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第246話 手がかり

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「敵意は無い!まず話を聞いてくれ!」

両手を上げながら戦う気はないとアピールするが、リザードマン達は槍を構えたまま敵意に満ちた視線を向けるばかりだ。レヴィアに体当たりしてきた緑色のドラゴンは上空を旋回していて、いつでも攻撃する体勢を維持している。このままでは戦闘になる。そう思った時リザードマンの一人が口を開いた。

「ならばまず武器を捨てろ!話を聞くのは武装を解いてからだ!」
「出来るか!武器を捨てて誰が俺達の身の安全を保障するんだ!」
「ならば敵とみなすだけだ!」

じりじりと包囲を狭めるリザードマン達と呼吸を合わせる様に、上空のドラゴンも徐々に高度を下げてくる。これは一度叩きのめしてから力ずくで言う事を聞かせるしかないか?我ながら短絡的だが、それが一番手っ取り早い気がする。しかし、この調子で戦いの規模が拡大すれば必ず人死にが出てくるし、後の印象を考えると出来れば戦いたくはない。とは言ってもやる気満々な彼等に無抵抗でいれば一方的に攻撃されて終わりだ。ある程度自衛のために戦うのも仕方が無いと割り切った。

彼等を迎撃するために俺達も武器を構え、なし崩しに戦闘が始まりかけたその瞬間、シャリーの頭に乗っていたドランが隠密を解くと、狼が遠吠えをするように一声大きく鳴いたのだ。それは山々にこだましてリザードマン達の動きを止める。そしてその声に反応するように、上空のドラゴンが地上に降りてきたのだ。舞い上がる砂埃に俺達が顔をしかめていると、ドラゴンの巨大な口から渋い男の声がもれてきた。

「お前達、ファフニル殿の関係者か?その子ドラゴンの叫びはあの方と瓜二つ。その子ドラゴンを連れておるなら敵ではないと解るが、一体どう言う目的でこの地を訪れたのか、説明してもらおう」

助かった…ドランのおかげで戦いにならずに済んだか。ドラゴンの敵意が無くなったのを敏感に察知したリザードマン達も、構えていた槍を下ろして話を聞く姿勢になってくれたようだ。やれやれ、一時はどうなるかと思ったが何とかなった。と、安心ばかりもしていられないので俺はドラゴンの前に進み出て説明を始める。俺達の旅の目的、ファフニルからの依頼で神の力を宿す装備を探している事や魔族達の暗躍、そして邪神の復活など。話を続けているとリザードマン達は何を言っているんだコイツはと言う態度だったが、唯一ドラゴンだけは真剣に聞いていた。

「グルーン様、こいつらの話を信じるんですか?」
「邪神の復活など、嘘に決まっている」
「この場を逃れるために適当な事を言っているだけでしょう」

口々に言いつのるリザードマン達だったが、グルーンと言う名のドラゴンはそんな彼等の言葉を聞き流して俺達一人一人をゆっくりと観察する。特に俺の持つ神の装備を念入りに観察したかと思えば、その横でいつでも飛び掛かれるように姿勢を低くしているレヴィアをじっと見て一つ頷いた。

「言っている言葉に嘘はない。その人間が持っている装備は古の勇者が持っていた物と同じであるし、何よりそこの風変わりなドラゴンは知っている者達の気配によく似ている。信じても良いだろう」
「なんと!」
「本当ですかそれは!」
「勇者と同じ装備とは…」

リザードマン達は半信半疑と言った所だが、自分達の親玉であるグルーンに言われて渋々納得したようだ。しかし今の口ぶりから言って、このドラゴンはファフニルどころかレヴィアの関係者とも旧知の仲だと考えられる。古の勇者とも面識があるようだし、ひょっとしたら彼女の母親とも知り合いだろうか?

「いつまでもこんな場所で立ち話もあるまい。我らの都まで案内しよう。ついて来るがいい」

そう言うと、グルーンはこちらの返事も待たずに飛び立ち、ドラゴンライダー達も後に続く。俺達も置いて行かれないようにレヴィアの背に飛び乗ると、その後を追いかけた。先を行くドラゴン達は俺達の事など気にするそぶりも無くグングンと速度を増し、まるでこちらを振り切ろうとでもするかのようだ。レヴィアはそれに置いて行かれないように必死で食らいついていて、俺達の応援に答える余裕も無いようだった。

物凄い速度で山脈を越えると、行く手の先に開けた盆地が見えてきた。若干風変わりではあるが多くの建物が立ち並ぶ都の中央には、それに見合った立派な王城がそびえ立っている。グルーンとドラゴンライダー達は徐々に高度を下げ始め、王城内の広場らしきところに着地しようとしていたので、レヴィアも後に続く。見慣れないドラゴンの出現に街の住人や王城の兵士が随分と騒いでいる。やはり彼等にとっても今のレヴィアは珍しい存在なのだろう。

広場に着地したグルーンは一瞬にして体が縮み、一人の人間の姿を取った。それはローブを身に纏い口ひげを生やした白髪の目立つ男で、人間で言えば50代以上に見える。服まで一瞬にして身に纏っているので、レヴィアに比べると随分変身慣れしているようだ。そのレヴィアも俺達が下りた後変身を始めたので、俺達パーティー全員で彼女の周りを囲み、彼女の肌を他人に晒さないようにする必要があった。本人にはいまいち羞恥心が備わっていないのが現在の悩みでもある。

「こっちだ」

グルーンに案内されて城内を進んで行く。すれ違うのはほとんどリザードマンだったが、中にはトカゲのしっぽを生やし、腕と足にに鱗のある女性の姿もちらほらと見かける事があった。

「男も女も同じ形なのかと思ってたけど、違うんだ…」
「当たり前だろう。何を言ってるんだお前は?」

俺のつぶやきに振り返ったグルーンが、馬鹿でも見るかのような目で俺を見ていた。悪かったな。まだこの世界の種族全てを見た事が無かったんだよ。彼女達は手足に生えた鱗や尻尾の形状以外、普通の獣人と大差が無いように思えた。なんで男だけこんな形なんだ?…これは純粋な学術的興味なのだが、彼等はどうやって繁殖しているのだろうか?やっぱり卵?それとも哺乳類みたいに産む?まさか直接聞く訳にもいかないし、興味は尽きなかった。

俺達が案内されたのは城の中の一室で、簡素ではあるが品の良い調度品が並べられた部屋だ。椅子に腰かけようとしたら、全ての椅子が背もたれのあるタイプではなく所謂丸椅子だった。彼等の場合尻尾が邪魔になるのでこれが普通なのだろう。メイドがお茶を入れてくれるのを何となく眺めていると、グルーンが口を開く。

「さて、お前達の言っていた指輪の話だが、我々には心当たりがある」
「本当ですか!」

いきなりビンゴだ。ようやく手がかりを得る事が出来て興奮した俺は思わずテーブルに身を乗り出すが、グルーンはそれを手で制して言葉を続ける。

「指輪はある火山の火口付近の洞窟の中にある。だが、そこに辿り着くには少々困難な状況でな。お前達さえ良ければ是非力を貸して欲しい」

やはり今回もゴタゴタに巻き込まれるのか。半ば覚悟していた事とは言え毎度毎度疲れるが、それも未来の平和な生活への投資と考えてみるとしよう。俺は椅子の上で姿勢を正し、グルーンがどんな無茶を言っても驚かないように、密かに覚悟を決めた。
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