115 / 258
連載
第262話 素材
しおりを挟む「バックス王の娘?それがどうしてこんな所に居るのです?」
「そ、それは…」
ファフニルに敵意は無いのだろうが、見上げるほど巨大なドラゴンに詰問されたスフィリはタジタジだ。お付きのドワーフ達は彼女を守るつもりなのか、前に立って精一杯背を逸らしているが、悲しい事に傍から見ると子供が背伸びをしている様にしか見えない。このまま彼女達に任せて置いたら埒が明かないので、代わりに俺が説明する事にする。さっき聞いたばかりの彼女達の事情を説明すると、ファフニルは「ふむ」とだけ呟いて突然姿を消した。
『消えた!』
いや、正確には消えたのではなく、人間形体に変身したのだ。巨大なドラゴンから突然人間のサイズに変われば消えたと錯覚するのも無理はない。驚くドワーフ達をよそに、ファフニルは静かな足取りでこちらに近寄ってきた。
「だ、誰?」
「もしかして…」
「今のドラゴン?」
「お察しの通り、彼女はファフニルさんですよ」
ドワーフ達はさっきから驚きっぱなしで可哀想に思えてきた。普段ファフニルやレヴィアの変身で慣れている俺には当たり前の事だが、ドラゴンが人間に変身できると言う知識は一般的ではないのかも知れない。
「ドワーフ達の事情は理解しました。それで、エスト。あなたがここに居る理由は何ですか?」
「俺は鎧の補修のために鱗を拾いに来ただけですよ。そしたら王女様達がドラゴンゾンビに襲われていたので、成り行きで助けただけです」
「…そう言えば先の戦いで攻撃を受けていましたね。私はてっきり、あなたが原因で問題でも起こしたのかと思いましたよ」
…リムリック王子と言いファフニルと言い、俺を知っている偉い人はどうして人の事を問題児扱いするのだろうか。渋い顔をしている俺に構わず、ファフニルはスフィリ達に向き直り思いがけない事を口にする。
「あなた方の言っている伝説の鉱石とやらには心当たりがあります。本当なら協力したりしませんが、今後エストの力になると言うなら何処にあるか教えてあげましょう」
「本当ですか!?」
「おお、まさか実在するとは!」
「こんなあっさり…」
突然の申し出に大喜びするスフィリ達。ファフニルが協力してくれるなら心強いが、その理由が引っかかる。俺の力になるとはどう言う意味だろうか?
「その鉱石とはグラン・ソラスやアイギスの盾と元を同じくする物。理性を失い狂ったドラゴンの魔石の事です。アイギスの盾程の性能は望めませんが、それでも魔力を流すと並大抵の鎧より防御力があるでしょう。鎧が完成した暁にはそれをエストに与えると約束なさい」
『え!』
俺とスフィリ達の驚きは意味が違う。スフィリ達の場合はせっかく作る鎧を手放す事に対してだが、俺にはそれより神の力を宿す装備の素材が解った方に驚いた。まさか魔石を素材に使っているとは思わなかった。言われてみれば、なるほどと納得出来る事だ。魔石と言うだけあってあれも一応石なのだし、それを鍛冶の素材に使ったとしても何ら不思議は無いのだろう。
「完成したらエスト殿に差し上げるのですか…」
「何を悩むのです?武具とは飾っておくより使ってこそ価値のある物。魔族との戦いが始まれば一番危険な場所に飛び込むエストに使わせる事こそ、鍛冶師名利に尽きると言う物でしょう?」
「魔族…?戦い…?あの、話が見えないのですが…」
そう言えば、彼女達はまだ魔族が侵攻してくると言う情報を知らないんだった。戸惑う彼女達に事情を説明すると、今日何度目か解らない驚きに絶句していた。
「魔族が…そんな…このままではバックスは…」
「安心なさい。その為にエストが各国を奔走しているのですから」
取り乱すスフィリ達をファフニルがなだめる。そこで俺を出しに使わないで欲しいんだがな…。ファフニルの言葉にハッとした表情になったスフィリ達は、まじまじと俺を観察し始めた。俺に対してどんな噂を聞いていたのか知らないが、その目には若干の怯えが見える。
「異常に強いと思っていたら、あなたがあの勇者エスト殿だったのですね!?」
「逆らう者には容赦せず、勝手に家に上がり込んではタンスや壺をあさると言う…」
「狂犬のエスト!」
「ちょっと待て!」
誰が狂犬だ誰が。確かに勇者と呼ばれる人種は人の家に上がり込んでは住人の前で家探ししたり、鶏を剣で突き回して反撃されたりと残念な人々ではあるが、俺は未だかつてそんな事を一度だってした事が無い。風評被害もいいとこだ。
「あなたがあの勇者エストなら、鎧を差し上げるのに異存はありません。むしろ勇者が着用していたと話が広まれば、それを制作した者の名も上がると言う物です!」
今泣いたカラスがもう笑った。急にやる気が出てきたのか、スフィリは拳を握りしめてやる気に満ちている。彼女の頭の中では鎧が完成した後の事で幸せな未来を描いているのだろうが、肝心な事を忘れてやしないか?まだ鎧を作るどころか素材の入手さえしていないのだぞ。
「どうやら異存はないようですね。では今から案内します。私の背に乗りなさい」
バラ色の未来を思い描くスフィリの返事を待たず再びドラゴンの姿に戻ったファフニルは、俺達が乗りやすいように地面に腹ばいになる。必死でよじ登る彼女達を下から押し上げ最後に俺が飛び乗ると、ファフニルはその巨大な体をググッと起こし、大きく羽ばたき始めた。
「何処に向かうんですか!?」
風圧に負けないように踏ん張りながら、大きく声を張り上げる。
「今から向かうのは光竜連峰にあるバリエの渓谷。そこは理性と片翼を無くしたドラゴン、バリエが住処としている場所です。あの者を倒し、見事その魔石を手に入れて見なさい」
そう言うと、ファフニルはその巨大に似合わぬ圧倒的な速度で空を滑り始めた。
0
書籍第1~4巻が発売中です。
お気に入りに追加
3,303
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。