141 / 258
連載
第288話 アルフォンソ・ガルシア
しおりを挟む「国王…?この国の国王はベルナルドじゃ…」
「ベルナルドはワシの息子じゃ。あやつ、ある日突然ワシをこんな所に閉じ込めて人を病死扱いにしおった。ワシに仕えてくれる者達も力ずくで排除したし、やりたい放題よ」
彼の話が本当なら、ベルナルドはクーデターを起こして王位を簒奪したと言う事になる。衝撃の事実だ。これは思わぬところでベルナルドに対しての切り札を得たと思うが、気になる点が一つあった。
「なぜ、ベルナルドは貴方を殺さずに幽閉するだけに留めたのだ?」
「さあて、どうだろうな。流石に自分の父親を殺す決心がつかなかったのではないか?そんな事より、お主は何者じゃ?ワシを殺しに来たのではないのか?」
「俺は…」
と、俺が答えかけたところで俄かに外が騒がしくなった。どうやら倒れた兵士達が発見されたらしい。急いでドアを閉めて土魔法で固定し、外から開かないようにすると同時に、駆けつけたらしい兵士達がドアを激しく叩きだした。
「開けろ!開けるんだ!」
「逃げ場など無いぞ!」
そんな騒音には一切構わず、俺はアルフォンソと名乗る老人に手を差し伸べた。こんな所に居ては落ち着いて話も出来ない。
「なんじゃ?」
「逃げましょう。俺が貴方を国王の座に戻してみせますよ」
国王の座に戻す。そんな大それた事を何でも無いように言う俺の言葉に、アルフォンソは困惑したようだったが、すぐに手を伸ばしてきた。このまま幽閉されて飼い殺しになるより、僅かな希望に賭けてみたくなったのだろう。俺はがっしりとその手を握り、転移でこの場を後にすると、次の瞬間俺達二人は俺の城の中にある食堂に出現していた。突然現れた黒ずくめと老人の組み合わせに、食事を摂っていた面々が驚いて固まっている。
「曲者です!取り押さえなさい!」
ちょうど食堂に来ていたルシノアが混乱から素早く立ち直り、即座に戦闘班に指示を出す。言われた女の子達は弾けたように机から立ち上がると、先を争うように俺達二人に殺到して来た。
「ちょっ、ちょっと待った!俺だ!エストだ!」
アルフォンソを抱えながら掴みかかってくる女の子達から身を躱し、大急ぎで顔を覆っていた覆面を剥ぎ取る。迂闊だった。多少慌てていたとは言え、アサシンスタイルで行動していたのを忘れるなんて。
「エスト様!?…お帰りなさいませ。そちらの方は…?」
「ちょっと訳があってね。ルシノア、ついて来てくれ」
抱えていたアルフォンソを地面に降ろすと、彼はルシノア達を一瞥してカカカと笑い出す。
「荷物の様に振り回されたのは初めてじゃ。なかなか面白かったぞ。それにこの者達はお主の配下か?瞬時の判断が出来る良い家臣を持っておるな。滅多に使い手の居ない転移の魔法と言い、お主ただ者では無いな」
尊大な態度のアルフォンソに食堂に居た面々は怪訝な表情を向けているが、それも仕方の無い事だ。長年の幽閉暮らしで衰えた今のアルフォンソを見たところで、誰も王族とは思えないだろう。誰が見ても今の彼は薄汚れた老人でしかないのだ。
ジェシーに言って彼の着替えや食事などを頼み、空き室に彼を案内する。狭い軟禁部屋から解放されたアルフォンソは非常に機嫌がよく、運ばれてきた食べ物や飲み物を貪るように食べ始めた。老人とは思えない勢いで次々にお代わりを頼むその食欲に圧倒され、俺とルシノアは積み重ねられる皿をただ呆然と見つめていた。やがて満足したアルフォンソはコップに注がれていた葡萄酒を一気に飲み干すと、盛大に息を吐く。
「こんな美味い物を食べたのは久しぶりじゃ!エストとやら、感謝するぞ。さて、落ちついたところでお主が何者か聞かせてもらおうかの。なぜあんな格好であんな場所まで忍び込んで来たのか、聞かせてもらえるか?」
「はい。長くなりますが順を追って説明しますので聞いてください。実は…」
興味深そうにしているアルフォンソに、俺は魔族の侵攻が迫っている事から話はじめる。各国への協力の取り付けとガルシア王ベルナルドに断られた事実、侵略戦争を目論んでいるベルナルドを力ずくで排除するつもりだった計画などを話していくと、彼は難しい表情で考え込んでしまった。話の中で唯一単独での王の暗殺を目論んでいる俺の事を疑っていたようだが、ステータス妨害の指輪を外す事で信じて貰えたようだ。
「なるほどのう…事情はよくわかった。確かにお主程の腕の持ち主なら、王城に忍び込んであのバカ息子の首を掻き斬るぐらい朝飯前じゃろうて。それにしても…まさか侵略戦争など企んでおるとは…どこまで馬鹿なんじゃあ奴は」
苦しそうな表情は何を思っての事だろうか。命を狙われる息子への哀れみか、それとも国民の命をいたずらに消費する愚かな真似に対しての怒りだろうか。それはアルフォンソ自身にしか解らなかった。
「貴方を救出した事で事情が少し変わりました。貴方が生きていると言う事が解ればベルナルドは偽王と言う事になる。なら貴方を旗頭にして、正面から乗り込んでも問題ないのでは?」
「いやいや、それはマズいぞ。お主の力を疑う訳では無いが、それだと余計な血が流れる事になる。あんなバカ息子に仕えているとは言え、兵達には何の罪も無いんじゃからな」
うむむ、俺としては手っ取り早く終わらせたかったんだが、どうも強硬策はお気に召さないらしい。となると、当初の予定通りベルナルドだけをやる事になる。もっとも、アルフォンソが居るので必ずしもベルナルドを殺す必要は無くなった。捕らえて法の裁きを受けさせればいいのだ。
「あの…エスト様。話が見えないのですが…。その方は結局どちら様でしょうか?」
ついて来るように言ったものの、事情がサッパリ分からないルシノアが置いてけぼりを喰らっていた。
「悪い悪い。ええと、この方はガルシア王国の正当な王なんだよ。現国王はこの方の息子で、アルフォンソ様を無理矢理幽閉して王の座を簒奪したんだ」
「ガルシアの!?で、ですが何故そんな方がここに…!それに、この事をリムリック王子にお伝えしなくてよろしいのですか?」
確かに事が事だけに王子に報告して判断を仰ぐのが最善かも知れない。しかしこれはあくまでもガルシア国内のお家騒動。国王の暗殺だけでも大問題なのに、これ以上グリトニルを介入させたら騒動が終わった後になっても絶対しこりが残る。対魔族で一致団結したい俺としては、その事態だけは避けたかった。俺は興味深げにこちらを見るアルフォンソに向き直ると、一つの提案をする事にした。
「アルフォンソ様。グリトニルが暗殺を企てた事を不問にしろとは言いません。しかし、貴方が玉座に返り咲くお手伝いをする事で、今回の一件を相殺とはいきませんか?その方がお互いのためになると思うのですが」
図々しいともいえる俺の提案に、アルフォンソは怒るどころか不敵な笑みを浮かべた。その顔は先ほどまでのくたびれた老人とはまるで違って生気に溢れ、下手に手を出せば逆襲にあいそうな老獪さを感じさせる。
「ふふ…ぬけぬけとよく言うわ。しかし気に入った!よかろう、お主の力で見事ベルナルドを捕らえてみせたら、今回の一件は不問にいたそう」
「決まりですね。ではベルナルドを捕らえる際にはお迎えに上がります。それまでこの城でお寛ぎ下さい。ルシノア、そう言う事なんで頼むよ」
「は、はい。お任せください」
顔にこそ出さなかったが、話がまとまって俺は内心ほっとしていた。シーティオやミレーニアの時と違い、今回企んだベルナルドの暗殺については正当性が皆無だったからだ。とにかく、これで気兼ねなく偽王ベルナルドを捕まえる事が出来る。明日からの本番はいつも以上に気合を入れるとしよう。
0
書籍第1~4巻が発売中です。
お気に入りに追加
3,303
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
初期ステータスが0!かと思ったら、よく見るとΩ(オメガ)ってなってたんですけどこれは最強ってことでいいんでしょうか?
夜ふかし
ファンタジー
気がついたらよくわからない所でよくわからない死を司る神と対面した須木透(スキトオル)。
1人目は美味しいとの話につられて、ある世界の初転生者となることに。
転生先で期待して初期ステータスを確認すると0!
かと思いきや、よく見ると下が開いていたΩ(オメガ)だった。
Ωといえば、なんか強そうな気がする!
この世界での冒険の幕が開いた。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。