ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第268話 顔合わせ

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リムリック王子の意思を無視して勝手に話をまとめた俺は、即座に転移してグリトニル聖王国に戻った。ちょうど諜報機関本部で書類仕事をしていた王子にばったりと出会ったので、これ幸いとさっきまとまった話を打ち明けると、王子はその場で頭を抱えて呻き始めた。

「……無茶な男だと思っていたが、今回ばかりは極め付けだ。どこの世界に人の縁談を勝手に決めてくる奴が居るんだ!君は私の父親か!?」
「おっしゃる事は解りますけど、冷静に考えてみてください。王子は一人っ子で婿に入る事は出来ない。しかし王子とスフィリ王女の子供がバックスの王となれば、将来的に両国は一つ…とまでは言わないものの、お互い無くてはならない存在になるでしょう?グリトニルには今まで独占されていたドワーフ達の優れた技術や工芸品が流れ込むし、それを売り捌く事で多大な利益を得る事が出来るんですよ?バックスはバックスでグリトニルの上質な酒や食料品が普及する。お互いの国にとって美味しい事ばかりじゃないですか」
「…それは解るが…君、こういう時だけ嫌に饒舌になるじゃないか」

恨めしそうな目でこちらを見つめるリムリック王子に、俺は前世で培った営業スマイルを向ける。実際今俺が言った事は現実に起こり得る事だし、結婚さえしてしまえば子供の事も簡単に解決すると考えられる。王子とスフィリの種族的な寿命から考えて、王子が老いて死ぬ頃には複数人の子供が出来ていてもおかしくない。なにせ花嫁は100年以上若いままでいられるのだから。

「それにスフィリ王女は可愛い人ですよ。王子が好みそうな幼い容姿をしています」

その瞬間、王子の肩がピクリと動いたのを俺は見逃さなかった。この男、やはりロリコンの気がある。でなければ、絵に描いたような王子様なのにずっと独り身でいるはずがない。王子ほど器量が良ければ縁談話はひっきりなしに持ち掛けられるだろうからな。

「幼い容姿って…それじゃ…まるで私がそう言う趣味の持ち主みたいじゃないか」

普段の冷静さはどこへやら。王子の目が泳いでいる。全然誤魔化しきれていないんだが、ここで下手に煽ると意固地になる事も考えられる。ここは目を瞑るのが得策だ。

「まあそれは置いといて、とにかく一度会ってみませんか?お互い気に入れば正式に話を進めたらいいし、断るのはいつでも出来るし。そうですね、それがいい。では今から行きましょう」
「お、おい…!」

このまま勢いで押し切ってやれ。俺はまだ戸惑っているリムリック王子の肩をむんずと掴むと、強引にリギン達の下に戻る。さっきの鍛冶場まで戻ってみれば既にリギンの姿は無く、スフィリ一人が完成した鎧の前で待っていた。

「こ、ここは…?熱いな。鍛冶場か」
「王子、あの方がスフィリ王女です」

突然違う場所に連れて来られてきょろきょろしている王子の視線を、畏まっているスフィリに向けると王子は石のように固まってしまった。

「可憐だ…」

ボソリ…と、口から洩れた言葉を俺は聞き逃さなかった。これは惚れたな?直接合わせる作戦は思った以上に効果てき面だったな。スフィリの方も王子同様固まっていて、その目はまっすぐ王子に向けられ言葉も無いようだ。

「スフィリ王女、紹介します。こちらはグリトニル聖王国のリムリック王子。王子、こちらが先ほどお話ししたスフィリ王女です」
「あの…は、初めましてリムリック王子。スフィリと申します」
「あ…こちらこそ初めまして。グリトニル聖王国のリムリックです」

二人ともそれだけ言うと黙り込んでしまった。だが決して相手を嫌がっている雰囲気など無く、お互いに好印象を持っているのが第三者から見ても解るほどだ。これはくっつくのも時間の問題だろう。となれば、俺が出来る事はただ一つ。気を利かせてしばらくこの場を離れるべきだ。

「では後は若い者同士に任せて、私達はおいとましますかね…」
「若い者って…君が一番年下だろう」
「私達って、一人しか居ないのに…」

二人が何か言っているが、俺は無視してその場を後にする。あの二人なら放っておいても大丈夫だろう。仮にもお互い王族なのだし、話題には事欠かないはずだ。現時点で気になるのはグリトニルとバックス両方の国民が異種族を王家の人間として受け入れるかどうかだが、それは考えるだけ無駄だ。なるようにしかならない。

二人が仲を深めている間、こっちはこっちでやる事がある。さっきの乱闘騒ぎで廃人のようになっていた使節団の面々に、事情を説明しに行かなければならないのだ。急ぎ足で広間を目指して歩いていると、廊下の向こうからフラフラとした足取りでこちらに向かって来る使節団と遭遇した。全員顔色が悪く、その頼りない姿はまるで幽鬼のようだ。

「あ、どうも皆さん。今回は交渉が上手くいって良かったですね」
「…上手く…いった?あれで!?ふざけるなよおおおおっ!!」
「うおっ!?」

何が気に障ったのか知らないが、クロウは物凄い形相で掴みかかって来たと思ったら俺の胸ぐらを掴み上げる。文官である彼の腕力などたかが知れているが、その迫力には逆らえない何かがあった。

「お、落ち着いてくだ…」
「これが落ち着いていられるか!どこの世界に他国の王を殴り倒す交渉役が居るんだ!居る訳ないし居ちゃいけないんだよそんな奴は!!今回はたまたま丸く収まったからいいものの、他の国だと良くて国交断絶!悪くすれば戦争だ!自分が何やったか解ってるのかーっ!」
「だ、大丈夫ですよ。俺もそれぐらい考えてますって。ドワーフは頑固者の集まりなんだし、言葉で語るより拳で語った方が手っ取り早く交渉できると思って…」
「拳で語るのを交渉とは言わねーよ!!」

クロウってこんな人だったっけ?もっと物腰の穏やかな人だと思ってたけど、かなりヒートアップしている。一通り不満をぶちまけて気がすんだのか、彼は急に焦った表情で今後どうするかを考え始めたようだ。

「こんな事が王子に知られたら私はどんな罰を与えられるか…!何とかして今から口裏を合わせなくては…」
「あ、ごめん。王子ならさっき連れてきました」

瞬間、今まで騒いでいたクロウが石化した。いや、したように見えた。…人間、本当にショックな事があると、立ったまま気絶するんだなぁと、妙な所で感心してしまう。

「クロウ様!?お気を確かに!」
「諦めてはいけません!こうなったら王子が根負けするまで謝り倒しましょう!」

同じ使節団の面々が、意識をこの世から手放しそうなクロウに向かって必死の声援を送っている。大変なんだな、文官て。

「とりあえず落ち着いてください皆さん。王子をここに連れて来たのはある思惑があったからです。今から説明するので話を聞いてもらえますか?」

半分死人の様になっている彼等に王子を連れて来た事情を説明する事にした。事情さえ聞けば彼等の生気も戻って来ると思う。俺はそんな彼等の為に、出来る限り楽観的に王子とスフィリ王女の事を話し始めたのだ。
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