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連載
第244話 遊覧飛行
しおりを挟む「兄様、私空を飛べるようになったわ!」
「…は?」
シャリーの回復祝いをして一旦領地に戻った翌日、レヴィアが突然訳の分からない事を言いだした。ちなみにあの後レヴィアにねだられて、ガルシア王国の王都で何着かの服を買い与える事になった。まあ前の服は仲間を助けようとして破れたようなものだから、そのお詫び代わりだが。
レヴィアが言うには、新たな姿を得た事で以前には無かった力を手に入れたらしい。その内の一つが今彼女が言った飛行能力で、なんでも空中を海の中に居た時同様に泳ぐ事が出来るんだとか。半分眉唾物だったので、一応実演してもらう事にした。
領主館の裏に回ったレヴィアはいそいそと服を脱ぎ、黄龍の姿で再び俺達の前に現れる。すると彼女はその巨大な頭を地面につけ、犬で言うところの伏せの姿勢を取った。
「みんな私の背中に乗って!」
以前光竜連峰でドラゴンの背中に乗った事はあるが、あの時は風の抵抗と冷たい風で随分酷い目に遭った記憶がある。確かに高速で空を移動出来ればメリットは計り知れないが、決して乗り心地の良いものでは無かった。そしてあの時同様、ディアベルは蒼白な顔でレヴィアの背中に乗るのを躊躇していた。やはり高い所は駄目なのかディアベル…
「レ、レヴィア…私は遠慮しておくよ…」
「えぇ~なんでなんで!?お姉ちゃんも乗ってよ!」
「いやしかし…」
「ディアベル、背中に乗ってる間は俺が落ちないように支えててあげるから。それなら大丈夫だろ?」
実際レヴィアの背中は西洋風のドラゴンと違い、その大きな角や鬣など掴める部分が多いのでそこまで不安定でもなさそうだ。渋い顔をするディアベルを俺とレヴィアの二人がかりで説得してその背中に登らせ、頭の角を掴ませる。これなら落ちる事も無い…はず。思い思いの場所に腰を下ろしたクレア達は鱗や鬣を掴んで体を固定する。
「じゃあ行くわよ!」
レヴィアがそう言うと、徐々に視界が上昇してビルの3~4階の高さにまで持ち上がった。体を起こしただけでこの高さとか、一回り以上は大きくなってないか?俺の驚きを他所にレヴィアの体は少しずつ上昇を開始した。羽ばたきもしないので正に浮くと言った表現がぴったりだ。体をうねらせながら徐々に上昇したレヴィアは、一声上げるとそのまま大空へ向けて泳ぎだした。
「すごーい!」
「物凄い速さです!」
「クワー!」
シャリーやクレアなどは大喜びでその速さに驚いている。そう、今回は驚く余裕があったのだ。どういう仕組みか解らないが、なぜかレヴィアの背中に乗っていると風の抵抗をほとんど受けないので景色を楽しむ余裕が生まれる。最初は固く目をつむっていたディアベルも、そのあまりの静けさに驚いて辺りを見回すほどだった。
「なんで風が…どうなってるんだ?」
「たぶんレヴィアの力だと思うよ」
きょろきょろしているディアベルはレヴィアの頭の上に立ち上がり、その角を両方掴んで景色を楽しみ始めていて、恐怖でガチガチになっていた顔に笑顔が浮かぶ。その微笑ましい光景を見ながら俺は全く違う事を考えていた。
(こんな光景をどっかで見た事あるな…昔話的なアニメのオープニングがこんな感じだった。あと二頭身ロボットのコクピットとか…それにしても鯉が滝を昇りきると龍になるとか言う伝承があったが、レヴィアの場合は海竜から黄龍だからそれには当てはまらないのか?)
そんなどうでもいい事を思い浮かべている内に、空の遊覧飛行は終わりを告げたようだ。段々と高度を下げたレヴィアは出発地点の領主館前に着地する。下に降りる途中で村人達が大騒ぎしているのが見えたから、また村の良い宣伝になったかも知れない。
「到着~」
レヴィアの背から飛び降り口々に褒め称えると、彼女はとても解りやすく有頂天になり背中を逸らして得意げになっていた。その巨体で背中逸らすと領主館を直撃しそうだったのでハラハラした。今回はディアベルも人の手を借りずに自力で降りる事が出来たようだ。これで高所恐怖症も緩和されるといいのだが。このレヴィアの飛行能力を使えば次の国に入国するのは簡単かもしれない。
次の国…ヴルカーノは険しい山々に囲まれた天然の要害だ。他の国とほとんど交流する事の無いこの国は、他国の賓客など限られた者以外を受け入れる事は無い。勝手に侵入すれば敵とみなされて排除される危険があった。しかし、だからと言って行かないと言う選択肢は取れない。指輪が眠る可能性があれば調べる必要があるのだ。姿を変える偽りの指輪は連続で使えないし、ちょっとした衝撃で変身がバレてしまう恐れがあるので最初から考慮に入れてない。あくまでもいつもの姿で入国する必要があった。
ヴルカーノに住む住民のほとんどはトカゲ人間…所謂リザードマンと呼ばれる人種で構成されている。他の種族とは違い独特の文化を築く彼等は、翼竜を手なずけているので他国に比べて空戦能力が高い。ドラゴンライダーと呼ばれる兵種は他国の人間にとって脅威なのだが、今のレヴィアならそれほど問題にしなくても大丈夫だろう。
「ヴルカーノに向かうのは明日からにしよう。ガルシア王国まで転移で移動して、そこからレヴィアの背中に乗って山越えだ。陸路は封鎖されているし、空から行くしかない。頼んだぞレヴィア」
「任せて!世界中どこでも連れてってあげるわ!」
集まってきた野次馬達に見せつける様に、その巨体を誇らしげに逸らせるレヴィア。若干不安はあるものの今はその自信を信じよう。俺は変身を解くために館裏に引っ込んだレヴィアの為に、野次馬達を追い返すのだった。
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