139 / 258
連載
第286話 心配事
しおりを挟むガルシア王国に戻った俺は、まず宿に泊まったままのクレア達をつれてアミルの家に向かう事にした。身重のレレーナはここ数日クレア達と過ごした事で随分気分が晴れたようで、今日も機嫌が良さそうだ。たまたま仕事が休みだったアミルも家に居たので、この際まとめて説明する事にしよう。
「みんなに報告する事がある。実はな…」
俺が昨日の会見と書状の内容を話すと、アミルとレレーナが深刻な表情で黙り込んでしまった。ガルシアが侵略戦争を目論んでいる事、それにグリトニルに協力を求めている事などだ。降って湧いたような戦争話に動揺するレレーナに、クレア達が心配そうに寄り添っている。
「…まさか本当に戦争する気だったのかよ。なんでだ?ガルシアは今でも十分豊かじゃないか」
「戦争になるって…じゃあアミルはどうなるの?騎士なら従軍するんじゃ…」
そう。戦争になるとしたら、王国の騎士であるアミルは絶対に駆り出される事になる。全ての騎士が出征する訳でもないだろうが、安全な領内での治安維持活動などは貴族の子弟やそれに準じる身分の者が優先的に回されると素人でも予想がつく。貴族でも何でもない平民出身のアミルでは前線行きが相場だろう。
「レレーナ…」
「アミル…」
お互いの身を案じた二人は固く抱きしめ合う。アミルが戦死でもすれば残されたレレーナは子供を抱えて路頭に迷う事になるし、アミルにしたって生まれてくる子供とレレーナを残して死にたくはないはずだ。
「安心しろ二人とも。そのためにこれから俺が動くんだから」
二人を安心させるためにも俺はそう言い切ったのだが、言われた当人達は俺の言葉から何か不穏なものを感じ取ったのか、不審な目を向けてくる。
「…おいエスト、お前一体何する気だ?」
「国王を説得する。失敗すれば力ずくで排除だ」
気軽に言った俺の言葉に、アミルとレレーナの二人は固まってしまった。俺が王族と喧嘩して来たところを何度も見てきたクレア達は平然としているが、これが普通の反応なのだろう。
「お、お前それ…!自分で言ってる事わかってるのか!?」
「暗殺しようって言うの…?」
俺にとってはただのおっさんでも、アミル達にとっては自分が仕える王でもあり、夫の主君でもある存在だ。それを排除するとキッパリ言い切られては、心穏やかでいられないのかも知れない。二人とも血の気の引いたような青い顔になってしまった。
「殺さずに済めば良いが、そればっかりはやってみなければ解らないさ。とりあえずそっちの事は俺に任せてもらうとして、問題なのはレレーナの安全確保だ」
「ご主人様、どう言う事ですか?」
「うん、つまりね…」
俺がガルシア国王と同じ立場になって考えた場合、今回の侵略戦争を快く思わないグリトニルがどんな手を打ってくるか考えた場合、最も警戒するのが暗殺だと思う。普通の暗殺者なら城の警備で何とでもなるだろうが、グリトニルには勇者呼ばわりされている俺が居るのだ。自分で言うのもなんだが、最も強力なカードを切って来るのは簡単に予想できる。
どれだけ数を揃えようと力ずくで突破してくる者が居る。その場合どう対抗するだろうか?答えは簡単、人質だ。俺がアミル達と昔パーティーを組んでいた事など、少し調べれば簡単に解る。騎士団の団長やアミルの部下などの口から人伝に伝わる可能性が高いからな。アミルは城勤めだからいつでも身柄を確保できるし、命令一つで行動を制御する事が出来る。だがレレーナはどうか?身重の彼女は戦う事も逃げ出す事も難しいし、俺やクレア達とも親しくしている。人質としてこの上ない人選だろう。俺が国王なら真っ先に狙うのがレレーナだ。
「と言う事で、レレーナには決着がつくまで俺の領地に来てもらうか、この街に留まる場合クレア達と一緒に行動してもらおうと考えてる。アミルは城仕えだから連れていけないけどな」
「本当にやる気かよ…お前を止めるために俺が国王の側仕えになったらどうするつもりなんだ?」
「安心しろ。その時は一撃で気絶させてやる。殴り倒されるのを見たら誰も文句言えないだろ?」
「………」
何が気に入らないのか、なぜかジト目で見てくるアミル。他に方法が無いんだから仕方が無いだろうに。そんなアミルをよそに、しっかり者のレレーナは素早く決断を下したようだ。
「そう言う事なら、私はエストの領地で結果を待ちたいわ。そこ以上に安全な場所なんて無いでしょうしね」
「なんならずっと住んでてくれても良いぜ。人手は足りてないんだし、家は他より給料も良いしな。もし今回の騒動が原因でアミルが首になっても、俺の領地で働くといい。それが嫌ならリムリック王子に言ってグリトニルの騎士にしてもらうのも良いかもな。それぐらいの頼みなら聞き入れてくれるだろ」
「簡単に言うよなお前は…まあそう言う奴だけどさ」
どこか諦めの混じったため息を吐いたアミルは自分の両頬をぴしゃりと叩き、一つ気合を入れ直す。
「そう言う事ならレレーナの事はお前に任せる。俺の事は心配しなくていい。自分で何とか出来るだろ」
「そうしてもらわんと困るぜ。お前が人質に取られるとか面倒な状況は避けたいからな」
「安心しろ。そこまでヤワな鍛え方はしてないつもりだ」
平民出身のアミルにとって、国王に対しての忠誠心などたかが知れているだろう。たぶん会社の社長に敬意を払う程度の認識しか持ち合わせていないのかも知れない。ま、結局誰しも大事なのは自分と自分の家族だからな。
とにかくこれで心配事の一つは減った。後は俺が実際に動くだけだ。
0
書籍第1~4巻が発売中です。
お気に入りに追加
3,303
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
初期ステータスが0!かと思ったら、よく見るとΩ(オメガ)ってなってたんですけどこれは最強ってことでいいんでしょうか?
夜ふかし
ファンタジー
気がついたらよくわからない所でよくわからない死を司る神と対面した須木透(スキトオル)。
1人目は美味しいとの話につられて、ある世界の初転生者となることに。
転生先で期待して初期ステータスを確認すると0!
かと思いきや、よく見ると下が開いていたΩ(オメガ)だった。
Ωといえば、なんか強そうな気がする!
この世界での冒険の幕が開いた。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。