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しおりを挟むそんなゴタゴタがあって、王太子は学園では片時もジャスミンの側を離れなくなっていた。
(ここまでになるとは思わなかったわ)
言われ放題なのに耐えていたと思われたようだ。同じ年頃の生徒だからと穏便に済ませようとしていたとでも思ったのかも知れない。
それこそ、あの二人が自滅するのを見届けるためにここにいるとは思ってもいないのだろう。
王妃も、学園で好き勝手にされていたことを知って、あまりの酷さに学園に通わせたのは間違いだったかもしれないと思っているようだ。
(言葉が通じないというより、どこの国でもやってけなさそうな頭しかなかったってだけよね。それこそ、戦争を回避に必死になっているのも、あの二人は理解しきれていなかったようだし)
ジャスミンの母国とここが戦争になれば、勝つのは目に見えている。だが、それをしないのは、疲弊している勝った方とやり合って、どちらも手にしようとする国があるからだ。その国に持っていかれるわけにはいかないのだ。
(それが、まるっきりわかっていなかったのよね)
おめでたい頭をしているものだ。
(なんか、あの人たちを見てるとそんな人たちと地獄に堕ちようなんて思っていた自分が馬鹿みたいに思えてくるわね。そんな人たちと落ちることなんてないのよね。私だって、幸せになっていいはずだもの。……戻ることになったら、言いたいことを言って、伝わらなくとも、思いの丈をぶつけよう。それで、わかってほしい人にわかってもらえなかったら、結婚せずに修道院にでも入ろう)
ジャスミンは、そんなことを思って涙を流した。
浮気がわかって悔しくて泣いた。腸が煮えくり返っても泣いた。
でも、こんな風には泣けなかった。そこまでの気持ちになれなかったのだ。
それが、ここに来てジャスミンは、別の角度から物事が見えるようになっていた。
逃げたいと思っていたのだ。現実から、とにかく逃げたかった。ここでのジャスミンは、自国から逃げて王族でなくなりたかった。
ここではない。別のところにいたジャスミンは、浮気されて婚約者と親友に散々に笑われていた現実から、とにかく逃げたかったのだ。
そこから、逃げたって仕方がないのだ。今回のように同じ容姿をして、内側もそっくりな人たちにジャスミンはどちらでも会ったのだ。
きっと、逃げ続けるたびに同じように出会うことになるのだろう。逃げなくとも、会うのかも知れないが、あんな人たちに負けて幸せを譲ることもないのだ。
そんな風に思ったら、ジャスミンは気が楽になった。
「ジャスミン……?」
「はい。ディミトリウス様」
「……何か、あったか?」
「えぇ、とてもいいことがありました」
晴れ晴れとした顔をしているジャスミンに王太子は、何があったかを聞こうとはしなかった。
「そうか。ジャスミンが、喜んでいるのなら、私も嬉しいよ」
「私も、ディミトリウス様が嬉しいと我がことのように嬉しいです」
ジャスミンは、王太子が喜んでくれるのを見て、初めてこの方の婚約者になれてよかったと心から思えた。
彼のような男性と添い遂げられることこそ、自分の幸福なのだと思えてならなかった。
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