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第282話 気になる態度
しおりを挟む「じゃあコイツの事頼むな。俺は少し休憩してくるよ」
「了解しました」
アミルはそう言うと、自分と共に暴漢を追いかけてきた騎士達に捕らえた男を押し付けた。言われた方も特に文句を言うことなく大人しく従っている。なんか命令し慣れてるって感じだな。これじゃまるでアミルの部下みたいなんだが。
「さ、行こうぜ。取りあえず飯でも食おう」
「それはいいけど、お前もしかして出世したのか?」
「まあな。剣の腕を買われて今は小隊の隊長をやってるよ」
チラリとアミルを観察してみたら現在のレベルは45になっていた。俺達と別れた時が39だったから、別れた後も自力で結構鍛えてたみたいだ。それにしてもアミルが隊長か…歳は若いが、持ち前の明るい性格で部下に慕われているのだろうなと何となく予想できる。
慣れた足取りで先頭を歩くアミルの案内で入った所は、大衆食堂と言う表現がピッタリの店だった。まだ昼飯には早い時間帯なのに多くの客で店内は活況に満ちており、空いている席を探すのにも苦労したほどだ。注文を取りに来た女中に軽食を人数分頼み用意された冷水で喉を潤すと、突然改まった態度でアミルが頭を下げてきた。
「エスト、まずレレーナの事を感謝するよ。俺の居ない間に骨を折ってくれたんだってな」
「…あぁ、あの話ね。別にいいよ。気にするな。レレーナは俺にとっても仲間だし、助けるのは当然だ」
以前王都でレレーナと再会した時のストーカーの一件だろう。あの時アミルは任務で王都を離れていたのだから随分心配していただろうな。アミル王都を離れる原因を作った副団長は社会的に抹殺したし、問題なく王都に戻れたようだ。
「レレーナも随分感謝していた。まだしばらくこの街に居るなら家に顔を出してくれよ。レレーナきっとも喜ぶ」
「ああ、明日にはお邪魔するつもりだよ」
俺達が話しているとさっきの女中が大きな盆に料理を乗せて戻って来た。大人達が話している横で退屈そうにしていたシャリーやドランなどは夢中になって食べ始め、頼んだ料理を次々と平らげていく。その様子を見たディアベルは慌てて追加注文し、我が家の食欲魔人達に抵抗しようとしていた。そんな様子を笑みを浮かべて眺めながらアミルは話を続ける。
「それにしても、別れてからのお前の活躍は凄いの一言だな。グリトニルやリオグランド、ファータにシーティオ。行く先々で名を上げてるじゃないか。一緒に冒険してた身としては鼻が高いよ。お前を騎士団に入れ損ねた団長は悔しがってたけどな。ところで…俺の知らない顔が居るんだが紹介してもらっていいか?」
アミルの視線はシャリー達と仲良く食事をしているレヴィアに向けられていた。そう言えばレヴィアが仲間になったのは最近だから、アミルとは初対面だったか。
「レヴィア」
「なあに兄様?」
突然呼ばれたレヴィアはキョトンとした表情だ。レヴィアは基本的に俺達以外の人間にはあまり興味を示さないので、初めて会うアミルより食事の方が重要らしい。
「コイツはアミルって言うんだ。レヴィアが仲間になる前一緒にパーティーを組んでた事もあるんだよ」
「よろしくな、レヴィアちゃん」
「へー、そうなんだ。じゃあ何かあったら兄様達の次ぐらいに守ってあげるね」
「ま、守る…?」
それだけ言うとレヴィアは戸惑うアミルを放っておいて食事を再開した。何も知らないアミルからすれば、とんでもない美少女ではあるが戦闘向きとは思えないレヴィアに守ると言われてもピンとこないだろう。ましてアミルは今や少ないとは言え配下を抱える騎士なのだ。
「…まあいいか。ところでエスト達はなんでガルシアに居るんだ?観光か?」
「いや、遊びには来ているんだが、俺だけ別の目的があってな」
あまり深く物事を考えないところは相変わらずだな。レヴィアの謎に満ちた返答に対して考える事を放棄したアミルに今回の目的を教えてやると、珍しく難しい顔をして黙り込んでしまった。
「どうかしたのか?」
「いや…すまん。教えてやりたいんだが、俺の立場では簡単に話せる内容じゃないんだ。それに場所も悪いしな…」
きょろきょろと周囲を見ながら警戒するその様子に、何となく大っぴらに話せない内容なのだと察する事が出来た。冒険者時代、あまり深く考えずに何でも話していたコイツが言葉を濁すぐらいなら、言い淀んだ内容は結構ヤバいのかも知れない。
「ま、とにかく明日家に来てくれよ。レレーナも待ってるし。詳しい話はその時話そう」
それだけ言ううと、アミルは全員分の代金をテーブルに置いて足早に店を出て行ってしまった。…なんだったんだ一体?
「アミルさん、何か言いたそうでしたね」
「宮仕えの辛い所だな。世間話にも気を遣わねばならないとは」
心配そうにするクレアと淡々とした表情のディアベル。俺も気にはなるがそれほど心配する必要は無いと見た。今のあいつなら大概の事は自分で何とか出来るだろうし、詳しい話は明日家に行ってから聞けばいいだろう。
「それはそれとして…俺の飯は?」
すっかり空になった目の前の皿には、肉片の欠片もついていない骨が何本か入っているだけだった。言わずとも犯人は解る。口の周りを汚して気まずそうに視線を逸らす者が若干二名目の前に座っているからだ。
「シャ、シャリー知らないよ…」
「私は…食べてないわ」
ジト目で見る俺から必死に視線を逸らせるシャリーとレヴィア。その様は悪戯を見つかった犬の様だ。まったく…なぜすぐにバレる嘘をつくのか。
「正直に言わない子は、この後の屋台巡りに連れてかないよ」
「シャリーが食べた!」
「私も食べたかも知れないわ!」
いきなり自白した二人にデコピンを一発ずつお見舞いして、みんなで店を出る事にする。アミルの態度は気になるが、考えるのは実際に話を聞いてからにしよう。今はとにかく腹ごしらえだ。
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