子達は弾けたように机から立ち上がると、先を争うように俺達二人に殺到して来た。

「ちょっ、ちょっと待った!俺だ!エストだ!」

アルフォンソを抱えながら掴みかかってくる女の子達から身を躱し、大急ぎで顔を覆っていた覆面を剥ぎ取る。迂闊だった。多少慌てていたとは言え、アサシンスタイルで行動していたのを忘れるなんて。

「エスト様!?…お帰りなさいませ。そちらの方は…?」
「ちょっと訳があってね。ルシノア、ついて来てくれ」

抱えていたアルフォンソを地面に降ろすと、彼はルシノア達を一瞥してカカカと笑い出す。

「荷物の様に振り回されたのは初めてじゃ。なかなか面白かったぞ。それにこの者達はお主の配下か?瞬時の判断が出来る良い家臣を持っておるな。滅多に使い手の居ない転移の魔法と言い、お主ただ者では無いな」

尊大な態度のアルフォンソに食堂に居た面々は怪訝な表情を向けているが、それも仕方の無い事だ。長年の幽閉暮らしで衰えた今のアルフォンソを見たところで、誰も王族とは思えないだろう。誰が見ても今の彼は薄汚れた老人でしかないのだ。

ジェシーに言って彼の着替えや食事などを頼み、空き室に彼を案内する。狭い軟禁部屋から解放されたアルフォンソは非常に機嫌がよく、運ばれてきた食べ物や飲み物を貪るように食べ始めた。老人とは思えない勢いで次々にお代わりを頼むその食欲に圧倒され、俺とルシノアは積み重ねられる皿をただ呆然と見つめていた。やがて満足したアルフォンソはコップに注がれていた葡萄酒を一気に飲み干すと、盛大に息を吐く。

「こんな美味い物を食べたのは久しぶりじゃ!エストとやら、感謝するぞ。さて、落ちついたところでお主が何者か聞かせてもらおうかの。なぜあんな格好であんな場所まで忍び込んで来たのか、聞かせてもらえるか?」
「はい。長くなりますが順を追って説明しますので聞いてください。実は…」

興味深そうにしているアルフォンソに、俺は魔族の侵攻が迫っている事から話はじめる。各国への協力の取り付けとガルシア王ベルナルドに断られた事実、侵略戦争を目論んでいるベルナルドを力ずくで排除するつもりだった計画などを話していくと、彼は難しい表情で考え込んでしまった。話の中で唯一単独での王の暗殺を目論んでいる俺の事を疑っていたようだが、ステータス妨害の指輪を外す事で信じて貰えたようだ。

「なるほどのう…事情はよくわかった。確かにお主程の腕の持ち主なら、王城に忍び込んであのバカ息子の首を掻き斬るぐらい朝飯前じゃろうて。それにしても…まさか侵略戦争など企んでおるとは…どこまで馬鹿なんじゃあ奴は」

苦しそうな表情は何を思っての事だろうか。命を狙われる息子への哀れみか、それとも国民の命をいたずらに消費する愚かな真似に対しての怒りだろうか。それはアルフォンソ自身にしか解らなかった。

「貴方を救出した事で事情が少し変わりました。貴方が生きていると言う事が解ればベルナルドは偽王と言う事になる。なら貴方を旗頭にして、正面から乗り込んでも問題ないのでは?」
「いやいや、それはマズいぞ。お主の力を疑う訳では無いが、それだと余計な血が流れる事になる。あんなバカ息子に仕えているとは言え、兵達には何の罪も無いんじゃからな」

うむむ、俺としては手っ取り早く終わらせたかったんだが、どうも強硬策はお気に召さないらしい。となると、当初の予定通りベルナルドだけをやる事になる。もっとも、アルフォンソが居るので必ずしもベルナルドを殺す必要は無くなった。捕らえて法の裁きを受けさせればいいのだ。

「あの…エスト様。話が見えないのですが…。その方は結局どちら様でしょうか?」

ついて来るように言ったものの、事情がサッパリ分からないルシノアが置いてけぼりを喰らっていた。

「悪い悪い。ええと、この方はガルシア王国の正当な王なんだよ。現国王はこの方の息子で、アルフォンソ様を無理矢理幽閉して王の座を簒奪したんだ」
「ガルシアの!?で、ですが何故そんな方がここに…!それに、この事をリムリック王子にお伝えしなくてよろしいのですか?」

確かに事が事だけに王子に報告して判断を仰ぐのが最善かも知れない。しかしこれはあくまでもガルシア国内のお家騒動。国王の暗殺だけでも大問題なのに、これ以上グリトニルを介入させたら騒動が終わった後になっても絶対しこりが残る。対魔族で一致団結したい俺としては、その事態だけは避けたかった。俺は興味深げにこちらを見るアルフォンソに向き直ると、一つの提案をする事にした。

「アルフォンソ様。グリトニルが暗殺を企てた事を不問にしろとは言いません。しかし、貴方が玉座に返り咲くお手伝いをする事で、今回の一件を相殺とはいきませんか?その方がお互いのためになると思うのですが」

図々しいともいえる俺の提案に、アルフォンソは怒るどころか不敵な笑みを浮かべた。その顔は先ほどまでのくたびれた老人とはまるで違って生気に溢れ、下手に手を出せば逆襲にあいそうな老獪さを感じさせる。

「ふふ…ぬけぬけとよく言うわ。しかし気に入った!よかろう、お主の力で見事ベルナルドを捕らえてみせたら、今回の一件は不問にいたそう」
「決まりですね。ではベルナルドを捕らえる際にはお迎えに上がります。それまでこの城でお寛ぎ下さい。ルシノア、そう言う事なんで頼むよ」
「は、はい。お任せください」

顔にこそ出さなかったが、話がまとまって俺は内心ほっとしていた。シーティオやミレーニアの時と違い、今回企んだベルナルドの暗殺については正当性が皆無だったからだ。とにかく、これで気兼ねなく偽王ベルナルドを捕まえる事が出来る。明日からの本番はいつも以上に気合を入れるとしよう。
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