8 / 30
8話:誰の味方にもなれない味方
しおりを挟む
ヴィスカスの街で起きたスライム災害、それは知性を持ったスライムの反逆という事で幕が下りた。
街の人達は目に見えて気落ちしながら巨大スライムによって壊れた箇所の掃除や修復が進められて衣類。
それを見て心を痛めた僕はここで起きた事を皆に説明しようとしたのだが、エイブラハムさんに止められたのだ。
「病気で全滅するから夢を醒まさせたのは自分だと言うつもりか? 止めておけ」
「でも…まるで騙しているようで……」
「もし言えばこの街の連中にリンチされて終わりだ。誰も得しない、お前と一緒に俺とついでにキャラバンの連中にも矛先が向く。お前は自己満足と心中するつもりか?」
そう言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。
僕は滅ぶはずの街を救いたかった、ハッピーエンドが見たかったのに、どうしてこんな事になってしまったんだろうか。
「おいおいフィルっち、もっと前向きに考えろ」
「そのフィルっちって僕のことですか? いつの間にそんなに仲良くなりました?」
この人の距離感が全然分からない。
ただ、近づかれるとそれだけ厄介事も引き寄せられそうなのが心配だ。
「俺達は快楽漬けにする巨大スライムを倒して人を救った。おかげでこの街は病気で滅びる事はないし、スライムの輸出も再開されて街の外も万々歳だ。みんな幸せだ、何を悩む必要がある?」
それを聞き、僕はこの人の不器用な励ましで少し元気が出てきた。
"僕"のせいだとは言わず、"俺達"と言った…二人で背負っているという事を教えてくれたのだ。
「これからはこの功績をトランペットのように吹きまくってラッパ銃の如く散弾をぶちまけてモテモテ街道を突っ走ろうぜ!」
前言撤回…この人、別に何も考えずに適当に動いてるんじゃなかろうか。
いや、あれだけの作戦やら行動やらを何も考えずに実行してた方がヤバイ。
流石は日本が恥じ入る和マンチマンだ、国の名前を背負っているだけはある。
無関係を装いたいから出来ることなら早々に投げ捨ててほしいけれども。
「フフッ、参ったな。今の内にサインの練習でもしとくか? 婚約届けとか出生届けとかで沢山書くことになるからな」
「連帯保証人の書類に名前を書くことになりそうですから、何もしない方がいいと思いますよ」
そうして僕らは一日の休息を挟んでから、エスクードの街に戻った。
ちなみに巨大スライムの討伐による報酬は無い。
街にも被害が出ていたし、仕事として討伐したわけでもないからだ。
少し後ろめたい気持ちがあったことも否定はしないが、なんとか飲み込めている。
ちなみにエイブラハムさんは…。
「お礼なら、気持ちでいいさ。そう…キミの気持ちがいいな」
と、街にいた女性に言ってビンタされて倒れていた。
あまりにも可哀想だったのでフォローする為に手を貸したのだが―――。
「フフッ、優しいね。俺のこと好きなの?」
と言ってきたのでその場で別行動をとった。
あの人の好きになるハードル、ちょっと低すぎじゃなかろうか。
エスクードの街に戻ってから、僕は隊商の人とマジックユーザーギルドに報告しに行った。
ミラノさんやイモラとカルピさんの二人、他の人達も最初は半信半疑だったものの、隊商の人達も説明してくれたおかげで多くの人に信じてもらえた。
「まさか突発的なお仕事を請け負いながら、そこまで活躍されるとは…期待してしまいますね」
「フッ、まぁな。流石は俺…巨大なスライム程度じゃあ準備運動にもならなかった」
ミラノさんが僕の事を手放しに褒めてくるので、恥ずかしい。
ちなみにエイブラハムさんは視界にすらいれてもらえない。
「フン、自分の実力を勘違いするなよ。お前はまだ子供で未熟なんだからな」
「そうだ、調子に乗ってたら十年後に痛い目を見るぞ。なんであんな痛い奴やってたんだってな」
ウッ!…ちょっと前世で心当たりがあるせいでもう心臓がちょっと痛い。
エイブラハムさんはドヤ顔をしながら耳を塞いでいる。
ダメージがあるのなら、もうちょっと普段の言動を省みたほうがいいんじゃなかろうか。
「しかし、これでスライムの輸入も再開されそうですね。実績としてはこれ以上ないくらいのものですよ」
「フッ……俺としてはこの程度じゃあ満足できないんだがな」
僕はミラノさんや色々な人から詳しい話をせがまれる。
エイブラハムさんは諦めたのか、壁際まで移動して腕組みお兄さんと化していた。
「今回はエイブラハムさんのおかげでなんとか上手くいきましたけど、やっぱりもっと修行しないといけないって痛感しましたね」
「そうですね。フィルさんはまだ基本的な≪生成≫≪変質≫≪放出≫≪収束≫しか使えず、≪循環≫や≪増幅≫が使えませんからね」
そう、あの巨大スライムを倒した事で僕の存在階位…レベルのようなものは上がったものの、まだまだヒヨッ子なのである。
「勉強もいいが、装備も揃えなきゃな。杖とかは使わねぇのか?」
そう、マジックユーザーとしての装備も必要である。
今は素手やナイフを利用して魔法を使っているが、本当に使っているだけである。
杖があれば炎を≪生成≫して火傷する事もないし、魔法の精度や速さも向上する。
ただ、それを実現するには一つ大きな問題がある。
「お金が…なくて……」
その場にいた人達の皆が"あぁ…"といった顔をした。
確かに僕は大きな仕事を成し遂げたが、それは隊商の便利役としてだ。
報酬もエイブラハムさんと分け合うことになるし、巨大スライムを倒した事そのものは無償なのだ。
「なぁ…今の内にエイブラハムを始末すれば……」
他のマジックユーザーの人から悪魔の囁きが聞こえてきた。
「いえ、あれでも良い所がないわけじゃあ……」
あとあの人を敵にしたくない。
きっと生涯後悔するような傷跡を残して、さらにそこを化膿させたり破傷風にしてくるくらいはやってくるはずだ。
「良い所があっても、あれじゃあ台無しだろう」
かろうじてこの手をまた赤く染める誘いは断れたものの、その後のフォローまでは手が回らなかった。
ヒドすぎて頭が回らなかったともいう。
「フッ、金がほしいのか。このほしがり屋さんめ、ならばクエストギルドに行けばいい」
エイブラハムさんの提案を聞き、ゲームでも色々なサブクエストを進める為にお世話になった事を思い出した。
そうか、僕もこの世界でそれを利用できる立場になったのかと感慨深い思いがあった。
「そうですね。僕にもできる仕事がないか探してみますね」
「ああ! 行くぞ、俺達のパライソの為に!」
そしてマジックユーザーギルドを出るが、後ろでなにやらドタバタとした音がする。
何があったのかと振り向くと、沢山の人に押さえ込まれているエイブラハムさんが見えた。
「エイブラハムは俺達が抑えておく! 今のうちに行けぇ!!」
どうしよう、別にエイブラハムさんが一緒でもいいんだけど、折角の好意に泥を塗るような気がして止めてもいいって言いにくい。
どうしたものかとエイブラハムさんに視線を送る。
「フッ、ここは俺に任せて先に行け。パインサラダ、サラダ抜きを作って待ってな」
それはただのパイナップルではなかろうか。
まぁでも余裕そうなので僕はクエストギルドに向かう事にした。
その建物はこの街で二番目か三番目に大きな建物のようだった。
多くの人がその建物から出入りしており、それだけ多くの仕事があることを証明していた。
僕はクエストギルドの中に入り、仕事を受注できる場所を探す。
「どうしました、お父さんとはぐれましたか?」
あっちこっちウロウロしていたせいか迷子だと思われたようで、職員のお姉さんに声をかけられた。
「すいません。マジックユーザーなんですけど、仕事を探していて」
僕がマジックユーザーギルドで発行してもらったカードを見せると、驚いた顔をされる。
まぁ僕くらいの子供なら、本当はアカデミーに通っているはずだから当たり前の反応だと思う。
「あっ、それは失礼しました! マジックユーザーの方なら、こちらの窓口にどうぞ」
そう言ってカウンターに案内されて椅子に座る。
他のカウンターは比較的混雑しているのに、ここだけ不自然なくらいに空いていた。
「マジックユーザーの方でここを利用される方はあまりいらっしゃいませんので」
受付のお姉さんは困ったように頭をかく。
それはそうだ、各ギルドに通されなかった仕事がここに集まるので、必然的に選ばれないような仕事ばかりは溜まっていくのだ。
しかもクエストギルドにだって運営資金が必要であり、報酬の一部をもっていかれる。
引く手数多のマジックユーザーでここを利用する人は少ないだろう。
「それでは、今の所マジックユーザーの方でも出来るお仕事はこちらになります」
そう言ってお姉さんはいくつかの用紙を見せてくれた。
マジックユーザーを必要としているというよりも、マジックユーザーでもいいから手伝ってほしいといった内容ばかりである。
ふと、いくつかの依頼を見ていると金額が目立った依頼を見つけた。
「えーっと…迷いの森に消えた男性の捜索ですか」
「あぁ、その依頼ですね。どうもカーティバン村で男性が迷いの森に消えていくというものです。何人かのパーティが捜索に向かったのですが、誰も男性を見つけられず…それどころか皆微妙な顔をして帰って来るので、何が起きてるのかもさっぱりなんです」
カーティンバン村…なんだっけ、聞いたことはあるけど思い出せない。
原作のゲームで出てきたんだと思うんだけど、少なくともメインストーリーには絡んでこないはずだ。
「この依頼は最低でも二名からですので、こちらで除外しておきますね」
そう言って受付のお姉さんが紙を引っ込めようとすると、僕の後ろから伸びてきた手がそれを引き止めた。
「フッ…二人でいいのか? 俺がいれば百人力だ」
そこには汗をにじませ、荒い吐息をはきながら服をちょっとはだけさせているエイブラハムさんがいた。
まさかあの人数の拘束を解いてここまでくるとは、本当に凄い人だ…別の意味も込めてだけど。
「なにせ俺達は…ゼェ……ヴィスカスで…はぁ、はぁ……巨大スライムを倒し……ォェッ」
「あの、無理して喋らなくてもいいんで休んでてください」
どうやらマジックユーザーギルドの人達はそれなりに追い込んだようだ。
やはり数は力である事を強く実感する。
「う~ん…どうしましょうか……これなら一人で向かわせてあげた方がいい気も…」
受付のお姉さんからもいない方がいいと言われているのだが、この人は本当に今まで何をやってきたんだろうか。
聞きたいような…怖いような……逃げられなくなりそうな予感がして聞けない。
この人ほんとは悪魔とか魔族じゃなかろうか。
「取り敢えず、どうなってるかも気になるので請けてみます」
「分かりました。ちなみに、道中で何かあってもあっちの人は事故として処理いたしますので」
そういって受付のお姉さんは地面で胸元をはだけさせてセクシーポーズを取っているエイブラハムさんを見る。
顔はいいのに、どうしてこの人はここまで台無しにできるのだろうか…もうワケが分からない、分かっちゃいけない気もするけど。
「フッ…確かにアクシデントだな。俺に一目ぼれするだなんてな」
受付のお姉さんによる冷ややかな視線が突き刺さるも、それをそよ風のように受け流している。
このメンタルは頼りになるくらいに心強いけど、頼ってしまったら負けな気もする。
一抹どころか不安という泥が身体中にまとわりついているが、僕とエイブラハムさんによるコンビがこれから始まろうとしていた。
街の人達は目に見えて気落ちしながら巨大スライムによって壊れた箇所の掃除や修復が進められて衣類。
それを見て心を痛めた僕はここで起きた事を皆に説明しようとしたのだが、エイブラハムさんに止められたのだ。
「病気で全滅するから夢を醒まさせたのは自分だと言うつもりか? 止めておけ」
「でも…まるで騙しているようで……」
「もし言えばこの街の連中にリンチされて終わりだ。誰も得しない、お前と一緒に俺とついでにキャラバンの連中にも矛先が向く。お前は自己満足と心中するつもりか?」
そう言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。
僕は滅ぶはずの街を救いたかった、ハッピーエンドが見たかったのに、どうしてこんな事になってしまったんだろうか。
「おいおいフィルっち、もっと前向きに考えろ」
「そのフィルっちって僕のことですか? いつの間にそんなに仲良くなりました?」
この人の距離感が全然分からない。
ただ、近づかれるとそれだけ厄介事も引き寄せられそうなのが心配だ。
「俺達は快楽漬けにする巨大スライムを倒して人を救った。おかげでこの街は病気で滅びる事はないし、スライムの輸出も再開されて街の外も万々歳だ。みんな幸せだ、何を悩む必要がある?」
それを聞き、僕はこの人の不器用な励ましで少し元気が出てきた。
"僕"のせいだとは言わず、"俺達"と言った…二人で背負っているという事を教えてくれたのだ。
「これからはこの功績をトランペットのように吹きまくってラッパ銃の如く散弾をぶちまけてモテモテ街道を突っ走ろうぜ!」
前言撤回…この人、別に何も考えずに適当に動いてるんじゃなかろうか。
いや、あれだけの作戦やら行動やらを何も考えずに実行してた方がヤバイ。
流石は日本が恥じ入る和マンチマンだ、国の名前を背負っているだけはある。
無関係を装いたいから出来ることなら早々に投げ捨ててほしいけれども。
「フフッ、参ったな。今の内にサインの練習でもしとくか? 婚約届けとか出生届けとかで沢山書くことになるからな」
「連帯保証人の書類に名前を書くことになりそうですから、何もしない方がいいと思いますよ」
そうして僕らは一日の休息を挟んでから、エスクードの街に戻った。
ちなみに巨大スライムの討伐による報酬は無い。
街にも被害が出ていたし、仕事として討伐したわけでもないからだ。
少し後ろめたい気持ちがあったことも否定はしないが、なんとか飲み込めている。
ちなみにエイブラハムさんは…。
「お礼なら、気持ちでいいさ。そう…キミの気持ちがいいな」
と、街にいた女性に言ってビンタされて倒れていた。
あまりにも可哀想だったのでフォローする為に手を貸したのだが―――。
「フフッ、優しいね。俺のこと好きなの?」
と言ってきたのでその場で別行動をとった。
あの人の好きになるハードル、ちょっと低すぎじゃなかろうか。
エスクードの街に戻ってから、僕は隊商の人とマジックユーザーギルドに報告しに行った。
ミラノさんやイモラとカルピさんの二人、他の人達も最初は半信半疑だったものの、隊商の人達も説明してくれたおかげで多くの人に信じてもらえた。
「まさか突発的なお仕事を請け負いながら、そこまで活躍されるとは…期待してしまいますね」
「フッ、まぁな。流石は俺…巨大なスライム程度じゃあ準備運動にもならなかった」
ミラノさんが僕の事を手放しに褒めてくるので、恥ずかしい。
ちなみにエイブラハムさんは視界にすらいれてもらえない。
「フン、自分の実力を勘違いするなよ。お前はまだ子供で未熟なんだからな」
「そうだ、調子に乗ってたら十年後に痛い目を見るぞ。なんであんな痛い奴やってたんだってな」
ウッ!…ちょっと前世で心当たりがあるせいでもう心臓がちょっと痛い。
エイブラハムさんはドヤ顔をしながら耳を塞いでいる。
ダメージがあるのなら、もうちょっと普段の言動を省みたほうがいいんじゃなかろうか。
「しかし、これでスライムの輸入も再開されそうですね。実績としてはこれ以上ないくらいのものですよ」
「フッ……俺としてはこの程度じゃあ満足できないんだがな」
僕はミラノさんや色々な人から詳しい話をせがまれる。
エイブラハムさんは諦めたのか、壁際まで移動して腕組みお兄さんと化していた。
「今回はエイブラハムさんのおかげでなんとか上手くいきましたけど、やっぱりもっと修行しないといけないって痛感しましたね」
「そうですね。フィルさんはまだ基本的な≪生成≫≪変質≫≪放出≫≪収束≫しか使えず、≪循環≫や≪増幅≫が使えませんからね」
そう、あの巨大スライムを倒した事で僕の存在階位…レベルのようなものは上がったものの、まだまだヒヨッ子なのである。
「勉強もいいが、装備も揃えなきゃな。杖とかは使わねぇのか?」
そう、マジックユーザーとしての装備も必要である。
今は素手やナイフを利用して魔法を使っているが、本当に使っているだけである。
杖があれば炎を≪生成≫して火傷する事もないし、魔法の精度や速さも向上する。
ただ、それを実現するには一つ大きな問題がある。
「お金が…なくて……」
その場にいた人達の皆が"あぁ…"といった顔をした。
確かに僕は大きな仕事を成し遂げたが、それは隊商の便利役としてだ。
報酬もエイブラハムさんと分け合うことになるし、巨大スライムを倒した事そのものは無償なのだ。
「なぁ…今の内にエイブラハムを始末すれば……」
他のマジックユーザーの人から悪魔の囁きが聞こえてきた。
「いえ、あれでも良い所がないわけじゃあ……」
あとあの人を敵にしたくない。
きっと生涯後悔するような傷跡を残して、さらにそこを化膿させたり破傷風にしてくるくらいはやってくるはずだ。
「良い所があっても、あれじゃあ台無しだろう」
かろうじてこの手をまた赤く染める誘いは断れたものの、その後のフォローまでは手が回らなかった。
ヒドすぎて頭が回らなかったともいう。
「フッ、金がほしいのか。このほしがり屋さんめ、ならばクエストギルドに行けばいい」
エイブラハムさんの提案を聞き、ゲームでも色々なサブクエストを進める為にお世話になった事を思い出した。
そうか、僕もこの世界でそれを利用できる立場になったのかと感慨深い思いがあった。
「そうですね。僕にもできる仕事がないか探してみますね」
「ああ! 行くぞ、俺達のパライソの為に!」
そしてマジックユーザーギルドを出るが、後ろでなにやらドタバタとした音がする。
何があったのかと振り向くと、沢山の人に押さえ込まれているエイブラハムさんが見えた。
「エイブラハムは俺達が抑えておく! 今のうちに行けぇ!!」
どうしよう、別にエイブラハムさんが一緒でもいいんだけど、折角の好意に泥を塗るような気がして止めてもいいって言いにくい。
どうしたものかとエイブラハムさんに視線を送る。
「フッ、ここは俺に任せて先に行け。パインサラダ、サラダ抜きを作って待ってな」
それはただのパイナップルではなかろうか。
まぁでも余裕そうなので僕はクエストギルドに向かう事にした。
その建物はこの街で二番目か三番目に大きな建物のようだった。
多くの人がその建物から出入りしており、それだけ多くの仕事があることを証明していた。
僕はクエストギルドの中に入り、仕事を受注できる場所を探す。
「どうしました、お父さんとはぐれましたか?」
あっちこっちウロウロしていたせいか迷子だと思われたようで、職員のお姉さんに声をかけられた。
「すいません。マジックユーザーなんですけど、仕事を探していて」
僕がマジックユーザーギルドで発行してもらったカードを見せると、驚いた顔をされる。
まぁ僕くらいの子供なら、本当はアカデミーに通っているはずだから当たり前の反応だと思う。
「あっ、それは失礼しました! マジックユーザーの方なら、こちらの窓口にどうぞ」
そう言ってカウンターに案内されて椅子に座る。
他のカウンターは比較的混雑しているのに、ここだけ不自然なくらいに空いていた。
「マジックユーザーの方でここを利用される方はあまりいらっしゃいませんので」
受付のお姉さんは困ったように頭をかく。
それはそうだ、各ギルドに通されなかった仕事がここに集まるので、必然的に選ばれないような仕事ばかりは溜まっていくのだ。
しかもクエストギルドにだって運営資金が必要であり、報酬の一部をもっていかれる。
引く手数多のマジックユーザーでここを利用する人は少ないだろう。
「それでは、今の所マジックユーザーの方でも出来るお仕事はこちらになります」
そう言ってお姉さんはいくつかの用紙を見せてくれた。
マジックユーザーを必要としているというよりも、マジックユーザーでもいいから手伝ってほしいといった内容ばかりである。
ふと、いくつかの依頼を見ていると金額が目立った依頼を見つけた。
「えーっと…迷いの森に消えた男性の捜索ですか」
「あぁ、その依頼ですね。どうもカーティバン村で男性が迷いの森に消えていくというものです。何人かのパーティが捜索に向かったのですが、誰も男性を見つけられず…それどころか皆微妙な顔をして帰って来るので、何が起きてるのかもさっぱりなんです」
カーティンバン村…なんだっけ、聞いたことはあるけど思い出せない。
原作のゲームで出てきたんだと思うんだけど、少なくともメインストーリーには絡んでこないはずだ。
「この依頼は最低でも二名からですので、こちらで除外しておきますね」
そう言って受付のお姉さんが紙を引っ込めようとすると、僕の後ろから伸びてきた手がそれを引き止めた。
「フッ…二人でいいのか? 俺がいれば百人力だ」
そこには汗をにじませ、荒い吐息をはきながら服をちょっとはだけさせているエイブラハムさんがいた。
まさかあの人数の拘束を解いてここまでくるとは、本当に凄い人だ…別の意味も込めてだけど。
「なにせ俺達は…ゼェ……ヴィスカスで…はぁ、はぁ……巨大スライムを倒し……ォェッ」
「あの、無理して喋らなくてもいいんで休んでてください」
どうやらマジックユーザーギルドの人達はそれなりに追い込んだようだ。
やはり数は力である事を強く実感する。
「う~ん…どうしましょうか……これなら一人で向かわせてあげた方がいい気も…」
受付のお姉さんからもいない方がいいと言われているのだが、この人は本当に今まで何をやってきたんだろうか。
聞きたいような…怖いような……逃げられなくなりそうな予感がして聞けない。
この人ほんとは悪魔とか魔族じゃなかろうか。
「取り敢えず、どうなってるかも気になるので請けてみます」
「分かりました。ちなみに、道中で何かあってもあっちの人は事故として処理いたしますので」
そういって受付のお姉さんは地面で胸元をはだけさせてセクシーポーズを取っているエイブラハムさんを見る。
顔はいいのに、どうしてこの人はここまで台無しにできるのだろうか…もうワケが分からない、分かっちゃいけない気もするけど。
「フッ…確かにアクシデントだな。俺に一目ぼれするだなんてな」
受付のお姉さんによる冷ややかな視線が突き刺さるも、それをそよ風のように受け流している。
このメンタルは頼りになるくらいに心強いけど、頼ってしまったら負けな気もする。
一抹どころか不安という泥が身体中にまとわりついているが、僕とエイブラハムさんによるコンビがこれから始まろうとしていた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?
chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。
特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。
第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)
平凡なサラリーマンのオレが異世界最強になってしまった件について
楠乃小玉
ファンタジー
上司から意地悪されて、会社の交流会の飲み会でグチグチ嫌味言われながらも、
就職氷河期にやっと見つけた職場を退職できないオレ。
それでも毎日真面目に仕事し続けてきた。
ある時、コンビニの横でオタクが不良に集団暴行されていた。
道行く人はみんな無視していたが、何の気なしに、「やめろよ」って
注意してしまった。
不良たちの怒りはオレに向く。
バットだの鉄パイプだので滅多打ちにされる。
誰も助けてくれない。
ただただ真面目に、コツコツと誰にも迷惑をかけずに生きてきたのに、こんな不条理ってあるか?
ゴキッとイヤな音がして意識が跳んだ。
目が覚めると、目の前に女神様がいた。
「はいはい、次の人、まったく最近は猫も杓子も異世界転生ね、で、あんたは何になりたいの?」
女神様はオレの顔を覗き込んで、そう尋ねた。
「……異世界転生かよ」
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
万能知識チートの軍師は無血連勝してきましたが無能として解任されました
フルーツパフェ
ファンタジー
全世界で唯一無二の覇権国家を目指すべく、極端な軍備増強を進める帝国。
その辺境第十四区士官学校に一人の少年、レムダ=ゲオルグが通うこととなった。
血塗られた一族の異名を持つゲオルグ家の末息子でありながら、武勇や魔法では頭角を現さず、代わりに軍事とは直接関係のない多種多様な産業や学問に関心を持ち、辣腕ぶりを発揮する。
その背景にはかつて、厳しい環境下での善戦を強いられた前世での体験があった。
群雄割拠の戦乱において、無能と評判のレムダは一見軍事に関係ない万能の知識と奇想天外の戦略を武器に活躍する。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる