ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉

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第234話 砂漠の国へ

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「そろそろ出発しようと思う」

いつものようにみんなで食卓を囲んでいる時、俺は旅の再開を宣言した。大体の出発時期は事前に伝えてあったので、仲間達には大した混乱も無く受け入れられた。

「では明日の朝にはと言う事ですか?」
「うん。後の事はルシノアに任せるよ。ついでにこれも渡しておく」

確認してきたルシノアに、シーティオの王妃から取り上げた装飾品のほとんどが詰まった革袋を渡す。中身を確認した彼女は一瞬目を大きく見開いていたが、すぐに普段の冷静さを取り戻すと恭しく受け取った。

「シーティオの騒動で受け取った褒美の一部だ。この屋敷も手狭になったから、それで新しく建てるといい。余った分は村の運営資金にでも回してくれ」
「承知しました。さっそく明日にでも王都の業者に連絡を入れておきます」
「頼む」

装飾品の類には詳しくないが、仮にも王族がため込んでいた物が安物の訳がない。全て売り払えば屋敷の一つぐらい簡単に建てられる金額になるだろう。

「ご主人様、次は何処に向かうのですか?」
「そうだな…南に向かおうと思ってる。特に理由は無いんだけど、大陸を時計回りに行けば楽かなと思って」

次の目的地は大陸最南端の国エレーミアだ。エレーミアは国土の大部分が砂漠で覆われている国家で、その土地に住むのは人間が多くを占めている。日に焼けた褐色の肌が魅力的であり、独特の民族衣装と相まって、名所も無いのに観光に訪れる人々が後を絶たなかった。

「熱い国だから日除けのローブとか用意しとかないとな…」
「熱いのにローブがいるの?」

砂漠の知識を持たないレヴィアが不思議そうに首をかしげるので、クレア達も含めて説明してやる事にする。気分はまるで教育テレビのお兄さんだ。

「砂漠では日差しが強すぎるから、素肌を晒していると火傷するんだよ。ローブはそれを防ぐ役目もあるし、夜は防寒具にもなる」
「熱い国なのに防寒具が必要なんですか?」
「砂ってのは熱しやすくて冷めやすいからね。熱を蓄えられないから、夜は一気に冷え込むんだよ。氷点下になる事もあるらしいから、防寒具は持って行った方が良い」
「へえ~」

などと偉そうに講義してみたものの、俺だってテレビで得た知識のみで実際に砂漠を訪れた経験など無い。感心した様に俺を見つめるみんなの視線が少々痛いが、もしこの世界の砂漠が俺の知っている物と違った時は潔く謝ろう。

------

翌朝、見送ってくれるルシノア達居残り組に別れを告げて、俺達はシーティオ国内の公爵領に転移した。国王が倒れてからと言うもの、シーティオの治安は劇的に改善しているようだ。街を歩く人々の顔にも余裕のようなものが感じられ、これからの生活に希望を抱いているのだと解る。

フォルティス公爵と南のエレーミアは国王と戦う以前から取引などがあり、国境を閉ざしていたシーティオ唯一の出入り口となっていた。そのおかげで街道は国内よりも整備されており、乗合馬車の数も日に何本か出るほどだった。俺達はエレーミアが出店している店に立ち寄り人数分のローブを買い込むと、ちょうど出発前だった乗合馬車に飛び乗った。

同乗した乗客のほとんどは買い出しに向かう商人達で、エレーミアと公爵領との経済的結びつきがいかに強いかを実感させてくれるのだった。

「砂漠には何もないように見えるが、危険な魔物がウロウロしてるんだ。兄ちゃん達も気をつけなよ」

隣に腰かけて何かと話しかけてくるオッサンの話によると、巨大なサソリや蛇などはもちろんだが、中でも危険なのがミミズを大きくしたような魔物のワームや、バジリスクと呼ばれる8本足のトカゲの二種類だ。ワームは地中から突然現れてはその巨大な口で人間など一飲みにし、再び地中に消えて行く習性を持っている。これはマップスキルを持つ俺にとってはそれほど危険な敵ではない。だが問題はもう一種類のバジリスクだ。こいつは口から猛毒の息を吐きだす。それだけならまだいいが、その視線には石化の能力が秘められているのだ。魔法の抵抗力が弱い人間なら即死するし、強い人間でも運が悪ければ時間をかけて体が石になっていくそうだ。

「出来れば出会いたくないですね」
「まあ大丈夫だとは思うけどな。ちゃんと護衛も居る事だし」

乗合馬車の前後には、魔物対策として護衛の傭兵が4人守りを固めている。全員レベル30前後で、シーティオで戦った事のある傭兵連中に比べれば腕が立つようだった。ただの魔物なら彼等だけで十分撃退出来るはずだ。

公爵領からミレーニアの王都までは、中継地点であるオアシスをいくつか経由しなければならない。その間約二十日かかる予定だ。乗合馬車に乗っていなければ夜は転移でどこかの街に戻りたいところだが、そうもいかない。高速バスに乗ってる乗客が途中で居なくなったら騒ぎになるようなものだ。

出発して数日は退屈ではあったが何の問題も無く進み、最初のオアシスに辿り着く事が出来た。久しぶりにベッドで眠れたので全員旅の疲れを癒す事が出来き、気分転換に砂漠の夜を楽しむ事も出来た。だが、次のオアシスに辿り着いたあたりから雲行きが怪しくなってくる。今俺達が乗っている乗合馬車の一つ前の便が、バジリスクに襲われて全滅したと言う話だ。石化の能力を持っているとは言え、バジリスク自体はそれほど強い魔物ではないはずなので、乗合馬車が全滅するほどの事態は今までに無かったそうだ。

「念のために、臨時で護衛を増やします。乗客の皆さんには申し訳ないんですが、少しばかり運賃が高くなってしまうので…」

申し訳なさそうに頭を下げる御者に対して、俺や他の客が追加料金を払っていく。中には文句を言う奴もいたが、差額を払うからここで降りてくれと御者に言われると大人しく追加分を払っていた。

「ご主人様、あとどのぐらいでつくの?」

長旅に飽きてきたのか、シャリーは俺の膝の上に座りながら代わり映えしない景色をじっと見ていた。大人でも退屈なのだから、娯楽の無い馬車の中は子供にとって牢獄にも等しいのだろう。

「もう半分ぐらい来てるかな?シャリーはいい子だから我慢できるね?」
「…うん」

優しく頭を撫でてやると、安心したのかうつらうつらと眠りに落ちそうになっていた。だがそんな時、前を行く護衛達から鋭い警告の声が上がる。

「魔物だ!バジリスク!…ワームまで!?」

彼等の叫びに悲痛なものが混じる。急いで馬車の外に飛び出ると、巨大なワームと8本足のトカゲが数匹、馬車に向かって迫って来ていた。

「加勢するぞみんな!」

彼等だけで撃退できるとも思えない。俺達は武器を構え、魔物の集団目がけて突っ込んだ。
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