ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第247話 火山

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「お前達はあの指輪の能力を知っているか?あれは片方が力を増幅し、もう片方がそれを暴走しないように抑える力があるのだ。原因は解らんが、現在その力を抑える方の指輪…白の指輪と言うんだが、それが安置している場所から失われているようでな。抑えを失ったもう一つの指輪…黒の指輪の力によって周囲の精霊達が暴走し、火山の活動が活発になっているのだ」

指輪の力については初耳だが、火山活動が活発になっていると言うのは大事じゃないのか?もし噴火した場合、人里が近いと大惨事になる。流れ出る溶岩も恐ろしいが、もっと怖いのは火砕流だ。人の足では絶対に逃げられない速度で何百度もある熱風に襲い掛かられては、普通の人なら死ぬしかない。

「荒れ狂う火の精霊達に阻まれて、人の姿の私や我が国の兵士達では近づく事すら困難だ。そこでお前達の力を借りたい。頼まれて欲しいのは二つ。どこかにある白の指輪を回収するのが一つ。もう一つは黒の指輪を台座から外して持ち帰る事。黒の指輪を火山にさえ近づけなければ、自然と活動も穏やかなものになるはずだ」

要は当初の俺達の目的と変わらない。指輪を回収して帰ってこいと言う訳だ。だが一つ気がかりな事がある。今の話で黒の指輪を持って帰ると火山の活動が穏やかになると言いう部分だ。不測の事態が起きて噴火の危険性が高まるなら、最初から安全な場所に置いてればいいのではないだろうか?俺がそれを指摘すると、グルーンは苦虫を噛み潰したような顔になる。

「それが出来ればとっくにやっている。お前達は知らないだろうが、我が国のような耕作面積が少ない土地では、火山の熱を利用して作物の栽培をするのが普通でな。ある程度黒の指輪の力を強めにして白の指輪で押さえ込み、作物の栽培に適した温度にしていたのだ。だがここ数日指輪を守護していた守り人達からの連絡が途絶え、様子を見に行った者達も帰って来なかった。大規模な部隊を送り込もうと準備している間に精霊達が暴れ出してどうにもならなくなったと言う訳だ」
「仮に片方しか回収出来なかった場合はどうなります?」
「…その場合はこの地を去るか、他国に援助を求めるしかあるまい。どの道ここに留まったところで収穫量は減って行くだけなのだから、飢え死にしたくなければそのどちらかを選択するさ」

黒の指輪だけを回収した場合は自然と地熱が失われ、遠からずヴルカーノは衰退する。白の指輪だけを回収すれば火山が噴火してどの道終わり。思ったより事態は深刻なようだ。簡単に他国に移住など出来る訳が無いし、見返りが無ければ他国がヴルカーノを援助する理由も無い。最悪の場合ヴルカーノと言う国は地図上から消える事になる。押し寄せる難民で他国の経済は圧迫され、治安も悪くなるだろう。そんな事態を魔族が放っておくだろうか?答えは否だ。連中の事だからここぞとばかりに不和を煽り、ひょっとしたら軍事的な直接行動に出る可能性もあった。せっかく領地の経営が軌道に乗り出したのに、ここでつまづく訳にはいかない。世界平和のためなどとご立派な志で戦うつもりは毛頭ないが、自分が不利益になるなら全力で戦おう。その結果、ついでにヴルカーノを助ける事になればいいだけの話だ。みんなの顔を見回してみるが、特に反対意見もないようだった。

「状況は理解しました。俺達で良ければ手伝いましょう」
「本当か?助かる。では早速で悪いんだが現地に向かって欲しい。事態は一刻を争うのだ」

グルーンが部屋の隅に待機していたメイドに指示を出すと、退室したメイドはしばらくするとリザードマン二人を引き連れて再び部屋を訪れた。彼等は一礼するとグルーンの後ろに控える。すると代わりにメイドが進み出て、テーブルの上にベルトらしき物を五つ並べた。

「これは耐熱の帯と呼ばれる魔法のアイテムだ。これを身に着ける事でかなり熱さを軽減してくれる。今から行く所には必須のアイテムだ」

グルーンの言う耐熱の帯をまじまじと観察してみる。帯は幅の太い革で出来ていて、ベルトの中央には竜の顔が掘られたメダルのような装飾品がつけられていた。これさえ無ければ量販店で売っている普通のベルトとして使えそうなんだが…彼等のセンスはいまいち理解できない。これじゃまるでチャンピオンベルトか変身ベルトみたいじゃないか。

「そしてこの者達が案内を務めるラガートとレザルだ。目的地の火山までは私が飛ぶ。来たばかりで悪いが、今から出発するとしよう」

慌ただしく立ち上がったグルーンを先頭に、今来たばかりの通路を引き返して広場に出る。ろくに休む暇も無いので文句の一つも言いたくなるが、それだけ彼等は切羽詰まっているのだろう。巨大なドラゴンに姿を変えたグルーンの背に乗り大空へと舞い上がると、レヴィアの時と違って風の抵抗をもろに受けるので乗り心地は最悪だ。そんな中、唯一レヴィアだけがご満悦だった。

「他の龍の背中に乗るなんて変な感じ」

普段は乗せる側だから新鮮なんだろう。凄まじい速度で山脈を越えて行くグルーンの背から、前方に一筋の黒煙が見えてきた。距離が近づくにつれそれが火山の火口から立ち上る物だとはっきり解る。かなりの規模の火山だ。日本で言えば阿蘇山に匹敵する大きさかも知れない。確かにあんな物が噴火すれば洒落にならない被害が出るだろうな。グルーンは高度を落とすと山の中腹辺りに降り立ち、俺達を背中から降ろす。どうやらこの近くに洞窟への入口があるらしい。

「こちらです。ついて来て下さい」
「では後は頼んだぞ勇者達。成功した暁にはそれなりの褒美を用意しているので期待してくれ」

案内人の後に続く俺達の背にグルーンから声がかかる。どうやら懸念していた報酬も忘れずに用意してくれるようだ。タダ働きにならないようで助かった。こっちからは言い出しにくい雰囲気だったし。

山の中腹あたりにぽっかりと開いた、人が一人通り抜けられる程度の大きさの小さな穴から中に進むと、途端にむわっとした熱風が体に纏わりつく。入口付近でこれなのだから、中はかなりの高温のようだった。

「確かに精霊達の動きがおかしい。まるで理性が無いし、こちらの呼びかけにも答えようとしない」

唯一精霊魔法を使えるディアベルには異常行動を起こす精霊達の姿が見えているようで、厳しい表情で辺りを見回している。火の精霊召喚を極めている彼女ですらこうなのだから、精霊達の暴走は深刻だった。

「これだけ火の精霊ばかりの場所なら、他の精霊を呼び出せなくなったりするのか?」
「そうだな。ここだと呼べても戦力になるのは地の精霊ぐらいだろう。水の精霊など呼び出しても一瞬で消滅するのがオチだ…危ない!」

ディアベルが上げる警告の声とほぼ同時に、実体化したサラマンダーが突然襲い掛かってきた。天井付近に現れたサラマンダーは俺の頭を噛み砕こうと落下してきたが、体が落下するより速く真っ二つに斬り裂かれ、炎を撒き散らしながら消滅していった。危ない危ない。ディアベルの目が無かったら奇襲されて大怪我してたかもな。これは気を引き締めて進まなければ。

こうなったらディアベルだけが頼りだ。ここ何日か情けない姿を見せる彼女の名誉挽回のためにも、ここは頑張ってもらうとしよう。
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