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色々と振り返っていたジャスミンは、物音がして時間だと呼びに来たのかと思って扉の方を見るとそこには思いもしなかった人物が立っていた。


「ミア」
「あんたのせいよ」


勘当されてから、彼女と会うことはなかった。平民となった彼女の格好にジャスミンは、眉を顰めずにはいられなかった。

彼女は、いつも最新のファッションを自慢していた。それが、今や流行りだ何だと言ってはいられないのだろう。


(ここまで、よく入って来れたわね)


招待客には、見えない格好をしているミアは血走った目をしていた。


「あんたが、やったんでしょ!? わかってるんだから!」
「浮気をばらしたのは、私じゃないわ」


(やらうとはしてたけど)


「嘘つかないで! あんたのせいで、私の人生が終わったのよ。それなのにあんたが、幸せになるなんて許せない」


そう言いながら、持って来た裁ち鋏をミアは持っているのが、ジャスミンにも見えた。

「殺してやる!」


それを聞いて、ジャスミンはかつての自分を思い返していた。


(私は、一緒に地獄に堕ちようとしたけど、ミアは相手を殺すことを考えたみたいね)


ジャスミンは、そんなミアを前にしても冷静でいた。別の人生で、王太子妃となり、王妃となったのだ。その人生の中で、ディミトリウスを狙う者やジャスミンを狙う者もいた。そんな時を経験しているのだ。


(誰にも気づかれないように帰ってほしいところだけど、そんな余裕はなさそうね)


ジャスミンとミアは、揉み合いになっていた。








その少し前だった。


「どうした?」
「……胸騒ぎがする」
「胸騒ぎ? 緊張しすぎてるんじゃないか?」


ディミトリウスは、控室の方を見ていた。彼の友人は、そんなことを言っていた。


「あと数十分もすれば、ジャスミン嬢と結婚するんだ。そのせいだろ」
「お前でも、緊張するんだな」
「……」
「ディミトリウス。そんなに気になるなら、様子を見て来てもらうか?」
「いや、私が行く」
「は? おい、待てって! 式の前に花嫁のところに行くなんて、流石にまずいだろ」


友人が必死に止めているとその騒ぎを聞きつけて、彼の両親もやって来た。


「ディミトリウス。いくら、何でも、式の前に花嫁に会うのは駄目よ。全く、そんなこと言って着飾ったジャスミンちゃんに1秒でも早く会いたいのでしょうけどね」
「父上。胸騒ぎがするんです。彼女に護衛は?」
「控室で、友人の令嬢と使用人といると聞いていたが……」
「友人の令嬢たちなら、さっき席に着いていたと思いますが」


ディミトリウスの友人が、そういうとディミトリウスの父親が護衛に確認してくれて、一人で控室にいるとなり、すぐに様子を見させに行こうとしたが、それを聞いてディミトリウスが走り出す方が早かった。


「ディミトリウス!」


ディミトリウスは、止めようとする声を無視して、控室へと急いで行った。


「ジャスミン!!」


控室の扉は、少し開いていた。それに気づいて、ディミトリウスは普段ならやらないことをやっていた。女性の部屋にノックもなく入ったのだ。


「っ!?」


そこで、ディミトリウスが見たのは、ウェディングドレスを血に染めるジャスミンだった。そんな彼女に馬乗りになっているミアが、裁ち鋏でジャスミンを刺そうとしているところだった。

それに血が頭に上ったディミトリウスは、ミアの襟首を捕まえるとジャスミンの上から退けるために後方に引っ張っていた。


「ディミトリウス! っ、何てことだ。すぐに取り押さえろ!!」


ディミトリウスの父親や友人たちが駆け込んで来て、その光景に目を見開いていた。


「ジャスミン。ジャスミン、しっかりしろ」
「医者を呼べ!」


ディミトリウスは、ジャスミンの名前を呼び続けていた。ジャスミンは、腕を切りつけられ、頭も怪我をしていた。

ジャスミンはミアと格闘していて、ディミトリウスが部屋に入って来るまでは意識があったが、彼が来てくれたとわかって意識を失っていた。


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