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第236話 賢者の石

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ファフニルの自室に転移すると、既にドランを通して事情を把握していたのか、テーブルの上には人数分のお茶の用意がされていた。

「待ってましたよ。とりあえずおかけなさい」

久しぶりに見たファフニルに変わりは無く、以前と同じく元気そうだ。促されて席に着くと、ドランが俺の頭からパタパタと羽ばたきながらファフニルの腕の中に飛び込む。撫でられると猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしているので、かなりの上機嫌の様だ。

「もうご存知だと思いますが、シャリーの石化の事をお尋ねしたいのです」
「ええ。解っています。結論から言うと、治療する事は可能です」

その答えに一気に視界が開けた様な感覚になる。シャリーが助かる!嬉しさのあまり叫び出しそうになるのをグッとこらえてファフニルに続きを促すと、彼女は喉を湿らせるためにお茶を一口飲んだ後、続きを話し始めた。

「治す方法は二つあります。まず一つが単純に石化を治療できるほど魔法の腕を上げる事。今のあなたの魔法では簡単な毒までしか治療出来ないようですが、状態回復魔法を極めると石化やアンデッド化した者も治療できるようになるんです」

あの魔法、そんな事まで出来たのか?あまり使う機会も無いと思って強化してなかったけど、こんな事ならレベルを上げておくんだった。

「そして第二に、あなた方が訪れようとしていたミレーニアに伝わる賢者の石を手に入れる事。あれはありとあらゆる状態異常を一日一度だけ治療する事の出来る宝珠ですから、シャリーちゃんを元に戻すぐらい簡単に出来るでしょう」
「じゃあ今すぐ…!」
「お待ちなさい、話は全て終わっていません」

話もそこそこに飛び出そうとする俺を、ファフニルが言葉で遮る。いかんな、シャリーの事があるとは言え、これじゃ焦り過ぎだ。もっと冷静になって行動しないと、今度はクレア達が被害に遭うかも知れない。深呼吸して気持ちを落ち着けると、再び席に着く。

「失礼しました。続きをお願いします」
「ええ。その賢者の石…昔はミレーニアの王家に確かに伝わっていたようですが、以前にも言ったようにあの地域は国が起こっては滅ぶの繰り返しで、今ミレーニアを名乗っている国が賢者の石を所持している保証はないのです」

あるかどうかは解らない…だが、他に当てが無いなら行ってみるしかないだろう。賢者の石が見つからないのであれば、最悪ダンジョンに籠って俺の魔法スキルを強化していくだけだ。時間はかかるが、絶対にシャリーを治してやらないと。

「それにしても、あなた達は珍しい人と同行しているのですね」

考えにふける俺から視線を移したファフニルが、レヴィアを見ながら懐かしそうに目を細めるが、当のレヴィアは何のことだかと首をかしげるだけだ。

「レヴィアを知っているんですか?」
「彼女と会うのは初めてですが、彼女の母親とは面識がありますよ。もう数千年の付き合いですから」
「母様を知っているの!?」

思わぬところからの情報に、レヴィアがテーブルをひっくり返す勢いで立ちあがる。彼女は母親が去ってから随分長い間寂しい思いをしていたようだし、母親の情報は少しでも欲しいだろう。普段は明るく振る舞う彼女も、やはり心の底では母親が恋しいに違いない。

「ええ。古の大戦の時には彼女も一緒に戦いましたから。彼女は海で、私は陸で、押し寄せる邪神の眷属達と死闘を繰り広げたものです。ふふ…それにしても、あの時身ごもった子がここまで成長していたのですね」

誰かの面影をレヴィアに見ているのか、ファフニルはどこか嬉しそうだ。この口ぶりからして、彼女はレヴィアの母親の事だけでなく、父親の事まで知っていそうなんだが…聞いてもいいんだろうか?

「私、父様の事は聞かされていないの。何度聞いても母様は教えてくれなくて…」
「…彼の事は色々と複雑だったのでしょう。あなたの父親や母親はそれぞれ立場のある人でしたから、あなたを妊娠した頃別れたのです」

海の支配者と子供を作る…相手もファフニルのようなドラゴンとかなんだろうか?彼等の生態はよく解らないが、人間に化けられると言う事は、少なくとも他種族と交われる可能性があると考えてもよさそうだが。

「その…俺が聞くのもなんですけど、レヴィアの父親って一体…?」
「…言ってもいいのかしら?でも自分の出自が解らないのは嫌よね。いいわ、怒られるかも知れないけど私が教えましょう。レヴィア、あなたの父親は邪神を封じた勇者その人。彼とあなたの母親は恋に落ち、しばらく一緒に暮らしていた事があるの。でも勇者は自分の国に留まらなければいけなかったし、あなたの母親は海から離れる訳にはいかなかった。それでね、二人は泣く泣く別れる事にしたのよ」

意外な所で意外な人物の名前が出てきた。まさか昔の勇者がレヴィアの父親とは想像もしなかった事だ。その事も驚きだが、海竜と人間の間にも子供が出来ると言う点にはもっと驚かされた。それにしても、年代的に随分ズレがあるような気もするが、海竜の妊娠期間は長いのだろうか?俺の疑問などお見通しなのか、ファフニルが補足してくれる。

「ドラゴンの妊娠期間は長いわよ?千年かけて卵を産み、更にその卵が孵るのにもう千年以上かかるの。強力なドラゴンほど時間がかかってね?知能の低いドラゴンだと数百年で済むのだけど」

そんなにかかるのか。なら昔の勇者は自分の子供を抱き上げる事無くこの世を去ったのだろう。それはとても可愛そうな事だ。自分の出自を聞かされたレヴィアの心中は複雑なのか、先ほどから黙っている。父は既にこの世に無く、母の行方は知れない。ひょっとしたら生きた父親に再会できると期待してたのかもと思うと、かける言葉が無かった。だが、レヴィアは俺が思っていたほど弱くないらしい。再び上げられた顔に悲壮の色は無く、そこには強い意志が感じられた。

「そう。会えないのは残念だけど、少しでも父様の話が聞けて良かったわ。今の私には兄様達が居るし、少しも寂しくない!それに今は私の事よりシャリーちゃんの事よ。妹が苦しんでいるんだから、お姉ちゃんの私が助けてあげないと」
「ああ、そうだな」

自分も辛いだろうに、シャリーの事を優先してくれるレヴィアの優しさに胸が熱くなる。そうだな、シャリーは俺達の大事な妹だ。絶対に助けてやろう。とにかくこれでシャリーを助ける方法は解った。後はミレーニアにあると言う賢者の石を何とかして手に入れるだけだ。俺達はファフニルに礼を言うと、転移で再び公爵領に跳ぶのだった。

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今日はもう一つの作品を数日ぶりに投稿してます。良かったらそっちも読んでください。
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