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決戦兵器:E = mc2
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《25日目:大海原”大喰らい”》
暴風によって船体がきしみ、船は右へ左へ、上へ下へとシェイクされている。
いま俺達は嵐の中を突っ切って魔王ヘカトンがいる孤島に向かっている。
この嵐は魔王が勇者を近づけさせない為に起こしているものだ。
魔王を倒すのに必要な剣、【ストーム・ブリンガー】があれば嵐を静めて安全に行けるのだが、俺達はそれを持っていない。
本来、魔王に挑む為には2つの剣と1つの盾が必要になる。
魔王のいる場所まで導く聖剣【ストーム・ブリンガー】。
一箇所を除き全ての攻撃を防ぐ【アキレウス・シールド】
最後に魔王の力を弱める大地の剣【タルタロス・スティング】。
これが揃えば魔王に勝てると言われているのだが、時間の関係上【タルタロス・スティング】しか入手できなかった。
時間というか俺の寿命だが。
ぶっちゃけ俺が死んでも凜音さんには影響ないからまぁいいかとも思っていたのだが、本人がなんとか1ヶ月で倒そうとやる気を見せてくれたのでこれだけで挑むことになった。
「旦那ァ! 舟が悲鳴をあげてるぜ! もう無理だ引き返そう!」
「大丈夫! 凜音さんを信じろ!」
弱音を吐く船員を励ましながら、ただひたすらに魔王のいる島へと向かう。
どうして凜音さんが関係しているのかというと、彼女のチート能力を悪用しているからである。
俺の知る帆船には衝角と呼ばれる体当たり用の武装がついている。
この世界でもそれをつけ、そこに【タルタロス・スティング】を埋め込み、船底で凜音さんが剣の柄を握っているというわけだ。
これにより、一時的にこの船全体に凜音さんのチート能力”ステータス増加”を船にも適用されるようになり、防御力だけを何十倍にもしているというわけだ。
「見えた! 島だぜ! さっさと上陸しよう!」
何時間も嵐にもまれ続けたこともあり、全員が島を目指そうとする。
「駄目だ! まだ足りない!」
「足りない!? いったい何が!?」
島に上陸して終わりじゃない。
俺達はあくまで魔王を倒す為に来ているのだ。
その為に必要な条件が足りていないのだ。
「やべぇ! 今までで一番の大波が来るぞ! 全員、何かに掴まれ!!」
波というものは水のうねりだ。
風、海底の状況、様々な状況で左右されるが、必ず低くなった後に高くなるものだ。
そして俺はそれを待っていたのだ。
「今だ! マストを広げるぞ!」
「ハァッ!? そんなことしたらどうなるのか分かってんのか!?」
もちろんだ。
普通ならこんな狂風を受ければマストに風の力がかかりへし折れる。
だが今だけは絶対に折れない、折れないのだ。
それこそが凜音さんのチート能力”ステータス増加”なのだから。
「めんどくせぇやつらでシね。ニェがやってやるでシ」
そう言ってニェは身体の一部から触手を出して無理やりマストを広げた。
マストからは普通じゃ聞こえないような音が聞こえるが、まだ折れていない。
「目標! 魔王ヘカトン! 発射ァ!!」
嵐の中で翻弄されるだけの船は、荒れ狂う大波から飛び出し、そして暴風に乗り、飛翔した。
「ひいいいいいいい!! と、飛んでるうううう!!」
船員は全員が悲鳴をあげて船にしがみつく。
流石に空を飛ぶのは初めてだから俺もやりたいがそうもいかない。
誰かが見ていないといけないからだ。
「飛翔OK! 速度増加!」
「はい、速度増加!」
俺の合図に合わせて船の飛翔速度が上がる。
“ステータス増加”の対象となるものには筋力・知力といったものだけではなく攻撃速度といったものまで含まれている。
これは投擲物にも言えることで、同じ腕の振り速度であっても、”ステータス増加”で攻撃速度を上げると投げたナイフが速く飛ぶのだ。
それと同じことを船でやっただけである。
質量と速度をかければそれがエネルギーとなる。
船という巨大な質量に”ステータス増加”による速度をかけあわせれば恐ろしいエネルギーになるだろう。
だがそれだけではまだ足りない可能性がある。
「速度OK! 攻撃力増加!」
「攻撃力、増加!」
「これが俺達の瞬間最大風速だああああああ!!」
船×チート速度で生まれた膨大なエネルギーという名の攻撃力をさらにチートで倍増させる。
今この瞬間だけ船はチートが二乗された魔王絶対殺す兵器というかミサイルになっていた。
数値にしたら恐ろしいくらいの桁のエネルギーが、魔王のいる城に轟音と共にダイナミックエントリーする。
激しい振動、崩れ去る魔王城、そして訪れる静寂……。
「……やったか!?」
「やったどころかオーバーキルですよぅ!」
よかった、ダイヤ様がそういうのなら安心だ。
あれで魔王が死ななかったらどうしようかと思ってた。
「だ、大丈夫ですか……?」
足をふらつかせながら凜音さんが船底から出てきたので手を貸して外に出る。
城は木っ端微塵、瓦礫しか残っておらず、何も残っていなかった。
だがその静寂を否定するように、パチパチと小さな拍手音が響く。
凜音さんが咄嗟にそちらに剣を向けてると、ボロを纏った男がいた。
「あ、貴方は――――」
「久しぶりだね、ダイヤとニェ」
凜音の近くにいたダイヤ様の顔色が蒼白に変わる。
一方でニェはいつも通りの仏頂面だ。
「ねぇねぇ、あれ誰? 昔の男?」
「まぁ間違ってないでシ」
間違ってないの!?
あれ過去の男なの!?
俺って2人目でキープで予備なの!?
「それと魔王討伐おめでとう、後輩くん達。軽く自己紹介でもしようか」
男は立ち上がりうやうやしく頭を下げると急に姿が変化する。
その姿はまるで――――。
「初めまして。オレはニェに追放された先代勇者だ」
暴風によって船体がきしみ、船は右へ左へ、上へ下へとシェイクされている。
いま俺達は嵐の中を突っ切って魔王ヘカトンがいる孤島に向かっている。
この嵐は魔王が勇者を近づけさせない為に起こしているものだ。
魔王を倒すのに必要な剣、【ストーム・ブリンガー】があれば嵐を静めて安全に行けるのだが、俺達はそれを持っていない。
本来、魔王に挑む為には2つの剣と1つの盾が必要になる。
魔王のいる場所まで導く聖剣【ストーム・ブリンガー】。
一箇所を除き全ての攻撃を防ぐ【アキレウス・シールド】
最後に魔王の力を弱める大地の剣【タルタロス・スティング】。
これが揃えば魔王に勝てると言われているのだが、時間の関係上【タルタロス・スティング】しか入手できなかった。
時間というか俺の寿命だが。
ぶっちゃけ俺が死んでも凜音さんには影響ないからまぁいいかとも思っていたのだが、本人がなんとか1ヶ月で倒そうとやる気を見せてくれたのでこれだけで挑むことになった。
「旦那ァ! 舟が悲鳴をあげてるぜ! もう無理だ引き返そう!」
「大丈夫! 凜音さんを信じろ!」
弱音を吐く船員を励ましながら、ただひたすらに魔王のいる島へと向かう。
どうして凜音さんが関係しているのかというと、彼女のチート能力を悪用しているからである。
俺の知る帆船には衝角と呼ばれる体当たり用の武装がついている。
この世界でもそれをつけ、そこに【タルタロス・スティング】を埋め込み、船底で凜音さんが剣の柄を握っているというわけだ。
これにより、一時的にこの船全体に凜音さんのチート能力”ステータス増加”を船にも適用されるようになり、防御力だけを何十倍にもしているというわけだ。
「見えた! 島だぜ! さっさと上陸しよう!」
何時間も嵐にもまれ続けたこともあり、全員が島を目指そうとする。
「駄目だ! まだ足りない!」
「足りない!? いったい何が!?」
島に上陸して終わりじゃない。
俺達はあくまで魔王を倒す為に来ているのだ。
その為に必要な条件が足りていないのだ。
「やべぇ! 今までで一番の大波が来るぞ! 全員、何かに掴まれ!!」
波というものは水のうねりだ。
風、海底の状況、様々な状況で左右されるが、必ず低くなった後に高くなるものだ。
そして俺はそれを待っていたのだ。
「今だ! マストを広げるぞ!」
「ハァッ!? そんなことしたらどうなるのか分かってんのか!?」
もちろんだ。
普通ならこんな狂風を受ければマストに風の力がかかりへし折れる。
だが今だけは絶対に折れない、折れないのだ。
それこそが凜音さんのチート能力”ステータス増加”なのだから。
「めんどくせぇやつらでシね。ニェがやってやるでシ」
そう言ってニェは身体の一部から触手を出して無理やりマストを広げた。
マストからは普通じゃ聞こえないような音が聞こえるが、まだ折れていない。
「目標! 魔王ヘカトン! 発射ァ!!」
嵐の中で翻弄されるだけの船は、荒れ狂う大波から飛び出し、そして暴風に乗り、飛翔した。
「ひいいいいいいい!! と、飛んでるうううう!!」
船員は全員が悲鳴をあげて船にしがみつく。
流石に空を飛ぶのは初めてだから俺もやりたいがそうもいかない。
誰かが見ていないといけないからだ。
「飛翔OK! 速度増加!」
「はい、速度増加!」
俺の合図に合わせて船の飛翔速度が上がる。
“ステータス増加”の対象となるものには筋力・知力といったものだけではなく攻撃速度といったものまで含まれている。
これは投擲物にも言えることで、同じ腕の振り速度であっても、”ステータス増加”で攻撃速度を上げると投げたナイフが速く飛ぶのだ。
それと同じことを船でやっただけである。
質量と速度をかければそれがエネルギーとなる。
船という巨大な質量に”ステータス増加”による速度をかけあわせれば恐ろしいエネルギーになるだろう。
だがそれだけではまだ足りない可能性がある。
「速度OK! 攻撃力増加!」
「攻撃力、増加!」
「これが俺達の瞬間最大風速だああああああ!!」
船×チート速度で生まれた膨大なエネルギーという名の攻撃力をさらにチートで倍増させる。
今この瞬間だけ船はチートが二乗された魔王絶対殺す兵器というかミサイルになっていた。
数値にしたら恐ろしいくらいの桁のエネルギーが、魔王のいる城に轟音と共にダイナミックエントリーする。
激しい振動、崩れ去る魔王城、そして訪れる静寂……。
「……やったか!?」
「やったどころかオーバーキルですよぅ!」
よかった、ダイヤ様がそういうのなら安心だ。
あれで魔王が死ななかったらどうしようかと思ってた。
「だ、大丈夫ですか……?」
足をふらつかせながら凜音さんが船底から出てきたので手を貸して外に出る。
城は木っ端微塵、瓦礫しか残っておらず、何も残っていなかった。
だがその静寂を否定するように、パチパチと小さな拍手音が響く。
凜音さんが咄嗟にそちらに剣を向けてると、ボロを纏った男がいた。
「あ、貴方は――――」
「久しぶりだね、ダイヤとニェ」
凜音の近くにいたダイヤ様の顔色が蒼白に変わる。
一方でニェはいつも通りの仏頂面だ。
「ねぇねぇ、あれ誰? 昔の男?」
「まぁ間違ってないでシ」
間違ってないの!?
あれ過去の男なの!?
俺って2人目でキープで予備なの!?
「それと魔王討伐おめでとう、後輩くん達。軽く自己紹介でもしようか」
男は立ち上がりうやうやしく頭を下げると急に姿が変化する。
その姿はまるで――――。
「初めまして。オレはニェに追放された先代勇者だ」
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