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5巻
5-3
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その女のような口調は、平時であれば相手の怒りを落ち着かせる――というか、怒る気を削ぐのだが、今のアンリエッタには逆効果だったようだ。
アンリエッタはバンと机を叩いて力説する。
「これが落ち着いていられるか! 審問の内容くらい、貴公も知っているだろう! 生きたまま火で焼かれるのだぞ! メリッサがどれだけ苦しんで逝ったことか!」
「だからこそ落ち着けって言ってるのよ。カッカしてちゃ仇討ちもうまくいかないわ。ヤるときは冷静に、かつ確実に、ね?」
ゴードンもメリッサの人となりを知らないわけではない。口調こそ穏やかだが、表情は険しかった。
「くっ」
そう諭されて、アンリエッタはどうにか矛を収めた。いずれにしても、ここで喚いたところでメリッサが生き返るわけでも、彼女の無念が晴らされるわけでもない。
ミリーがそっと、アンリエッタの前に椀を差し出す。そこには冷えた水が注がれていた。すまないと気遣いに謝辞を述べ、アンリエッタは椀を呷った。ミリーが用意した水からは、ほのかに柑橘のさわやかな香りがした。
アンリエッタが落ち着いたのを確かめて、アルバートがウィリアムに視線を向ける。ウィリアムは頷くと、卓上に広げられたギャウサル周辺の地図の上に駒を配置する。王国軍本陣のある位置には白の王を、ホーマー聖騎士長が現在いるであろう位置には黒の騎士を、チェレスティアノ枢機卿が現在いるであろう、聖騎士団の陣営の中央には黒の王を配置する。
「こちらの戦力は一応二千ですが、実際のところ弓兵隊やジプシャンたちじゃ前線には立てませんし、聖騎士団には歩兵隊で対抗することになりますね」
「――ウィリアム」
ウィリアムの失言を、アルバートが叱責する。
「おっと失礼。一応、騎兵隊長のクインシー卿もいらっしゃいましたね」
ウィリアムは特に悪びれる様子もなく、クインシーにちらりと目を向けて肩を竦めた。
「なんにしても随分舐められたもんです」
ゴードンが不敵に笑い、そう言った。
「そうだな」
アルバートは顎に手をやってその言葉を受け取ると、冷静に状況を分析する。
「聖騎士団は人間相手の戦いは不慣れで、士気は低いだろう。汚れ役を引き受ける手合いもいるにはいるはずだが、そういう連中はあくまで普段は素人を相手にしている。そもそも、事実上の指揮官がホーマー聖騎士長なら、まっとうな方の聖騎士と考えていいだろうしな。だとすれば、ドラゴン・ライダーと新女王の誕生で士気の上がっている歩兵隊だけでも十分抑えはきくだろう」
アルバートは黒の騎士に手を伸ばす。
「ギャウサルの地形も考えれば――」
駒を持ちあげると、黒の歩兵の目前においた。
「西側の地形は山がち。聖騎士団の重装備を考えると、この方向から進軍してくることはまず考えられませんね」
ウィリアムがアルバートの代わりに続けた。
「ウィリアム、聖騎士団が後方から投射法術による射撃支援を行う可能性は考えられるか」
アルバートが人差し指で、黒の騎士の後方をとんと叩きながら問う。
「ないでしょうね。ギャウサルはほとんど傾斜のない平地です。そんなことをすれば味方の背中を撃つことになってしまう。山側を押さえておけば、問題ないはずです」
「他に不安要素はあるか」
アルバートが重ねて問うと、ウィリアムは間をおかずに答える。
「東側に迂回されるか、東西に広く部隊を展開されると厄介ですね」
「ユリアン、聖騎士団に部隊を横列に展開する様子は見られたか?」
ウィリアムの言葉を受けて、アルバートがユリアンに問いを投げかける。
「いや、俺っちの見る限りそれはなさそうでしたね」
ユリアンの答えを聞いて、アルバートがウィリアムに視線を向ける。ウィリアムが頷いて続けた。
「敵軍の行動として殿下が想定されているのは、正面からの騎兵による突撃ですよね?」
「ああ」
「であれば密集陣形で受けられると思いますが、そうなると脇を突かれた瞬間崩れます」
「それは考えられん」
口を挟んだのは騎兵隊長クインシーだ。口髭を生やしたどこか影の薄い男だ。騎士団出身のこの男は、宰相イザドルの叛乱以降、随分と肩身の狭い思いをしているらしい。特に最近女将軍アダレードや第二王子スタンリーに重用されている弓兵隊長ウィリアムとは、どこか険悪な気配をにおわせていた。
「こちらは圧倒的な寡兵だ。今の教会がわざわざそんな回りくどい手を打つとは思えんな。それに我らを撃破したあと、王都に攻め入るための兵力を温存しておく必要もあるだろう」
「切れ者と評判のチェレスティアノ枢機卿なら分かりませんよ」
「ギチギチギチッ」
クインシーとウィリアムが静かに睨み合う。エルナトにおける戦争らしき戦争は、内乱も含めイザドルの一件までほとんど起きていなかった。イザドル一派の粛清について言えば、当時将軍アダレードの副官をやっていたのはウィリアムであって、実戦経験では彼に一日の長がある。他方、軍学に関しては騎士団で正式に学んだクインシーの方が長けている。どちらの主張が正しいかは、この場では決められない。
畢竟、決断は総大将であるアルバートに委ねられることになる。アルバートは腕を組んで、しばし瞑目する。
「分かった」
目を開けて頷いたアルバートは、地図上の駒に手を伸ばす。
「歩兵隊は本陣正面で敵の攻撃を受けろ。騎兵隊は東方面で号令があるまで待機、敵部隊を牽制。機を見て突撃し、敵軍の脇腹を突く」
アルバートの手が、白の騎士を本陣の東側へ配置する。
「弓兵隊は後方支援。戦況に応じ、適宜射撃による遊撃にあたれ。ジプシャンとドワーフは本陣の防衛。特にジプシャンは各部隊の連絡役にあたれ。何か質問は?」
「殿下――その。わたしはどうすれば」
アンリエッタがおずおずと挙手する。
「アンリエッタ卿か……貴卿には」
アルバートが白の女王の駒を手に取る。
「ホーマー聖騎士長を押さえてもらいたい」
この言葉に、アンリエッタは目を見開いた。
「今の貴卿にならできるだろう」
アルバートは白の女王を白の歩兵の隣に配置すると、静かにアンリエッタを見据えた。
「貴卿の存在はこの戦いの鍵になる。チェレスティアノ枢機卿がいかに切れ者とは言っても、文官である枢機卿に、武官である聖騎士がやすやすと従うとは思えん。事実上の総指揮官はホーマー卿と見て間違いないだろう。その指揮官の首級を取る――そこまでは行かずとも、釘づけにするだけで敵の統率は乱れる」
アルバートは他の面々を順に見回す。皆の視線がアンリエッタに向かっていた。いや、ドワーフだけはよく分からないが。
「――他の者は隊の指揮があって動けん。その点、貴卿は自由に動けるし、実戦を経て実力も十分だろう」
「わたしは」
「この場にいる以上、選択の余地はないぞ、アンリエッタ卿」
アンリエッタの言葉をぴしゃりと遮ると、アルバートは立ち上がり「軍議は以上だ」と告げ、天幕を出る。皆それに続いて、立ち去っていく。
アンリエッタはしばらく俯いて、膝の上で握った拳をじっと見つめていたが、やがて立ち上がり、自分も天幕を出ていった。
* * *
ガキィッ!
それからしばらく、王国軍本営の一角では、アンリエッタ・ウィルマーがひたすら木偶に斬りつける姿があった。
王国軍の人々は、将校から末端の兵士、有志のジプシャンやドワーフにいたるまで、戦の準備にあわただしく走り回っている。暇を持て余しているのはアンリエッタくらいだった。
「フッ!」
アンリエッタは返す刀で木偶に斬りつける。無心に剣の稽古を始めてからもう一時間、いや、二時間か。そろそろ木偶が崩れそうな頃合いだった。
いたずらに体力を消耗するだけで意味などないと分かってはいるが、それでも動いていなければ心が折れそうだった。
ホーマー聖騎士長は決して悪人ではない。頭が固いだけで、むしろ信心深い、どちらかというと正義感の強い男だ。
そんな相手とでも殺し合いをせねばならないのか。そう思うと気鬱になる。
だが戦である以上、ホーマーも容赦なく向かってくるはず。迷いを持ったまま戦いに挑めば、死ぬのはアンリエッタの方だ。
愚直なアンリエッタは、迷いを振り払う術を他に知らない。
「聖騎士さま」
「――?」
そんなアンリエッタの手を止めるものがあった。
まだ幼く、舌足らずな少女の声だった。
アンリエッタは振り返り、その姿を確かめる。見知った顔、ジプシャンの少女、モニカが木のジョッキを手に立っていた。
「冷たいお水はいかが?」
こちらの様子を気にかけていたのだろうか。
「――ああ、ちょうど喉が渇いていたんだ」
十にもならない少女の気遣いを、アンリエッタはありがたく受け取った。
冷えた水を飲みくだしながら、アンリエッタは横目でモニカを見る。
レヴィアタンの事件のとき、彼女の受けた仕打ちは随分と過酷なものだった。それが他人を気遣えるまでに快復したのは、それだけ時間が経った――からではあるまい。メリッサの尽力の賜物だろう。彼女は《夢》属性の法術の使い手だった。《夢》属性の法術は精神や幻、心を操る。メリッサは、モニカの記憶や感情の一部を改変したのかもしれない。やり方の是非はともかく、メリッサがモニカという一人の少女を救ったのは事実なのだろう。
「君は」
水を飲みほしたアンリエッタは、少し口ごもりながら口を開く。
「なあに?」
「君もここに来たのか?」
「え? うん。人手はいくらでも欲しいからって」
質問の意図を測りかねたのか、モニカは一瞬首を傾げるが、よどみなくそう答えた。
「なぜだ? 君はまだ子供だろう」
剣を鞘に収め、アンリエッタはモニカと正面から向き合ってさらに問う。なぜこんな危険な場所にやって来たのかと。なぜ周囲はそれをみすみす許したのかと。
「だって、自分のおうちになる場所なのよ? 自分で守るのが当たり前でしょう?」
「しかし――元々ドラゴンに襲われていたような場所だぞ。ユリアンたちだって、危険は承知の上だったろうに、なぜ」
「そんな難しいこと聞かれても、あたし子供だから分かんないわ」
長身のアンリエッタに厳しい口調で問われ、多少の威圧感を覚えたのか、モニカがわずかに目を逸らしてそう答える。
「む、すまない」
アンリエッタは少し反省した。どうも子供の相手は慣れない。
「……あたし、まだ子供だから戦えないけど」
モニカは子供なりに、アンリエッタが何かしら悩んでいるのを察してか、言葉を探す。
「何もしないで震えて待っているより、ずっとマシだと思っただけだよ」
モニカは、アンリエッタの目をまっすぐに見上げてそう言った。
「自分で決めて、自分で動くの。それがあたしたちの流儀だから」
その言葉に、アンリエッタの頬が少し緩んだ。
「自分で決めて、自分で動く、か」
アンリエッタは、聖騎士団が陣を組んでいるであろう方角に目を向ける。
「ホーマー卿も、自分で決めて、自分で動いたのだろうか」
「さあ」
モニカは大人びた仕草で肩を竦めた。
「本人に聞けばいいじゃない?」
「――そうだな」
アンリエッタは頷く。
「うん。その通りだ。本人に聞けばいい。首を刎ねるかどうかは、それから決めよう」
アンリエッタは軽く唇を噛んだ。今の教会のやり方が、チェレスティアノの意思に従うことが彼の正義だというのなら、アンリエッタにとって彼は『敵』だ。
哀しいことだが、討たねばなるまい。
「大した自信だねえ」
「ペネロペ殿」
からかい交じりの声をかけてきたのは、向こうの天幕から近づいてくるペネロペだった。
「あんた、あの男の首を刎ねられるつもりでいるのかい」
「必要とあらば、やらねばならんだろう。わたしは聖騎士だ。――君もここに来ていたのだな」
憮然としてアンリエッタが答えると、ペネロペはくつくつと笑って両手を広げた。
「ああ。ユリアンだけじゃどうにも心もとないだろ?」
「幼馴染が気にかかるのなら素直にそう言えばいいだろうに」
「気持ちの悪いこと言うんじゃないよ!」
鳥肌が立っちまったと、ペネロペは両肘を抱いた。アンリエッタは意趣返しをしたような気になって、少しばかり溜飲を下げる。
「ユリアンのことは関係ないさ。飽きたら一人旅にでも出るよ」
気を取り直して、ペネロペはふと肩の力を抜いた。
「――自分で決めて、自分で動く」
アンリエッタが、その先に続くであろう言葉を代わりに口にした。
「それがジプシャンの流儀、か?」
「分かってるじゃないか」
ペネロペはにいと笑った。
「……わたしとはまるで真逆だな」
アンリエッタはその笑顔から目を背けた。誰かのために。裏を返せば、動機や責任を他人に委ねるということでもある。うまく行っている間はいい。つまずいたとき。苦難が押し寄せたとき。それは簡単に『誰かのせい』に裏返る。
「わたしはいつも決断を他人に委ねてきた気がする。聖騎士になったのだって、家族の生活のためだった。今度だって――」
「流されてるようで気が引けるかい?」
「そう、だな」
「別にいいんじゃないか。流されるのを貫き通すのなら、それもまた一つの流儀だろう?」
ペネロペは呆れたような顔をしていた。彼女にして見ればなんでそんなことでうじうじ悩むのか理解に苦しむのだろう。
「あたしにあたしの生き方があるように、あんたにはあんたの生き方があるさ」
そう言ってペネロペは、アンリエッタの肩を叩いた。
「わたしの生き方か」
アンリエッタには、これだと胸を張れる志などない。ただ場当たり的に、感情的に、手を伸ばし、足掻いているだけだ。
アンリエッタは胸の前でぎゅっと拳を握った。大義のない騎士を、人は愚か者と呼ぶのかもしれない。
それでも、アンリエッタには確かに守りたい場所がある。守りたい人がいる。
これが大義ではないと。どうして言い切れるのだろう。
「腹は決まったみたいだね」
「ああ」
ペネロペの言葉に、アンリエッタは力強く頷いた。
「ああ、ペネロペ。ここにいたの」
声とともに歩みよってくる気配。向き直ると、ミリーだった。出会った頃と比べると、ずいぶん上等な服を着ている。下町の飯屋の娘だった彼女も、もうすっかりアルバートの『嫁候補』が板についていた。
「これ、殿下から」
彼女は胸の谷間に隠していた紙片を一枚取り出し、ペネロペに手渡した。ペネロペははらりと折り畳まれた紙片を開くと、その文面を見て目を細める。
「ふうん。あの王子さまも悪いこと考えるようになったもんだねえ」
「おおかた、スタンリー王子の入れ知恵でしょ?」
ミリーはそう言って肩を竦めた。
話が見えない。アンリエッタが口を挟もうとすると、ミリーが身を乗り出し、ぴっと人差し指をこちらに突きつけてきた。
「アンリエッタ、あんたにも用事があったのよ」
「な、なんだ」
ミリーが眦を釣り上げて言うものだから、アンリエッタは思わず身を引いてしまう。
「殿下から苦情。『戦う前から消耗するような真似は控えろ』ですって」
遠回しなアルバートの気遣いに、アンリエッタは思わず微笑んだ。
「――以後気を付けよう」
肩の力を抜いたアンリエッタに、ミリーも笑みを返す。
「勝ったらごちそうよ。お城じゃなくて、《老婆のふんばり》亭でね」
ミリーの言葉に一同が笑った。
「いいね!」
「ああ。最高だ」
アンリエッタはパン、と拳を叩いた。勝つ。そして生きて帰る。今の自分になら、できるはずだ。
* * *
同時刻。
チェレスティアノ枢機卿を総大将とする教会聖騎士団は、ギャウサル方面へゆっくり南下していた。
――起伏のある地形を越えると、兵も馬もそれなりに消耗する。ホーマーは王国軍の内情をある程度把握していた。王国の武力は、その多くを貴族の私兵に依存しており、王国自体の軍事力はさほど大きくない。この戦いにあたって、ヴィクトリア――エルナト王国首脳は教会の侵攻を予期しながらも、国内の保守派勢力の蜂起に備えてか、貴族に対する兵力の動員を控えていた。なおかつ、王都の防衛も怠るわけにはいかないのだから、王家の立場は相当苦しいはずだ。
こうした状況を顧みた結果、ホーマーに割り当てられた戦力は五千騎。妥当な判断とも言えるが、ホーマーはこれを同国への過小評価と考えている。この程度の数で押し切れるほど甘い相手ではないだろう。
それよりも、だ。
チェレスティアノ――先ほどから楽しげに讃美歌を口ずさんでいるこの男は一体、なんのつもりでここにいるのだ。地位の高い枢機卿がいたところで、なんら役に立つわけではない。かえって指揮系統が乱れ、混乱を招くだけだ。
「よろしいのですか」
ホーマーは、隣で馬を操るチェレスティアノに視線を向ける。
「何がだね」
チェレスティアノは笑みを崩さずに答える。
「枢機卿自ら戦場に赴くなど、前代未聞ですぞ」
聖職者が枢機卿になる頃には、若くても齢六十を超えているのが普通だ。ホーマーは彼の実年齢を知らないが、見た目は若くとも、前線に出られるはずもない。
「これはちょっとした喩え話だがね」
言いながら、チェレスティアノは馬のたてがみを撫でる。
「躾の悪い犬に首輪をつけたところで、引き綱を握る者が誰もいなければ意味がないとは思わんかね、ホーマー卿?」
つまり、チェレスティアノはホーマーの心変わりを懸念しているらしかった。
それは、お前たちに後ろ暗いところがあるからだろうと言い返しそうになるのを、ホーマーはどうにか堪えて、押し黙る。
「確かに枢機卿が公式に戦場に赴いた記録はないがね。人を殺した記録なら山ほどあるとも。少なくとも私に関して言えば、君ら聖騎士よりも経験豊富だ」
チェレスティアノはホーマーの内心など気にした様子もない。
「冗談にしては質が悪いですな」
ホーマーは今度こそ不快感を隠さずに言った。
「忠犬は冗談だと思うなら舌を出して笑うものだよ、ホーマー卿」
チェレスティアノはくつくつと嗤った。いつ裏切ってもおかしくないと思っている割には、馬が潰れそうなほど大柄なホーマーを少しも恐れていないらしい。
「さて、君は敵の出方をどう見る」
ホーマーに配慮したわけではなかろうが、チェレスティアノが話題を切り替える。
「相手方にはジプシャンの呪い師がおりますな。こちらの布陣は筒抜けでしょう。東西に部隊を広く展開する手もありますが、それでは統率がとれない。奇をてらわずに正面から数で押し切るのが最良でしょうな」
ホーマーは不服そうな表情を変えずに答える。
「敵方もそれを見越して歩兵隊による密集陣形で防衛、その隙に騎兵隊で脇腹を突く算段でしょう。アルバート殿下ならそうなさるはずだ」
アンリエッタはバンと机を叩いて力説する。
「これが落ち着いていられるか! 審問の内容くらい、貴公も知っているだろう! 生きたまま火で焼かれるのだぞ! メリッサがどれだけ苦しんで逝ったことか!」
「だからこそ落ち着けって言ってるのよ。カッカしてちゃ仇討ちもうまくいかないわ。ヤるときは冷静に、かつ確実に、ね?」
ゴードンもメリッサの人となりを知らないわけではない。口調こそ穏やかだが、表情は険しかった。
「くっ」
そう諭されて、アンリエッタはどうにか矛を収めた。いずれにしても、ここで喚いたところでメリッサが生き返るわけでも、彼女の無念が晴らされるわけでもない。
ミリーがそっと、アンリエッタの前に椀を差し出す。そこには冷えた水が注がれていた。すまないと気遣いに謝辞を述べ、アンリエッタは椀を呷った。ミリーが用意した水からは、ほのかに柑橘のさわやかな香りがした。
アンリエッタが落ち着いたのを確かめて、アルバートがウィリアムに視線を向ける。ウィリアムは頷くと、卓上に広げられたギャウサル周辺の地図の上に駒を配置する。王国軍本陣のある位置には白の王を、ホーマー聖騎士長が現在いるであろう位置には黒の騎士を、チェレスティアノ枢機卿が現在いるであろう、聖騎士団の陣営の中央には黒の王を配置する。
「こちらの戦力は一応二千ですが、実際のところ弓兵隊やジプシャンたちじゃ前線には立てませんし、聖騎士団には歩兵隊で対抗することになりますね」
「――ウィリアム」
ウィリアムの失言を、アルバートが叱責する。
「おっと失礼。一応、騎兵隊長のクインシー卿もいらっしゃいましたね」
ウィリアムは特に悪びれる様子もなく、クインシーにちらりと目を向けて肩を竦めた。
「なんにしても随分舐められたもんです」
ゴードンが不敵に笑い、そう言った。
「そうだな」
アルバートは顎に手をやってその言葉を受け取ると、冷静に状況を分析する。
「聖騎士団は人間相手の戦いは不慣れで、士気は低いだろう。汚れ役を引き受ける手合いもいるにはいるはずだが、そういう連中はあくまで普段は素人を相手にしている。そもそも、事実上の指揮官がホーマー聖騎士長なら、まっとうな方の聖騎士と考えていいだろうしな。だとすれば、ドラゴン・ライダーと新女王の誕生で士気の上がっている歩兵隊だけでも十分抑えはきくだろう」
アルバートは黒の騎士に手を伸ばす。
「ギャウサルの地形も考えれば――」
駒を持ちあげると、黒の歩兵の目前においた。
「西側の地形は山がち。聖騎士団の重装備を考えると、この方向から進軍してくることはまず考えられませんね」
ウィリアムがアルバートの代わりに続けた。
「ウィリアム、聖騎士団が後方から投射法術による射撃支援を行う可能性は考えられるか」
アルバートが人差し指で、黒の騎士の後方をとんと叩きながら問う。
「ないでしょうね。ギャウサルはほとんど傾斜のない平地です。そんなことをすれば味方の背中を撃つことになってしまう。山側を押さえておけば、問題ないはずです」
「他に不安要素はあるか」
アルバートが重ねて問うと、ウィリアムは間をおかずに答える。
「東側に迂回されるか、東西に広く部隊を展開されると厄介ですね」
「ユリアン、聖騎士団に部隊を横列に展開する様子は見られたか?」
ウィリアムの言葉を受けて、アルバートがユリアンに問いを投げかける。
「いや、俺っちの見る限りそれはなさそうでしたね」
ユリアンの答えを聞いて、アルバートがウィリアムに視線を向ける。ウィリアムが頷いて続けた。
「敵軍の行動として殿下が想定されているのは、正面からの騎兵による突撃ですよね?」
「ああ」
「であれば密集陣形で受けられると思いますが、そうなると脇を突かれた瞬間崩れます」
「それは考えられん」
口を挟んだのは騎兵隊長クインシーだ。口髭を生やしたどこか影の薄い男だ。騎士団出身のこの男は、宰相イザドルの叛乱以降、随分と肩身の狭い思いをしているらしい。特に最近女将軍アダレードや第二王子スタンリーに重用されている弓兵隊長ウィリアムとは、どこか険悪な気配をにおわせていた。
「こちらは圧倒的な寡兵だ。今の教会がわざわざそんな回りくどい手を打つとは思えんな。それに我らを撃破したあと、王都に攻め入るための兵力を温存しておく必要もあるだろう」
「切れ者と評判のチェレスティアノ枢機卿なら分かりませんよ」
「ギチギチギチッ」
クインシーとウィリアムが静かに睨み合う。エルナトにおける戦争らしき戦争は、内乱も含めイザドルの一件までほとんど起きていなかった。イザドル一派の粛清について言えば、当時将軍アダレードの副官をやっていたのはウィリアムであって、実戦経験では彼に一日の長がある。他方、軍学に関しては騎士団で正式に学んだクインシーの方が長けている。どちらの主張が正しいかは、この場では決められない。
畢竟、決断は総大将であるアルバートに委ねられることになる。アルバートは腕を組んで、しばし瞑目する。
「分かった」
目を開けて頷いたアルバートは、地図上の駒に手を伸ばす。
「歩兵隊は本陣正面で敵の攻撃を受けろ。騎兵隊は東方面で号令があるまで待機、敵部隊を牽制。機を見て突撃し、敵軍の脇腹を突く」
アルバートの手が、白の騎士を本陣の東側へ配置する。
「弓兵隊は後方支援。戦況に応じ、適宜射撃による遊撃にあたれ。ジプシャンとドワーフは本陣の防衛。特にジプシャンは各部隊の連絡役にあたれ。何か質問は?」
「殿下――その。わたしはどうすれば」
アンリエッタがおずおずと挙手する。
「アンリエッタ卿か……貴卿には」
アルバートが白の女王の駒を手に取る。
「ホーマー聖騎士長を押さえてもらいたい」
この言葉に、アンリエッタは目を見開いた。
「今の貴卿にならできるだろう」
アルバートは白の女王を白の歩兵の隣に配置すると、静かにアンリエッタを見据えた。
「貴卿の存在はこの戦いの鍵になる。チェレスティアノ枢機卿がいかに切れ者とは言っても、文官である枢機卿に、武官である聖騎士がやすやすと従うとは思えん。事実上の総指揮官はホーマー卿と見て間違いないだろう。その指揮官の首級を取る――そこまでは行かずとも、釘づけにするだけで敵の統率は乱れる」
アルバートは他の面々を順に見回す。皆の視線がアンリエッタに向かっていた。いや、ドワーフだけはよく分からないが。
「――他の者は隊の指揮があって動けん。その点、貴卿は自由に動けるし、実戦を経て実力も十分だろう」
「わたしは」
「この場にいる以上、選択の余地はないぞ、アンリエッタ卿」
アンリエッタの言葉をぴしゃりと遮ると、アルバートは立ち上がり「軍議は以上だ」と告げ、天幕を出る。皆それに続いて、立ち去っていく。
アンリエッタはしばらく俯いて、膝の上で握った拳をじっと見つめていたが、やがて立ち上がり、自分も天幕を出ていった。
* * *
ガキィッ!
それからしばらく、王国軍本営の一角では、アンリエッタ・ウィルマーがひたすら木偶に斬りつける姿があった。
王国軍の人々は、将校から末端の兵士、有志のジプシャンやドワーフにいたるまで、戦の準備にあわただしく走り回っている。暇を持て余しているのはアンリエッタくらいだった。
「フッ!」
アンリエッタは返す刀で木偶に斬りつける。無心に剣の稽古を始めてからもう一時間、いや、二時間か。そろそろ木偶が崩れそうな頃合いだった。
いたずらに体力を消耗するだけで意味などないと分かってはいるが、それでも動いていなければ心が折れそうだった。
ホーマー聖騎士長は決して悪人ではない。頭が固いだけで、むしろ信心深い、どちらかというと正義感の強い男だ。
そんな相手とでも殺し合いをせねばならないのか。そう思うと気鬱になる。
だが戦である以上、ホーマーも容赦なく向かってくるはず。迷いを持ったまま戦いに挑めば、死ぬのはアンリエッタの方だ。
愚直なアンリエッタは、迷いを振り払う術を他に知らない。
「聖騎士さま」
「――?」
そんなアンリエッタの手を止めるものがあった。
まだ幼く、舌足らずな少女の声だった。
アンリエッタは振り返り、その姿を確かめる。見知った顔、ジプシャンの少女、モニカが木のジョッキを手に立っていた。
「冷たいお水はいかが?」
こちらの様子を気にかけていたのだろうか。
「――ああ、ちょうど喉が渇いていたんだ」
十にもならない少女の気遣いを、アンリエッタはありがたく受け取った。
冷えた水を飲みくだしながら、アンリエッタは横目でモニカを見る。
レヴィアタンの事件のとき、彼女の受けた仕打ちは随分と過酷なものだった。それが他人を気遣えるまでに快復したのは、それだけ時間が経った――からではあるまい。メリッサの尽力の賜物だろう。彼女は《夢》属性の法術の使い手だった。《夢》属性の法術は精神や幻、心を操る。メリッサは、モニカの記憶や感情の一部を改変したのかもしれない。やり方の是非はともかく、メリッサがモニカという一人の少女を救ったのは事実なのだろう。
「君は」
水を飲みほしたアンリエッタは、少し口ごもりながら口を開く。
「なあに?」
「君もここに来たのか?」
「え? うん。人手はいくらでも欲しいからって」
質問の意図を測りかねたのか、モニカは一瞬首を傾げるが、よどみなくそう答えた。
「なぜだ? 君はまだ子供だろう」
剣を鞘に収め、アンリエッタはモニカと正面から向き合ってさらに問う。なぜこんな危険な場所にやって来たのかと。なぜ周囲はそれをみすみす許したのかと。
「だって、自分のおうちになる場所なのよ? 自分で守るのが当たり前でしょう?」
「しかし――元々ドラゴンに襲われていたような場所だぞ。ユリアンたちだって、危険は承知の上だったろうに、なぜ」
「そんな難しいこと聞かれても、あたし子供だから分かんないわ」
長身のアンリエッタに厳しい口調で問われ、多少の威圧感を覚えたのか、モニカがわずかに目を逸らしてそう答える。
「む、すまない」
アンリエッタは少し反省した。どうも子供の相手は慣れない。
「……あたし、まだ子供だから戦えないけど」
モニカは子供なりに、アンリエッタが何かしら悩んでいるのを察してか、言葉を探す。
「何もしないで震えて待っているより、ずっとマシだと思っただけだよ」
モニカは、アンリエッタの目をまっすぐに見上げてそう言った。
「自分で決めて、自分で動くの。それがあたしたちの流儀だから」
その言葉に、アンリエッタの頬が少し緩んだ。
「自分で決めて、自分で動く、か」
アンリエッタは、聖騎士団が陣を組んでいるであろう方角に目を向ける。
「ホーマー卿も、自分で決めて、自分で動いたのだろうか」
「さあ」
モニカは大人びた仕草で肩を竦めた。
「本人に聞けばいいじゃない?」
「――そうだな」
アンリエッタは頷く。
「うん。その通りだ。本人に聞けばいい。首を刎ねるかどうかは、それから決めよう」
アンリエッタは軽く唇を噛んだ。今の教会のやり方が、チェレスティアノの意思に従うことが彼の正義だというのなら、アンリエッタにとって彼は『敵』だ。
哀しいことだが、討たねばなるまい。
「大した自信だねえ」
「ペネロペ殿」
からかい交じりの声をかけてきたのは、向こうの天幕から近づいてくるペネロペだった。
「あんた、あの男の首を刎ねられるつもりでいるのかい」
「必要とあらば、やらねばならんだろう。わたしは聖騎士だ。――君もここに来ていたのだな」
憮然としてアンリエッタが答えると、ペネロペはくつくつと笑って両手を広げた。
「ああ。ユリアンだけじゃどうにも心もとないだろ?」
「幼馴染が気にかかるのなら素直にそう言えばいいだろうに」
「気持ちの悪いこと言うんじゃないよ!」
鳥肌が立っちまったと、ペネロペは両肘を抱いた。アンリエッタは意趣返しをしたような気になって、少しばかり溜飲を下げる。
「ユリアンのことは関係ないさ。飽きたら一人旅にでも出るよ」
気を取り直して、ペネロペはふと肩の力を抜いた。
「――自分で決めて、自分で動く」
アンリエッタが、その先に続くであろう言葉を代わりに口にした。
「それがジプシャンの流儀、か?」
「分かってるじゃないか」
ペネロペはにいと笑った。
「……わたしとはまるで真逆だな」
アンリエッタはその笑顔から目を背けた。誰かのために。裏を返せば、動機や責任を他人に委ねるということでもある。うまく行っている間はいい。つまずいたとき。苦難が押し寄せたとき。それは簡単に『誰かのせい』に裏返る。
「わたしはいつも決断を他人に委ねてきた気がする。聖騎士になったのだって、家族の生活のためだった。今度だって――」
「流されてるようで気が引けるかい?」
「そう、だな」
「別にいいんじゃないか。流されるのを貫き通すのなら、それもまた一つの流儀だろう?」
ペネロペは呆れたような顔をしていた。彼女にして見ればなんでそんなことでうじうじ悩むのか理解に苦しむのだろう。
「あたしにあたしの生き方があるように、あんたにはあんたの生き方があるさ」
そう言ってペネロペは、アンリエッタの肩を叩いた。
「わたしの生き方か」
アンリエッタには、これだと胸を張れる志などない。ただ場当たり的に、感情的に、手を伸ばし、足掻いているだけだ。
アンリエッタは胸の前でぎゅっと拳を握った。大義のない騎士を、人は愚か者と呼ぶのかもしれない。
それでも、アンリエッタには確かに守りたい場所がある。守りたい人がいる。
これが大義ではないと。どうして言い切れるのだろう。
「腹は決まったみたいだね」
「ああ」
ペネロペの言葉に、アンリエッタは力強く頷いた。
「ああ、ペネロペ。ここにいたの」
声とともに歩みよってくる気配。向き直ると、ミリーだった。出会った頃と比べると、ずいぶん上等な服を着ている。下町の飯屋の娘だった彼女も、もうすっかりアルバートの『嫁候補』が板についていた。
「これ、殿下から」
彼女は胸の谷間に隠していた紙片を一枚取り出し、ペネロペに手渡した。ペネロペははらりと折り畳まれた紙片を開くと、その文面を見て目を細める。
「ふうん。あの王子さまも悪いこと考えるようになったもんだねえ」
「おおかた、スタンリー王子の入れ知恵でしょ?」
ミリーはそう言って肩を竦めた。
話が見えない。アンリエッタが口を挟もうとすると、ミリーが身を乗り出し、ぴっと人差し指をこちらに突きつけてきた。
「アンリエッタ、あんたにも用事があったのよ」
「な、なんだ」
ミリーが眦を釣り上げて言うものだから、アンリエッタは思わず身を引いてしまう。
「殿下から苦情。『戦う前から消耗するような真似は控えろ』ですって」
遠回しなアルバートの気遣いに、アンリエッタは思わず微笑んだ。
「――以後気を付けよう」
肩の力を抜いたアンリエッタに、ミリーも笑みを返す。
「勝ったらごちそうよ。お城じゃなくて、《老婆のふんばり》亭でね」
ミリーの言葉に一同が笑った。
「いいね!」
「ああ。最高だ」
アンリエッタはパン、と拳を叩いた。勝つ。そして生きて帰る。今の自分になら、できるはずだ。
* * *
同時刻。
チェレスティアノ枢機卿を総大将とする教会聖騎士団は、ギャウサル方面へゆっくり南下していた。
――起伏のある地形を越えると、兵も馬もそれなりに消耗する。ホーマーは王国軍の内情をある程度把握していた。王国の武力は、その多くを貴族の私兵に依存しており、王国自体の軍事力はさほど大きくない。この戦いにあたって、ヴィクトリア――エルナト王国首脳は教会の侵攻を予期しながらも、国内の保守派勢力の蜂起に備えてか、貴族に対する兵力の動員を控えていた。なおかつ、王都の防衛も怠るわけにはいかないのだから、王家の立場は相当苦しいはずだ。
こうした状況を顧みた結果、ホーマーに割り当てられた戦力は五千騎。妥当な判断とも言えるが、ホーマーはこれを同国への過小評価と考えている。この程度の数で押し切れるほど甘い相手ではないだろう。
それよりも、だ。
チェレスティアノ――先ほどから楽しげに讃美歌を口ずさんでいるこの男は一体、なんのつもりでここにいるのだ。地位の高い枢機卿がいたところで、なんら役に立つわけではない。かえって指揮系統が乱れ、混乱を招くだけだ。
「よろしいのですか」
ホーマーは、隣で馬を操るチェレスティアノに視線を向ける。
「何がだね」
チェレスティアノは笑みを崩さずに答える。
「枢機卿自ら戦場に赴くなど、前代未聞ですぞ」
聖職者が枢機卿になる頃には、若くても齢六十を超えているのが普通だ。ホーマーは彼の実年齢を知らないが、見た目は若くとも、前線に出られるはずもない。
「これはちょっとした喩え話だがね」
言いながら、チェレスティアノは馬のたてがみを撫でる。
「躾の悪い犬に首輪をつけたところで、引き綱を握る者が誰もいなければ意味がないとは思わんかね、ホーマー卿?」
つまり、チェレスティアノはホーマーの心変わりを懸念しているらしかった。
それは、お前たちに後ろ暗いところがあるからだろうと言い返しそうになるのを、ホーマーはどうにか堪えて、押し黙る。
「確かに枢機卿が公式に戦場に赴いた記録はないがね。人を殺した記録なら山ほどあるとも。少なくとも私に関して言えば、君ら聖騎士よりも経験豊富だ」
チェレスティアノはホーマーの内心など気にした様子もない。
「冗談にしては質が悪いですな」
ホーマーは今度こそ不快感を隠さずに言った。
「忠犬は冗談だと思うなら舌を出して笑うものだよ、ホーマー卿」
チェレスティアノはくつくつと嗤った。いつ裏切ってもおかしくないと思っている割には、馬が潰れそうなほど大柄なホーマーを少しも恐れていないらしい。
「さて、君は敵の出方をどう見る」
ホーマーに配慮したわけではなかろうが、チェレスティアノが話題を切り替える。
「相手方にはジプシャンの呪い師がおりますな。こちらの布陣は筒抜けでしょう。東西に部隊を広く展開する手もありますが、それでは統率がとれない。奇をてらわずに正面から数で押し切るのが最良でしょうな」
ホーマーは不服そうな表情を変えずに答える。
「敵方もそれを見越して歩兵隊による密集陣形で防衛、その隙に騎兵隊で脇腹を突く算段でしょう。アルバート殿下ならそうなさるはずだ」
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