ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第286話 心配事

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ガルシア王国に戻った俺は、まず宿に泊まったままのクレア達をつれてアミルの家に向かう事にした。身重のレレーナはここ数日クレア達と過ごした事で随分気分が晴れたようで、今日も機嫌が良さそうだ。たまたま仕事が休みだったアミルも家に居たので、この際まとめて説明する事にしよう。

「みんなに報告する事がある。実はな…」

俺が昨日の会見と書状の内容を話すと、アミルとレレーナが深刻な表情で黙り込んでしまった。ガルシアが侵略戦争を目論んでいる事、それにグリトニルに協力を求めている事などだ。降って湧いたような戦争話に動揺するレレーナに、クレア達が心配そうに寄り添っている。

「…まさか本当に戦争する気だったのかよ。なんでだ?ガルシアは今でも十分豊かじゃないか」
「戦争になるって…じゃあアミルはどうなるの?騎士なら従軍するんじゃ…」

そう。戦争になるとしたら、王国の騎士であるアミルは絶対に駆り出される事になる。全ての騎士が出征する訳でもないだろうが、安全な領内での治安維持活動などは貴族の子弟やそれに準じる身分の者が優先的に回されると素人でも予想がつく。貴族でも何でもない平民出身のアミルでは前線行きが相場だろう。

「レレーナ…」
「アミル…」

お互いの身を案じた二人は固く抱きしめ合う。アミルが戦死でもすれば残されたレレーナは子供を抱えて路頭に迷う事になるし、アミルにしたって生まれてくる子供とレレーナを残して死にたくはないはずだ。

「安心しろ二人とも。そのためにこれから俺が動くんだから」

二人を安心させるためにも俺はそう言い切ったのだが、言われた当人達は俺の言葉から何か不穏なものを感じ取ったのか、不審な目を向けてくる。

「…おいエスト、お前一体何する気だ?」
「国王を説得する。失敗すれば力ずくで排除だ」

気軽に言った俺の言葉に、アミルとレレーナの二人は固まってしまった。俺が王族と喧嘩して来たところを何度も見てきたクレア達は平然としているが、これが普通の反応なのだろう。

「お、お前それ…!自分で言ってる事わかってるのか!?」
「暗殺しようって言うの…?」

俺にとってはただのおっさんでも、アミル達にとっては自分が仕える王でもあり、夫の主君でもある存在だ。それを排除するとキッパリ言い切られては、心穏やかでいられないのかも知れない。二人とも血の気の引いたような青い顔になってしまった。

「殺さずに済めば良いが、そればっかりはやってみなければ解らないさ。とりあえずそっちの事は俺に任せてもらうとして、問題なのはレレーナの安全確保だ」
「ご主人様、どう言う事ですか?」
「うん、つまりね…」

俺がガルシア国王と同じ立場になって考えた場合、今回の侵略戦争を快く思わないグリトニルがどんな手を打ってくるか考えた場合、最も警戒するのが暗殺だと思う。普通の暗殺者なら城の警備で何とでもなるだろうが、グリトニルには勇者呼ばわりされている俺が居るのだ。自分で言うのもなんだが、最も強力なカードを切って来るのは簡単に予想できる。

どれだけ数を揃えようと力ずくで突破してくる者が居る。その場合どう対抗するだろうか?答えは簡単、人質だ。俺がアミル達と昔パーティーを組んでいた事など、少し調べれば簡単に解る。騎士団の団長やアミルの部下などの口から人伝に伝わる可能性が高いからな。アミルは城勤めだからいつでも身柄を確保できるし、命令一つで行動を制御する事が出来る。だがレレーナはどうか?身重の彼女は戦う事も逃げ出す事も難しいし、俺やクレア達とも親しくしている。人質としてこの上ない人選だろう。俺が国王なら真っ先に狙うのがレレーナだ。

「と言う事で、レレーナには決着がつくまで俺の領地に来てもらうか、この街に留まる場合クレア達と一緒に行動してもらおうと考えてる。アミルは城仕えだから連れていけないけどな」
「本当にやる気かよ…お前を止めるために俺が国王の側仕えになったらどうするつもりなんだ?」
「安心しろ。その時は一撃で気絶させてやる。殴り倒されるのを見たら誰も文句言えないだろ?」
「………」

何が気に入らないのか、なぜかジト目で見てくるアミル。他に方法が無いんだから仕方が無いだろうに。そんなアミルをよそに、しっかり者のレレーナは素早く決断を下したようだ。

「そう言う事なら、私はエストの領地で結果を待ちたいわ。そこ以上に安全な場所なんて無いでしょうしね」
「なんならずっと住んでてくれても良いぜ。人手は足りてないんだし、家は他より給料も良いしな。もし今回の騒動が原因でアミルが首になっても、俺の領地で働くといい。それが嫌ならリムリック王子に言ってグリトニルの騎士にしてもらうのも良いかもな。それぐらいの頼みなら聞き入れてくれるだろ」
「簡単に言うよなお前は…まあそう言う奴だけどさ」

どこか諦めの混じったため息を吐いたアミルは自分の両頬をぴしゃりと叩き、一つ気合を入れ直す。

「そう言う事ならレレーナの事はお前に任せる。俺の事は心配しなくていい。自分で何とか出来るだろ」
「そうしてもらわんと困るぜ。お前が人質に取られるとか面倒な状況は避けたいからな」
「安心しろ。そこまでヤワな鍛え方はしてないつもりだ」

平民出身のアミルにとって、国王に対しての忠誠心などたかが知れているだろう。たぶん会社の社長に敬意を払う程度の認識しか持ち合わせていないのかも知れない。ま、結局誰しも大事なのは自分と自分の家族だからな。

とにかくこれで心配事の一つは減った。後は俺が実際に動くだけだ。
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