ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第260話 ドワーフの姫

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翌朝バックスの宿に戻ると、一階の食堂で食事を摂る使節団の面々がテーブルについていた。あまり食欲も無いのか小さなパンと水だけで他には何も無い。よほど昨日のバカ騒ぎが堪えたのだろう。

「おはようございます」
「…おはようございます。エスト殿は流石に冒険者だけあって顔色が良いですね。私達はあまりの騒がしさに寝不足ですよ」

本当の事を言うとこの宿には泊まっていなかったんだが、それをわざわざ説明する必要はない。余計な揉め事の原因になる。同じテーブルにつきながら寝不足を訴える彼等の表情をそれとなく観察すると、目元にうっすらと隈が出来ていた。たった一日で随分ダメージを受けたもんだな。

「あー…そんなに辛いなら滞在場所を他の街に変えますか?グリトニルでなくても、ガルシアやアルゴスの王都に行けば、宿ぐらいいくらでもありますし」

俺の提案に一瞬腰が浮きかけた彼等だがすんでのところで思いとどまったのか、再び席に着き食事を再開させた。

「ありがたい申し出ですが、出来ません。リムリック王子からはバックス国内の政情を事細かに調べてくるように申し付けられていますから、ここでサボる訳にはいかないのです」
「そうですか…じゃあ、適当に息抜きしたくなったら言ってください。一時的に他の街へ転移しますんで」

と言いつつ、自分の分の食事を平らげた俺は席を立つ。彼等は彼等で仕事があるだろうが、俺は俺でやる事があるのだ。

「エスト殿はどちらへ?」
「俺は光竜連峰に向かいます。先の戦いで鎧が破損したので、その材料を取りに行って来ますよ」

四天王の一人、弓のアルクに受けた不意打ちのおかげで背中の部分には穴が開いたままだ。これからの戦いは今まで以上に厳しい局面が多いだろうから、少しの損傷でも放置は出来ない。

「一人で竜達の住処へ?危険はないのですか?」
「いざとなったら転移で逃げますし、今の俺ならドラゴンの一匹ぐらい一人で対処出来ますよ」

これはハッタリでは無く十分に可能だと思っている。以前ドラゴンゾンビと戦った時に比べれば、レベルが倍ほども違っているので今戦っても一人で何とかなるだろう。それにゾンビならともかく、生きてるドラゴン達はファフニルの支配下にあるのだ。彼等が俺を攻撃してくるとも思えない。

「ドラゴンを一人で…お、お気をつけて」
「はい。では行って来ます」

若干引き気味な表情のクロウに別れを告げ、次の瞬間俺は竜の墓場に転移していた。前来た時に比べるとそれほど変わった様子も無く、新しいドラゴンの遺体が増えている様子も無い。念のためにマップスキルを展開してみたが、周囲にドラゴンらしき反応は見られなかった。だが、ドラゴン達の代わりに小さな反応がいくつかある。数は3つ。光点の大きさからして人間サイズだ。こんな所に人間がいる?不審に思ってその反応に近寄って行くと、背は低いが横幅のある体形の人影が二つと、小さな女の子らしき後ろ姿が現れた。

「あの体形はドワーフ?なんでこんな所にドワーフが…」

彼等は俺の気配に気づく事も無く、何やら一心不乱につるはしのような物を振り下ろしていた。あの様子からして目的は俺と同じくドラゴンの素材集めだろう。まだ比較的形の崩れていない真新しい遺体から採取をしようと頑張っている彼等だったが、その自分達がとりついている遺体の目が怪しく光っている事に気がついていないようだ。

「おい!すぐに離れろ!ドラゴンゾンビだ!」
『!』

突然の警告に驚いた彼等は手に持った道具を取り落とし慌ててきょろきょろと周囲を見回すが、まだ目の前のドラゴンの変化には気がついていない。その間にもドラゴンゾンビは彼等を攻撃しようと動き出していた。

「くそっ!」

髭面のおっさん達はともかく、女の子を見殺しにするのは寝覚めが悪いので助けるために走り出す。慌てて護身用に持って来たらしい斧を掲げて応戦しようとしたドワーフ達だったが、地面を抉りながら迫ってきたドラゴンゾンビの尻尾の一撃にまとめて弾き飛ばされてしまった。

「きゃああ!」
『ぐあああっ!』

まるで交通事故にでもあったかのように飛ばされた三人だったが幸い意識はあるようで、もがきながらも逃げようと体を捻っていた。そんな三人に止めを刺すつもりなのか、ドラゴンゾンビが口を大きく開くと喉の奥に光が灯り始める。ブレスだ。俺は瞬時に爆発魔法を練り上げてブレスを放つ直前だったドラゴンゾンビの頭に直撃させた。

「ガアアアッ!」

大爆発と共に横倒しになったドラゴンゾンビが起き上がろうと手足をジタバタと動かす間に、俺は転移でドラゴンゾンビの頭上に移動すると、魔力を籠めたグラン・ソラスを一閃させてドラゴンゾンビの首を斬り落とした。いかにゾンビとは言え首と胴が離れては活動できないのか、奴はしばらく動き続けた後にパタリと動きを止めた。

「す、すごい…」
「たったの一振りで…」
「化け物か…」

装備の力があるとは言え、以前手こずったドラゴンゾンビもこのザマだ。我ながら随分強くなったものだと思う。そんな事より今はこの三人の事だ。成り行きで助けてしまったが、彼等は何者だろうか?ドラゴンをあっさり倒した驚きから回復した三人の内、女の子だけが急いでこちらに駆けてきた。そんな彼女を守るつもりなのか、二人のドワーフも短い足で必死に駆けてくる。

「あ、あの!助けていただいて、ありがとうございました!」
「姫様!」

姫様?前世でそんな呼ばれ方をする人達が狭い範囲で居たようだが、今回の事とは関係あるまい。となれば、本物のお姫様だと考えるのが自然だろう。しかもドワーフを付き従えたお姫様となるとかなり限定されるぞ。

「私はバックス王リギンの一人娘、スフィリと申します。こちらは共のアッシュとマシャド。あの、失礼ですがお名前をうかがっても?」
「ああ失礼。俺はエスト。ここには素材集めに来ていただけなんで、お気になさらないで下さい。用だけ済めばすぐ帰りますんで…」

厄介事の予感がする。ほぼ確信めいた自分の直感に従い、あまり彼等の相手をしないで帰る事にした。地面に転がっている竜の鱗を甲子園で試合に敗れた高校球児並みにいそいそとかき集め道具袋に押し込み「じゃあ」とだけ言い残して去ろうとしたが、そんな俺の腕をがっしりと掴む手が現れた。他ならぬ姫様だ。彼女は笑顔を浮かべて俺を逃がすまいとしている。

「…なんでしょうか?」
「エスト殿、あなたの腕を見込んで頼みがあるのです。私達は今、ある素材を求めてこの光竜連峰を探索しているのですが、それをお手伝い願えないでしょうか?」

ほらきた。絶対こちらの得にならない厄介事に決まっている。ここは何としても回避しなければ。

「…なぜ俺が?お付きの方も居るようですし、俺は失礼しても…」
「ドラゴンゾンビを一撃で屠るその力。探索の間あなたが側に居てくれれば、ドラゴン達など脅威にもならないでしょう。必ずお礼はしますので、是非ともお願いします!」

必至で頭を下げる彼女と、それに倣うように頭を下げるドワーフ二人。…断るか?単独でここまで来た彼等の事だ、断れば俺の不在に関わらず探索を続けそうな気がする。だが問題なのは彼女がこれから謁見する予定であるリギンの娘と言う点だ。全員死んでくれたのなら問題ないが、生きて帰った場合それは非常にまずい事態になる。娘の頼みを聞かずに見捨てて帰った男の話を国王が聞いてくれるだろうか?答えは否だ。ただでさえ頑固者と評判のドワーフがへそを曲げてしまえば、交渉どころかバックスを叩きだされる可能性も出て来る。それだけは避けたい。

「わ…わかり…ました。お手伝いします」
「ありがとうございます!」

断腸の思いで答える俺とは対照的に、花が咲いたような笑顔を浮かべるスフィリ。ちょっとした素材集めがなんでこんな事に…。自分のトラブル体質が嫌になってきた。今回の戦闘ではレベルアップしていたようだ。クレア達を連れていないのでもったいない気がしたが仕方が無い。

エスト:レベル92 『フロアマスター討伐×2』『不死殺し』『アルゴスの騎士』『巨人殺し』『悪魔殺し』
HP 4550/4550
MP 4100/4100
筋力レベル:6(+8)
知力レベル:6(+9)
幸運レベル:3(+7)
所持スキル
『経験値アップ:レベル3』
『剣術:レベル5』
『同時詠唱:レベル2』 
※隠蔽中のスキルがあります。

『新たなスキルを獲得できます。次の中から選んでください』
『電撃魔法:レベル4』
『火炎魔法:レベル4』
『剣術:レベル6』
『同時詠唱:レベル3』

前回レベルアップした時に筋力と知力の限界突破を選んだおかげか、両方ともレベル6に達していた。そして地味に幸運が上がっている。このレベルまで上げてようやく人並みとか、どれだけ運が悪いんだよ…

今回獲得するスキルは、迷った末に『剣術:レベル6』にしておいた。これで四天王と再戦する時が来ても楽に戦えるはずだ。
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