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第一章 二人の聖女
一話 この国の聖女(1)
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広く真っ白な長方形の部屋。
神秘的な太陽の絵が描かれている天井、ホコリ一つない透き通るような床、扉には鍵がかけられ、ステンドガラスのような大きな窓にも鍵がかけられている。窓からは色素が写っている太陽の光しか差し込こまない。
部屋の奥には、目を奪われるほど大きく美しい神の銅像が向かい入れてくれる。
そして、神の像の前には小さな長方形のテーブルが一式置いてあった。
テーブルの左右には書類の山が積み重なり、真ん中に少女がペンを持ちながらその書類の山が崩していく。
その書類を崩す少女こと私は、この部屋、協会の広間に監禁されている。なぜなら、力だけは持っているからだ。
力だけは歴代最高の聖女、けれど私は美しくはなかった。もう一人の聖女は力こそ持っていなかったが、愛想がよく、確かに美しかった。
だから私についた名前は、金食い虫。
協会に居座り、何もしない、人間以下の生き物らしい。けれど、私は仕事をやっている。
社畜と言われるほどにやらされ続けていた。
それなのにそう言われるのは腑に落ちなかったが、それも定めだとまた受け入れた。
「おい、さっき渡した仕事はまだ終わってないのか!」
扉の前で誰かの怒声が聞こえてきた。反射的に肩を震わせ、頼まれただろうと思われる書類を探す。
けれど、その書類をこの数千枚もある書類からたった数十秒で探し出すなど不可能だと実感する。
待たせてはいけないと、手を止め、誠心誠意謝罪をした。
「申し訳ありません、終わってません」
「っち、ふざけんなよ……」
「直ちに終わらせます」
誰かの舌打ち、日常茶飯事だ。扉の前にいるため、その人の姿は見えないが、あからさまにイラついていることだけはわかった。
「は?当たり前だろ?お前は失敗作の聖女だもんな~?」
「………はい」
「あぁ!ほんとに!!!!フラウロス様は完璧なのに!なんでお前はっ…!協会の恥晒しが!」
扉を思いっきりぶん殴ったのかその音が反響した。捨て台詞を吐き終わると、足音がどんどん小さくなっていくのが聞こえてきた。
フラウロス様、彼女はもう一人の聖女。
宝石眼の子は直ちに神殿へ送られ、神から名を授かる。今までの名前を捨て、その名前で生きていかねばならない。
私はノルン、彼女はフラウロス。
彼女は人々から崇められ、王宮で王子様方と仲良くしている。その幸せな光景を思い浮かべると、なんとも言えない感情が胸の奥からつっかえてきた。
「自由に、なりたい」
ーーーでも、人間達は捨てられない。
いろんな思いが交差した。逃げ出したい、けれど人間を捨てたくはない。なんて自分勝手な願いだろうと、その思いを胸の奥へそっと閉まった。
神秘的な太陽の絵が描かれている天井、ホコリ一つない透き通るような床、扉には鍵がかけられ、ステンドガラスのような大きな窓にも鍵がかけられている。窓からは色素が写っている太陽の光しか差し込こまない。
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そして、神の像の前には小さな長方形のテーブルが一式置いてあった。
テーブルの左右には書類の山が積み重なり、真ん中に少女がペンを持ちながらその書類の山が崩していく。
その書類を崩す少女こと私は、この部屋、協会の広間に監禁されている。なぜなら、力だけは持っているからだ。
力だけは歴代最高の聖女、けれど私は美しくはなかった。もう一人の聖女は力こそ持っていなかったが、愛想がよく、確かに美しかった。
だから私についた名前は、金食い虫。
協会に居座り、何もしない、人間以下の生き物らしい。けれど、私は仕事をやっている。
社畜と言われるほどにやらされ続けていた。
それなのにそう言われるのは腑に落ちなかったが、それも定めだとまた受け入れた。
「おい、さっき渡した仕事はまだ終わってないのか!」
扉の前で誰かの怒声が聞こえてきた。反射的に肩を震わせ、頼まれただろうと思われる書類を探す。
けれど、その書類をこの数千枚もある書類からたった数十秒で探し出すなど不可能だと実感する。
待たせてはいけないと、手を止め、誠心誠意謝罪をした。
「申し訳ありません、終わってません」
「っち、ふざけんなよ……」
「直ちに終わらせます」
誰かの舌打ち、日常茶飯事だ。扉の前にいるため、その人の姿は見えないが、あからさまにイラついていることだけはわかった。
「は?当たり前だろ?お前は失敗作の聖女だもんな~?」
「………はい」
「あぁ!ほんとに!!!!フラウロス様は完璧なのに!なんでお前はっ…!協会の恥晒しが!」
扉を思いっきりぶん殴ったのかその音が反響した。捨て台詞を吐き終わると、足音がどんどん小さくなっていくのが聞こえてきた。
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宝石眼の子は直ちに神殿へ送られ、神から名を授かる。今までの名前を捨て、その名前で生きていかねばならない。
私はノルン、彼女はフラウロス。
彼女は人々から崇められ、王宮で王子様方と仲良くしている。その幸せな光景を思い浮かべると、なんとも言えない感情が胸の奥からつっかえてきた。
「自由に、なりたい」
ーーーでも、人間達は捨てられない。
いろんな思いが交差した。逃げ出したい、けれど人間を捨てたくはない。なんて自分勝手な願いだろうと、その思いを胸の奥へそっと閉まった。
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