ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第285話 計画

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交渉がまとまらず引きつった笑顔を浮かべるクロウらグリトニルの面々を、盛大にもてなす宴が執り行われた。それはまるで現在のガルシアの国力を見せつけるかの様に派手なものだった。表向き歓待された俺達は土産を持たされた後すぐさま帰国の途につき、結果を待ちわびているリムリック王子の下に赴くのだった。

「申し訳ありませんリムリック王子。このクロウ、色よい返事を持ち帰る事が出来ませんでした」
「…そうか」

不首尾に終わった交渉を詫びるクロウが王子に向けて、今回の土産であるガルシア国王ベルナルドから託された一通の書状を差し出した。その書状を開き読み始めた王子の顔がみるみる険しくなる。一体何事が書いてあるんだろうか?

「なんだこれは!ふざけてるのかガルシア国王は!」

いきなり激高した王子に俺とクロウは驚いて声も出ない。いつも冷静な王子らしからぬ感情の高まりに、ただ呆気にとられるしかなかった。

「王子?…一体何が…」

恐る恐る尋ねるクロウに、王子は苦虫を噛み潰した様な表情で書状を突き出す。読んで見ろと言う事だろう。差し出された書状を受け取ったクロウが読み始めると、彼も王子同様厳しい表情になった。一人蚊帳の外に置かれた俺に、少し落ち着きを取り戻した王子が説明してくれる。

「…簡単に言うと、ガルシアがシーティオを攻めるのに協力しろと書いてある。もしグリトニルが協力するなら占領したシーティオの一部を割譲し、グリトニルの飛び地として統治する事を認めると」
「…協力が望めない場合でも、手出し無用と書いてありますね。もし手を出せば報復するとハッキリ言いきっています」

やはり噂は本当だったか。それにしてもこの条件、捕らぬ狸の皮算用どころではないぞ。まだ勝つどころか始まってもいない戦争のその後をどうするかの条件提示だ。

「舐めているにも程がある。仮にグリトニルが協力してシーティオを占領したとしよう。だが直接国境を接している訳でもないグリトニルがまともな統治をする事など出来ると思うか?困難極まりないぞ。それに、割譲する約束を必ず守る保証がどこにある?」
「それどころか、下手に協力すれば国力を増強したガルシアが戦争で疲弊したこちらに牙をむく危険すらあります」

ガルシア国王ベルナルドのこの自信はどこから来るのだろうか?正直言って俺には解らない。この大陸にあるすべての国に足を運んだ実感として、多少の差異はあれど国力などどれも似たり寄ったりだと思うのだが…。確かにガルシア以外の国はどの国も魔族に引っかき回されてはいるが…と、そこまで考えて魔族が関わっている可能性に思い至った。その線もあるのか。

「まさか、魔族が関係しているのでは?」
「…私もそれは考えたが、可能性は低いと思う。こちらが把握している限り、ここ十年王族や重臣に大きな入れ替わりなどは無いんだ」
「違いますか。では昔からベルナルド国王が野心を持っていて、シーティオの王が倒れたこの機を逃さず挙兵しようと考えた?」
「そう考えるのが妥当だろうな」

それきり王子は完全に沈黙してしまい、部屋は重苦しい雰囲気に包まれる。眉をしかめたまま目を閉じた王子は深く考えを巡らせてているようだ。実際問題、ガルシアがシーティオに戦争をふっかけるつもりであっても、グリトニルが出来る事などたかが知れている。せいぜい抗議するか経済的なやり取りを止めるぐらいしか手が無いだろう。

「それで、こちらとしてはどうするんですか?」

沈黙を破って口を開いた俺を、王子は目を開いて静かに見つめる。どうやら考えがまとまったようだな。

「勿論こんな事には協力出来ないし、するつもりも無い。どんな手段を用いてもベルナルド国王の考えを改めさせる必要がある。今は人間同士が争っている場合ではないからな」
「…具体的には?」
「幸いガルシア国王には一人息子がいる。気弱で虚弱、とても国王の務まる人間ではないが、彼に王位を譲ってもらうのが一番だろう。だがその為には…」

説得などするだけ無駄。反発されるだけだろう。ならばどうするか?力ずくで交代してもらうしかないと言う訳だ。口に出さなくても王子がそう考えている事ぐらいは解る。そしてそれが出来る唯一の力を持つのが俺だけだと言う事も。

「やりますよ。それしか方法がないのなら」
「………嫌な役目を押し付けるな。すまん」
「気にする必要は無いでしょう。俺には切った張ったしか出来ないんだから」

肩をすくめる俺を、王子が申し訳なさそうに見つめる。本当に気にする必要は無いんだがな。俺は何も全世界の平和のためだとか、ガルシアやシーティオの国民の為とか大そうな事を考えて引き受けた訳では無い。要塞線の構築に失敗して魔族の侵攻を容易にし、俺の仲間が危険に晒されるのが嫌なだけなのだ。そのためならいくらでもこの手を血に染める覚悟がある。

「エスト、これを持って行け」

そう言うと、王子は机の引き出しの中から一つの指輪を取り出した。真っ黒で何の装飾もされていないその指輪からは、どこか禍々しい気配すら感じる。

「これをつければ他者からステータスの確認を妨害出来る様になる。汚れ仕事にはもってこいの指輪だろう?」

どこか皮肉気な笑みを浮かべた王子から指輪を受け取り、さっそく指にはめてみる。…呪いのアイテムとかじゃないだろうな?

「…どこでこんな物を手に入れたんですか?」
「以前壊滅させた暗殺組織が所持していた物だ。何かの役に立つかと思って取って置いたが、まさかこんな使い道があるとはな」
「なるほど」

とにかく方針は決まった。今はあの野望に燃える国王を止める事が最優先だ。なるべく穏便な手で解決するのが望ましいが、無理なら力ずくでご退場願おう。俺は王子に別れを告げ、ガルシア王国に転移するのだった。
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