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第283話 シャリーの猛攻
しおりを挟む中の上ぐらいの宿に部屋を取った俺達は翌日明るいうちに買い物や買い食いを楽しんだ後、日が落ちてからアミルの家を尋ねる事にした。以前も訪れた事のある集合住宅の明かりが漏れるドアをノックすると、間を置かずに内側から扉が開かれた。
「エスト、それにクレア達も!いらっしゃい。久しぶりね!」
ドアを開けてくれたのはレレーナだ。以前のストーカー騒ぎの時は少しやつれた印象だったが、今は血色もよくどこかふっくらとしている感じがする。冒険者を辞めて少し太ったんだろうか?少し気にはなったが、女性の体形の事を無暗に口にすると血の雨が降るから止めておこう。
「お邪魔します。これお土産」
「わざわざありがとう。わ、これ凄く高いお肉じゃないの?」
手ぶらで尋ねるのもどうかと思ったので、今回は手土産を用意するために昼間王都で買っておいた。何の肉かは解らないが、肉屋の主人が自信をもってお勧めする高級食材なので間違いはないだろう。もちろん大食漢が二人ほど居る俺達がお邪魔するのだから量の方も多めに買ってある。
「クレアもディアベルも元気そうね。シャリーは少し背が伸びたかしら?あら、貴方がアミルの言っていたレヴィアさんね?私はレレーナ。よろしくね」
「お久しぶりですレレーナさん」
「元気そうで何よりだ」
「シャリーおっきくなったよ!」
「レヴィアよ。よろしくお願いするわ!」
女性陣が旧交を温め合っていると、奥の部屋から私服姿のアミルが出て来た。どうやら着替えていたようだ。
「悪い悪い。さっき帰ったところだったから」
「おう。邪魔してるぞアミル」
手土産の肉を主にして、ささやかながら再会と出会いの宴が始まった。人数が人数だけに料理をするだけでも大騒ぎだ。これだけ良い肉なら下手に調理しなくても簡単な味付けだけで美味しいはずだし、俺が率先して肉を切り分けるバーベキュー方式を取らせてもらった。
「おいしいー!」
「本当ね!こんなの食べた事無いわ!」
「グワッ」
先を争うように食べるシャリーとレヴィアの二人が居ても、肉の焼き上がる速度の方が上だ。魔法で火力を調節するから全員問題なく食べられる。鍋奉行ならぬ肉奉行と化した俺が次々に肉を切り分けている横で、アミルが肉の入った皿をレレーナに差し出している。
「レレーナもいっぱい食べなよ。大事な体なんだから」
「ありがとうアミル」
…アミルの奴、なんか今聞き捨てならないフレーズを口にしなかったか?大事な体?どう言う事?栄養を必要とする少し太ったようなレレーナ…そこから導き出される結論と言えば、まさか…
「な、なあ。レレーナがどうかしたのか?」
若干震え気味の声で尋ねる俺から目線を逸らせたアミルは、どこか照れくさくも嬉しそうな、微妙な表情で驚愕の事実を告げる。
「ん…実はな。今レレーナは妊娠してるんだ」
『ええー!』
驚いた。まさか子供が出来ているとは………皮を被っててもちゃんと出来るんだ…じゃなくて、十七、八でもう父親と母親なのか。前世の基準からすれば随分早いが、この世界ではこれでも普通なのかな。
「そっか、それはおめでとう。子供が生まれたら何かお祝いしないとな」
「へへ、ありがとうな」
満面の笑みを浮かべるアミルを直視できない。なんだろう。めでたい事なのに何故か敗北感を感じている自分が居る。思えばこっち方面ではアミルに先を越されっぱなしなんだよな。それにしても妊娠か…レレーナも嬉しそうだし、今二人は本当に幸せなんだなと俺が感慨にふけっていると、何者かが俺の袖をクイクイと引っ張ってくる。誰かと思えばシャリーだ。肉のお替りかと思ったがテーブルの上にはまだまだ手つかずの肉があった。
「どうしたのシャリー?」
「ご主人様、にんしんてなーに?」
瞬間、場が凍り付いた。目を泳がせながら咄嗟に色々考えを巡らせるが、何と答えたものか良い案が思いつかない。助けを求めて周りを見てもアミルやレレーナはおろか、クレアやディアベルでさえ気まずそうに目を合わせようとしなかった。薄情者め!
「ねえ、にんしんてなーに?」
「えっとな…妊娠て言うのは、お腹の中に赤ちゃんが出来る事を言うんだよ」
「赤ちゃん?赤ちゃんはどうやってできるの?」
「ぐはあっ!!」
誤魔化そうとしたら更に強烈な攻撃が追い打ちをかけてきた。説明しろと言うのか。この幼女に子供の作り方を。俺にそんなアブノーマルなプレイをしろと言うのか!
「えっと、赤ちゃんて言うのは…雄しべと雌しべがごっつんこ的な?アレがアレして発射オーライ的な作業を…」
「なにそれ全然わかんない!」
しどろもどろになる俺にシャリーは容赦なく追撃をしかけてくる。駄目だ。俺にはハードルが高すぎる。誰か…誰でもいい!何とかしてくれ!助けてくれ!いや、助けて下さい!今までにない窮地に絶望しかけたその時、横合いから救いの手が差し伸べられた。誰を隠そうこの騒ぎの中心人物レレーナだ。
「えっとねシャリー。赤ちゃんは好きな人と結婚して、毎日真面目に暮らしていたらご褒美として神様が授けて下さるのよ。シャリーも大きくなって好きな人が出来たら、神様にお願いしてみるといいわ」
「ふ~ん…そっかぁ。神様が赤ちゃんくれるんだ」
流石!近々親になる人は言う事が違うね。シャリーも今の説明で納得したのか再び食事を再開させた。それを見てホッと安心したのは俺だけではないはずだ。
「はぁ~…危なかった…」
「エスト、ちょっと」
疲れが一気に押し寄せて椅子にだらしなく座る俺に、声をかけてきたアミルが奥の部屋に来るように促す。どうやら昨日言ってた言いにくい話ってのをするつもりなんだろう。クレア達はクレア達で盛り上がっているようだし、俺達二人が抜けたところで問題あるまい。俺はすぐさま席を立つと、アミルに続いて別室に移動した。
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