30 / 31
30
しおりを挟む色々と振り返っていたジャスミンは、物音がして時間だと呼びに来たのかと思って扉の方を見るとそこには思いもしなかった人物が立っていた。
「ミア」
「あんたのせいよ」
勘当されてから、彼女と会うことはなかった。平民となった彼女の格好にジャスミンは、眉を顰めずにはいられなかった。
彼女は、いつも最新のファッションを自慢していた。それが、今や流行りだ何だと言ってはいられないのだろう。
(ここまで、よく入って来れたわね)
招待客には、見えない格好をしているミアは血走った目をしていた。
「あんたが、やったんでしょ!? わかってるんだから!」
「浮気をばらしたのは、私じゃないわ」
(やらうとはしてたけど)
「嘘つかないで! あんたのせいで、私の人生が終わったのよ。それなのにあんたが、幸せになるなんて許せない」
そう言いながら、持って来た裁ち鋏をミアは持っているのが、ジャスミンにも見えた。
「殺してやる!」
それを聞いて、ジャスミンはかつての自分を思い返していた。
(私は、一緒に地獄に堕ちようとしたけど、ミアは相手を殺すことを考えたみたいね)
ジャスミンは、そんなミアを前にしても冷静でいた。別の人生で、王太子妃となり、王妃となったのだ。その人生の中で、ディミトリウスを狙う者やジャスミンを狙う者もいた。そんな時を経験しているのだ。
(誰にも気づかれないように帰ってほしいところだけど、そんな余裕はなさそうね)
ジャスミンとミアは、揉み合いになっていた。
その少し前だった。
「どうした?」
「……胸騒ぎがする」
「胸騒ぎ? 緊張しすぎてるんじゃないか?」
ディミトリウスは、控室の方を見ていた。彼の友人は、そんなことを言っていた。
「あと数十分もすれば、ジャスミン嬢と結婚するんだ。そのせいだろ」
「お前でも、緊張するんだな」
「……」
「ディミトリウス。そんなに気になるなら、様子を見て来てもらうか?」
「いや、私が行く」
「は? おい、待てって! 式の前に花嫁のところに行くなんて、流石にまずいだろ」
友人が必死に止めているとその騒ぎを聞きつけて、彼の両親もやって来た。
「ディミトリウス。いくら、何でも、式の前に花嫁に会うのは駄目よ。全く、そんなこと言って着飾ったジャスミンちゃんに1秒でも早く会いたいのでしょうけどね」
「父上。胸騒ぎがするんです。彼女に護衛は?」
「控室で、友人の令嬢と使用人といると聞いていたが……」
「友人の令嬢たちなら、さっき席に着いていたと思いますが」
ディミトリウスの友人が、そういうとディミトリウスの父親が護衛に確認してくれて、一人で控室にいるとなり、すぐに様子を見させに行こうとしたが、それを聞いてディミトリウスが走り出す方が早かった。
「ディミトリウス!」
ディミトリウスは、止めようとする声を無視して、控室へと急いで行った。
「ジャスミン!!」
控室の扉は、少し開いていた。それに気づいて、ディミトリウスは普段ならやらないことをやっていた。女性の部屋にノックもなく入ったのだ。
「っ!?」
そこで、ディミトリウスが見たのは、ウェディングドレスを血に染めるジャスミンだった。そんな彼女に馬乗りになっているミアが、裁ち鋏でジャスミンを刺そうとしているところだった。
それに血が頭に上ったディミトリウスは、ミアの襟首を捕まえるとジャスミンの上から退けるために後方に引っ張っていた。
「ディミトリウス! っ、何てことだ。すぐに取り押さえろ!!」
ディミトリウスの父親や友人たちが駆け込んで来て、その光景に目を見開いていた。
「ジャスミン。ジャスミン、しっかりしろ」
「医者を呼べ!」
ディミトリウスは、ジャスミンの名前を呼び続けていた。ジャスミンは、腕を切りつけられ、頭も怪我をしていた。
ジャスミンはミアと格闘していて、ディミトリウスが部屋に入って来るまでは意識があったが、彼が来てくれたとわかって意識を失っていた。
41
お気に入りに追加
339
あなたにおすすめの小説
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
【完結】妹の特殊能力が凄すぎる!~お姉さまの婚約者は私が探してみせます~
櫻野くるみ
恋愛
シンディは、2ヶ月以内に婚約者を探すように言われて困っていた。
「安心して、お姉さま。私がお姉さまのお相手を探してみせるわ。」
突然現れた妹のローラが自信ありげに言い放つ。
どうやって?
困惑するシンディに、「私、視えるの。」とローラは更に意味のわからないことを言い出して・・・
果たして2ヶ月以内にシンディにお相手は見つかるのか?
短いお話です。
6話+妹のローラ目線の番外編1話の、合計7話です。
完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。
結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに
「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……
愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。
airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。
どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。
2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。
ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。
あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて…
あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?
朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。
何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!
と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど?
別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)
絶縁書を出されて追放された後に、王族王子様と婚約することになりました。…え?すでに絶縁されているので、王族に入るのは私だけですよ?
新野乃花(大舟)
恋愛
セレシアは幼い時に両親と離れ離れになり、それ以降はエルクという人物を父として生活を共にしていた。しかしこのエルクはセレシアに愛情をかけることはなく、むしろセレシアの事を虐げるためにそばに置いているような性格をしていた。さらに悪いことに、エルクは後にラフィーナという女性と結ばれることになるのだが、このラフィーナの連れ子であったのがリーゼであり、エルクはリーゼの事を大層気に入って溺愛するまでになる。…必然的に孤立する形になったセレシアは3人から虐げ続けられ、その果てに離縁書まで突き付けられて追放されてしまう。…やせ細った体で、行く当てもなくさまようセレシアであったものの、ある出会いをきっかけに、彼女は妃として王族の一員となることになる…!
※カクヨムにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる