上 下
103 / 258
連載

第250話 弓のアルク

しおりを挟む
累計PVが二千万に到達しました。沢山の方に読んでもらえて感謝します。これからも頑張ります。
********************************************

俺がランスと、ディアベルとレヴィアの二人が取り巻きの魔族と戦っている間、クレアとシャリーも四天王の一人弓のアルクと激闘を繰り広げていた。

クレアとアルクの弓の腕前はほぼ互角。熟練度ならアルクが上回っているようだが、身体能力の差でクレアが若干優勢だった。雨あられと放ってくるクレアの降らし撃ちや扇撃ちに対して、アルクはピンポイントで矢を迎撃し直撃の軌道を逸らせる。四天王と言うだけあって大した腕だが、俺と共に激戦をくぐり抜けてきたクレアには及ばなかったようだ。

お互いの矢が空気を斬り裂き唸りを上げながら空中で激突する様は、まるでミサイルと迎撃ミサイルのぶつかり合いだ。クレアが10本矢を放つ間にアルクが放つ矢は9本。僅か1本の違いではあるが、拮抗した実力者同士の戦いでは致命的な差が生まれる。クレアの連続射撃を受けたアルクは必死の形相で迎撃するも間に合わず、ついにその肩に矢を突き立てられる事になった。

「ぐわっ!」

矢の応酬を横から見ていたシャリーはアルクの手が止まった瞬間、ここぞとばかりに接近してその短剣を振るおうとすが、アルクも伊達に四天王は名乗ってはいない。懐から取り出した黒い球のような物を地面に叩きつけ爆発させたのだ。まるで手榴弾が爆発したかの衝撃に、急速に接近していたシャリーはもろにその衝撃波に突っ込む形になり、今来た方向に吹っ飛ばされる。

「シャリーちゃん!」

落下してくるシャリーを慌ててクレアが受け止めてみるが、シャリーは大した怪我も無く体にススが付いていたぐらいだった。だがシャリーより至近距離で爆発を起こしたアルクは無事では無かったようだ。爆発の衝撃で後方に飛ばされたアルクは壁に叩きつけられ体の至る所から出血している。

「アルク!無事か!」

俺の一撃を渾身の力で跳ね返したランスが、後方に跳び間合いを取りながらアルクの様子を窺う。隙あらば斬りかかってやろうとしたのだが、視線を少しも逸らそうとしない。手強い奴だ。

「生きてはいるが…これ以上は無理だな。ランス、こうなったらお前だけは退却しろ。俺が足止めする。勇者一味を仕留めるのは失敗したが、指輪の回収だけは何としてでも成功させろ」
「…!わかった。後は任せる」

捨て駒になる事を決意したアルクの事を、一瞬も躊躇することなく受け入れたランス。やはりこいつらは強い。形勢不利と見るや自分の身を盾にしてでも任務を達成しようとする。普通なら多少戸惑いそうなものだが、それも無い。退却を決意したランスは懐から取り出した短剣を手に取ると、アルクを盾にするため駆け出した。

「逃がすな!そいつは指輪を持ったままだ!」
「させるか!」

追撃をかける俺やクレア、シャリーの三人にアルクはさっきの爆発物を投げつけて足止めし、天井に向けて弓を構えた。誰も居ない場所を狙って何をするつもりなのかと思ったが、アルクの身体から凄まじい魔力が弓に流れているのが解る。あれはマズい!何をするつもりか解らないが、あれだけの魔力が籠った一撃を放たれれば尋常ではない被害が出るはずだ。

それを阻もうと瞬時にクレアが矢を放ちアルクの体に命中させる。矢はアルクの鎧に命中するといくつもの爆発を起こし彼の体をズタズタにするが、それでもアルクは弓と矢を離そうとはしなかった。

「アルク!感謝する!」

爆発の衝撃から体勢を立て直した俺が転移して離脱しようとするランスに剣を振り抜いたが、一瞬早く黒い短剣の力で姿を消したランスの居た空間を斬り裂いただけだった。くそったれ!指輪を持ち逃げされた!ランスが逃げ切ったのを見届けたアルクは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、最大まで魔力を籠めた一撃を天井に向けて放ったのだ。

「四天王を舐めるなよ!小僧共ー!」

絶叫と同時に放たれた矢は広間の天井に命中すると大爆発を起こし、それはすぐさま天井の崩落を誘発した。このままでは潰されて全員死ぬ。瞬時に判断した俺は一番近くに居たシャリーを抱えると、クレアの下に転移する。ちょうど取り巻きを倒したディアベルとレヴィアがクレアの側に駆け寄っていたので全員捕まえて転移の準備に入る。白の指輪を回収して来たドランが頭に着地したのを確認して、脱出する寸前アルクの方を振り返ると、彼は天井から落ちてきた岩に笑いながら押し潰された。

「脱出する!」

一瞬にして転移した後、俺達はグルーンが運んでくれた洞窟入り口付近に移動していたが、地鳴りと共に足元の岩盤が割れていく。アルクの命を懸けた一撃は、火山の一部を崩すほどの威力を持っていたようだ。流石にここに留まる事は出来ないのでヴルカーノの王都まで転移を続けた。王都からなら大分距離があるはずなのだが、王都全体が細かい地震に見舞われて火山の異変が伝わってくる。都に住む人々は突然の天変地異に右往左往し、俺達はなす術もなくそれを見つめているしかなかった。

四天王の一角が命を懸けた事で今回グルーンから頼まれた二つの指輪の回収は失敗した。弓のアルク、恥ずかしい名乗りをしてふざけた奴かと思ったが、その実力と覚悟は本物だった。敵ながら天晴れと言わざるを得ないだろう。
しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。