ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第252話 現状把握

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「まさかあの二人が魔族と繋がっていたとはな…」
「力になれずに申し訳ない」

火山から帰還した俺達は、事の顛末を説明するためにグルーンと面会していた。案内役だった二人のリザードマンの裏切りと魔族達による襲撃、そして黒の指輪が奪われてしまった事の一部始終を話していく。全てを聞き終えたグルーンの表情は暗い。無理も無い。これで火山の活動は沈静化していくとは言え、それは同時にヴルカーノの衰退も意味しているのだから。彼としてはこの先どうやって国民を養っていくか頭が痛いのだろう。

「長い歴史を誇るヴルカーノもこれでお終いか…終わる時は呆気なかったな…」

まるで魂が抜けたかのようなグルーンに、かける言葉が見つからない。間接的とは言えヴルカーノが衰退する原因を阻めなかった身として責任を感じるが、俺個人の力ではどうしようもない。だが少しでも滅亡を先延ばしに出来る手段があるのなら協力したい。そのためにもまずは情報だ。

「ヴルカーノではどんな産業があるんですか?」
「…産業?我等は日々の糧を得るだけの食料を栽培し、細々と暮らしているだけだ。たまに他国に乞われてドラゴンライダー達が力を貸し、その例として金銭を受け取る事はあるが…目立った産業は特にないな」

…産業が無い?よくそれで国として成り立って来たなと呆れてしまう。まあこれだけ険しい土地なら他国とのやり取りも難しいのか。いやまて、これだけ岩山ばかりなら、資源の一つでも眠っているんじゃないのか?

「周りの山から鉄などの鉱石は採れないんですか?」
「鉱石?鉄なら出るが大量に採れても運ぶ手段が無いし、山を越えて運んで売ったところで割に合わないだろう」
「空輸すればどうです?ドラゴンライダー達に運んでもらえば、それほど苦労無く運べそうですが」
「…防衛の要であるドラゴンライダー達に荷運びをやれと言うのか?誇り高い連中の事だ、決して縦には頷かんぞ」

俺の提案にグルーンは渋い顔だ。だがここは是非とも彼等を説得すべきだ。誇りで腹は膨れない。国が滅びてしまえば何もかも終わりなのだから、優先すべきは何なのか理解してもらわなければ。

「部外者の俺が言いうのもなんですが、商売をしましょう。使える物は何でも使って金を儲けるべきです。例えば今言った鉱石の輸出と並行して他国から食料を買い込むとか、腕に覚えのあるリザードマン達を傭兵として国外に出すとか、金儲けの方法ならいくらでもあるはずです。お互い利益になる相手なら争うより取引を優先させるはずですし、関係が良くなれば軍事に回す金も少なくなる。ジワジワ死んでいくぐらいなら、今までの方針をガラッと変えて勝負に出ても良いんじゃないでしょうか?」
「……………」

やはりすぐに決断出来る事でもないか。俺としてはすぐに動き出すべきだと思うが、あくまでもここは彼等の国なので彼等が行く末を決めなければならない。今の発言でも出しゃばり過ぎだからな。部外者に言われてハイそうですと方針変換する国の指導者など居ないだろう。グルーンが悩んでいる今の時点では、俺に出来る事は本当に何もなさそうだ。残念だがここは一旦出直すべきだろう。

「俺に出来る事なら何でも協力させてもらいます。街道の整備なら並の魔法使い数十人分は働ける自信がありますから、気が変わったら連絡してください。グリトニル聖王国の冒険者学校に便りを寄越してもらえれば伝わりますので」
「…ああ、その時は力を貸してもらうよ。白の指輪はそのままお前が持つといい。ここに残したところで使い道が無いからな」
「ありがとうございます。では、失礼します」

グルーンに頭を下げ、俺達パーティーは転移してその場を後にする。目的地は領地では無くファフニルの居る光竜連峰だ。ドランを通して事情は把握しているはずだから、グルーンの時と同じように今回の顛末を話す必要はない。だが、彼女とは今後の方針について相談しておく必要があるだろう。ファフニルの私室に転移すると、彼女はいつもと変わず静かにお茶を口にしていた。ただし、その表情に笑顔はない。それだけで状況は良くないのだと察するに十分だった。

「来ましたか。早速ですが本題に入りましょう。まずはそこに腰かけなさい」

言われるがままに席に着き、一人一人にお茶が振る舞われるのを黙って見ている。その間は俺達もファフニルも口を開こうとしないし、いつもはしゃいでいるシャリーとドランも大人達の雰囲気に飲まれたのか大人しくしている。部屋には重苦しい空気が立ち込めていた。全員分のお茶を用意したファフニルが自分の席に着き、ようやく口を開く。

「さて、黒の指輪が魔族達に奪われたのは既に承知しています。あれはありとあらゆる力を増幅する能力があるので魔族達に渡るのは是非とも阻止したかったのですが、それを今更言っても仕方がありません。それより今後をどうするかです」
「ちょっと待ってください。ありとあらゆる力を増幅って、まさか魔族達の力まで増幅するんですか?」
「ええ。ですから事態は深刻なのです。我々は今からでもその対策を練らねばなりません」

魔族の力まで増すなんてそんな事聞いてないぞ。グルーンの説明では火山の活動をコントロールするぐらいにしか使い道が無いのかと思っていたのに、予想以上にヤバい代物だったようだ。

「考えられるのは強化された魔族と魔物が大挙して南下し、各国に戦いを挑んでくる事態です。彼等魔族の目的はこの世界の支配者になる事ですから、侵攻してくるのはほぼ確実でしょう」
「………」
「幸い黒の指輪を手に入れたとしても戦力を整えるのに時間がかかりますから、すぐと言う訳ではありません。何年かは余裕があるはずです」

それを聞いて少しホッとした。年単位で時間があるなら色々と対策も立てられるはずだ。

「魔族が侵攻して来た時に真っ先にぶつかるのが我々光竜連峰に住むドラゴンですが、正直言って実際に戦いが始まれば人間達に加勢する余裕は無くなります」
「…それはなぜです?」
「我々が神の味方をするように、邪神の味方をしようとするドラゴン達も魔族領で健在なのです。それらの相手をしていれば、そっちにかかりっきりになるでしょうから」

敵方にもドラゴンが大量に居るのは以前ファフニルが話してくれた昔話で何となく察しはついていた。ファフニル達ドラゴンが加勢してくれないのは苦しいが、逆に考えれば敵のドラゴンを無視出来て魔族や魔物のみを相手にすればいい訳だ。

「そこで切り札になるのがあなた達の持つ白の指輪です。あなたの持つ神の意思を宿す装備と共にあれば、次第に白の指輪の力も増していきます。魔族が侵攻を開始したら貴方達はがら空きになった魔族領に侵入し、黒の指輪の力を抑えるか、もしくは奪取してきて欲しいのです」

…一瞬耳から入ってきた言葉が理解出来なかった。それはつまり、俺達だけで敵の本拠地に特攻して来いと言ってるのか?ふざけないでもらいたい…!

「出来る訳ないでしょうそんな事!いくら俺達でも死にますよ!」

思わず席を立ちあがりファフニルを怒鳴りつけるが、彼女は全く動じた様子も無くテーブルにあるお茶を口にしていた。その余裕のある態度が更に俺の神経を逆撫でするが、彼女はそんな事を気にもしないように言葉を続けた。

「いいえ、あなた達なら可能なはずです。現時点でも魔族の誇る四天王を二人同時に相手にして撃退するのですから。時間をかけてじっくりと鍛え上げれば、今とは比較にならないぐらいに強くなれるでしょう」
「…そりゃダンジョンに籠れば強くはなるでしょうが、危険すぎますよ…!」
「ならばどうします?日増しに力を強める魔族達と、戦えば消耗する一方の人間達。時間が経過する毎にどちらが不利になるかは解りますよね?誰かが大元を叩かなければ人間側に勝利は無いのですよ?それともなんですか、領地に籠っていれば安全だとでも?そんな訳ないでしょう。魔族が侵攻を始めれば、この大陸に安全な場所など無くなるんです。その時にああしておけば良かった、こうしておけば良かったと後悔しながら死にますか?」

ファフニルは怒っていた。態度こそいつも通りだが、口から出る言葉は辛辣だ。実際に古の勇者達と共に戦った彼女だからこそ、魔族が侵攻して来た時の悲惨さを実感しているのだろう。中途半端に覚悟も決まらず、ただ自分達の安全を最優先に考えている俺達を見ていると歯がゆいのかも知れなかった。

「…とにかく考える時間を下さい。今言われてすぐに返事が出来るほど簡単な問題でも無い」
「いいでしょう。ですが今行った事は脅しでも何でも無く事実です。どんな道を選ぶとしても、覚悟は決めておいた方が良いですよ」

挨拶もそこそこにファフニルの元を後にする。…一度領地に帰って皆と相談しよう。これは簡単に答えを出していい問題じゃない。
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