ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第249話 最弱はどっちだ

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今攻撃して来た魔族の後ろには、4人ほど付き従っているのが見える。そいつ等もなかなかの腕の様だが、槍を構えた魔族と弓を構えた魔族の二人は飛び抜けて強いようだ。レベルは確認できないが、その隙の無い物腰で達人だと解る。対するこちらは俺が現在負傷中で戦力外。まともに戦えるのはクレア達4人と案内役のリザードマン二人。数の上ではほぼ互角だが苦戦は必至か…と思われたその時、リザードマン二人が武器を投げ捨てて魔族の方に走って行ったのだ。

「な、なあ!約束通り白の指輪を盗み出して勇者をここまで案内したぜ!これで金貨がもらえるんだろ!?」
「苦労したんだ。見張りを出し抜くのは。その代り報酬は弾んでくれよ!」

…どうも態度がおかしいと思ったらそう言う事か。まさか案内役が二人とも内通していたとは予想外だった。グルーンの人を見る目の無さに呆れる俺達を他所に、リザードマン二人は金の催促を繰り返している。魔族達が彼等の事を殺気を籠めた目で見ているのにも気づかずに。

「ご苦労だったな。それで白の指輪はどこだ?」
「ここだ。まさか俺が持ち歩いてるなんて、あのドラゴンも気づかねえよな」

懐から指輪を取り出したリザードマンの腕を槍を持った魔族が斬り飛ばす。一瞬何が起こったか理解できなかったリザードマンは、自らの腕から噴水の様に鮮血が溢れ出したのを目にすると痛みのあまり絶叫した。

「ぎゃああああ!」
「な、何をする!約束がちが…!」

逃げようと背を向けた彼等の体に容赦なく槍や剣が突き立てられ、彼等の体は力なく地面に崩れ落ちた。それを俺は冷めた目で見つめていた。裏切者の末路などこんなものだろう。用さえ済めば真っ先に消されるのが敵に寝返った奴だ。とは言えこれは厳しい状況かも知れない。これで人数的にも不利になったし、この狭い部屋ではレヴィアが変身する事も出来ない。さてどうしたものか…

「後は貴様等を殺せば任務終了だ。覚悟はいいな?」
「その前に!お前達が何者なのかを聞かせてもらってもいいか!?」

今にも飛び掛かってこようとした魔族達の機先を制し俺は大声を張り上げる。今は少しでも時間を稼いで怪我を回復させないと活路が見いだせない。お世辞でも褒め殺しでもいいから何とかして引き延ばす必要があった。

「…それを答える必要があるのか?」
「今から殺し合いをしようとしてるんだ。せめて相手が誰なのか知りたいと思うのは当然じゃないか?それとも魔族は名乗る事も出来ない礼儀知らずしか居ないのか?」
「何を!」
「無礼な!」

安い挑発に取り巻き達が激高するが、それを槍の魔族が手で制する。彼は手に持った槍を地面に突き刺し、胸を張って堂々と名乗りを上げた。

「俺こそ魔族領四天王が一人、槍のランス!魔王様の命により勇者エスト、貴様の命を貰い受ける!」
「同じく四天王が一人、弓のアルク!貴様らは今日この場で我らが討ち果たす!覚悟してもらおう!」

………あまりの衝撃に声も出ない。まさか本当に四天王とか言う奴等が存在するなんて思いもしなかった。恥ずかしくないんだろうか?聞いてる俺でも顔が赤くなってくるのに、本人達は恥じるどころか誇らしげな態度で胸を張っている。その価値観の違いに頭がクラクラしそうだ。大体四天王で一番最初に出て来る奴は一番弱いと相場が決まっているんだが、二人いっぺんに出てきた場合はどうなるのだろう?こいつら二人とも最弱扱いでいいんだろうか?などと色々考えてしまうが、彼等の実力は間違いなく本物だ。

「…ご丁寧にどうも。えー…じゃあ黒の指輪がどうなったか聞いていい?」
「指輪は私が持っているとも。私を倒せば奪い取る事も出来るが、それは不可能だと断言しておこう」

槍の魔族が懐にしまっていた黒の指輪をわざわざ掲げて見せてくれた。案外根は良い奴らなのかも知れない。そして付き合いの良い彼等のおかげで、俺の怪我も大分回復して来た。まだ多少痛みはあるが戦闘に支障はないだろう。俺は一人前に進み出ると、背後に居るクレア達に後ろ手で合図を送る。いつものように先手必勝だ。

「へぇ~…そりゃ随分と自信があるんだな」
「当然だろう?魔族領の誇る四天王の内二人までがこの場に居るのだ。貴様らの勝ち目は万に一つも…」

瞬間、俺は御託を並べる四天王の後ろに居る取り巻き達の後方に転移しグラン・ソラスを一閃させた。四天王の二人は俺が姿を消した瞬間反応したようだが、取り巻きの四人はそうはいかなかったようだ。反応すらできずに二人が同時に首を撥ね飛ばされ、身を躱そうとした一人も返す刀で切り伏せられた。

「卑怯な!」
「お前らに言われたくないわ!」

さっき不意打ちして来たのはどこのどいつだ。少なくとも俺は魔族の様に裏で悪だくみなどはしないし、せいぜいイタズラ程度までだ。一瞬にして5対3の劣勢に立たされた四天王達はそれでも戦いを放棄するつもりはないらしく、それぞれの武器を構えて襲い掛かってきた。立ち位置的に槍を持った魔族は俺が、弓を持った魔族をクレアとシャリーが、取り巻きの生き残りをディアベルとレヴィアが受け持った。

ランスと名乗った魔族は身長2メートルに達しようかと言う大男で、その巨体から放たれる圧力は相当なものだ。かなりの重量がありそうな赤い槍をまるで竹刀でも扱うかのように振り回している。一撃一撃が非常に重く強烈で、剣で弾かれた槍が背後の壁を容赦なく抉っていく。槍自体も業物のようで、魔力を通したグラン・ソラスの一撃を受けても欠ける事無く形を保っていた。

「どうした勇者よ!お前の実力はその程度か!」

守勢に回っていた事で段々とランスが調子に乗っている。守りを固めていたのは別に手を抜いてた訳では無く、単純に傷が全快するのを待っていただけだ。ここからが本番とばかりに本腰を入れた一撃をランスに叩きつけると、それを槍で受け止めたランスはたまらず後退した。

「むうぅ…!急に強く…それが本気か?」
「そう言う事。今から全力で行くから覚悟しろよ」

先程のランスのお株を奪うように連続で攻撃を叩きつけると、奴はさっきの俺と立場を入れ替えたように防戦一方に追い込まれた。

------

レヴィアの操る水の鞭は、魔族の持つ不気味な色の鞭によって触れた瞬間散らされてしまった。図らずも鞭同士の戦いが始まっていたが、レヴィアは一対一で戦っている訳では無い。彼女の役目はあくまでも陽動と時間稼ぎ。彼女が姉と慕うディアベルが精霊を召喚するまで持ちこたえるのがレヴィアの役目だった。

魔族が鞭を振るうとレヴィアは新たに生み出した水の鞭で応戦し、攻撃に転じては再び消滅させられる。いたちごっこや堂々巡りと言う言葉が浮かぶ戦いだったが、それこそが彼女の望んだ事だ。

「レヴィア!」
「わかってる!」

鋭く叫ぶディアベルの合図で、レヴィアが両腕に水の鞭を生み出すと同時に魔族に叩きつけようとする。当然鞭を振るって防御しようとした魔族だったが、突如地面から生えた鋭い爪に利き腕を斬り落とされ、驚愕の表情に固まっている所をレヴィアの鞭に打倒された。

これで取り巻きは全滅。残るは四天王の二人だけだ。
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