人間に慈悲深い捨てられ聖女はその慈悲を捨てた

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第一章 二人の聖女

二話 この国の聖女(2)

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 ふと、烏の鳴き声が部屋に響いた。顔をあげると、もう夕日が差し込んでいることに気がつく。
 あんなにも山積みだった書類の半分はどうやら片付いたみたいだ。けれど、その半分は手つかずのまま終わってしまった。

 効率よく終わらせるためにはどうするものかと頭を悩ませた。

「おい、開けるぞ」

 悩んでいて足音が聞こえなかったのか、いきなり声をかけられ心臓が飛び跳ねるかと思った。
 その後すぐにかちゃりと鍵を開ける音が聞こえてくる。本能的に後ろを振り向くと、協会で働く男がいた。

 私をまるでゴミを見るかのように見下し、持っていたお盆を床に投げつけてきた。
 大きな音と共に、お盆に乗っていた食事が無惨な姿になる。

「お前なんか残飯がお似合いだろ」

 一欠片のカビの生えたパンと数日常温で置かれ、腐っているだろうスープ。それでも私にとっては食事なので、急いで落ちたそれらを回収しようとパンに手を伸ばす。
 けれど、大きな男の足がパンを踏んだ。硬かったのかパンと思えない擬音と共にパンは砕け散ってしまった。

「うっわ!きったねぇ~!」

 そう言いながら男は、スープに足を踏み入れた。人が飲むであろうスープに靴を突っ込み、ばしゃばしゃと音をたてて靴でかき混ぜる。笑いながら、それをひっくり返した。

 しばらくすると、気が済んだのかその足で私の頭を踏んだ。男の力は確かなものだ。私がどかそうとしても微動だにしない。

「きったねぇなぁ~」

 大笑いしながら、一回私の腹を思いっきり蹴ると、その場を去っていく。扉を閉める前に「死ねよ」と言われたのは気の所為だろう。

 ーーー今日の食事は、なしですね。

 蹴られたお腹に手をあてながら、必死に苦しみに耐えた。
 耐えて、耐え抜いた。いつものことだと、耐えるのだ。

 一日に一回、夕飯時に食事が配られるのだが、大体ぐちゃぐちゃにされて終わりだ。
 それでもマシな方は食べるのだが、今回みたいに酷い場合は食べれない。

「水くらい、欲しいものですが」

 いつからだろう、食事に味がないと思ったのは。それなのに、胃液だけは体内から出ていくのだ。
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