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しおりを挟むジャスミンは、急いで仕立ててもらったことに王妃に礼をのべていた。
(とんでもない服を仕立ててしまいかけて、お金を無駄にしてしまわなくてよかったわ。まぁ、全部を回収しきれていればいいけれど。でも、あの仕立て屋は、もう何処からも依頼されたりしないでしょうね)
王太子と王妃によって、経営が困難になっていることはジャスミンにも容易に想像できた。ジャスミンが、他の人がそんな目にあっていたら、同じように動いていただろうが、今回のことではなるようになるだろうとほったらかしにしていた。
簡単に言うと面倒くさかったのだ。
「いいのよ。本来ならば、王太子がやるべきことだけど」
「え?」
「ごめんなさいね。あの子ったら、指示するだけで、どうなっているかを確認していなかったみたいなの」
「……」
どうやら、王太子はそれが上手くできていないことを知ってショックを受けつつ、次は失敗できないと装飾品をジャスミンに贈るために奔走しているようだ。
だが、そんなことしたことないせいで、上手くいっていなかったことに気づくのが遅くなったらしい。
(どこにでも、私を気に入らないと思っている輩はいるってことよね。王太子殿下なら、贈り慣れていそうなのに)
そんなことを思ったが、ジャスミンは全く別のことを口にした。
「お忙しい王太子殿下を悩ませているとは思いもしませんでした」
「いいのよ。悩ませてやれば……。でも、王太子の公務も不調続きで差し障りがあるみたいだから、この服を着て会いに行ってやってくれないかしら?」
「この服をですか?」
「えぇ、この色が一番気に入っていたでしょう?」
「えぇ、とても綺麗でしたので」
王妃は、それをジャスミンが故意に選んだものと思っていた。
それこそ、全くの誤解だったが、王太子も王妃と同じ誤解をしたようだ。
王妃に言われて、ジャスミンは着替えて王太子のところに向かった。
王太子は、装飾品に悩んでいた。
「王太子殿下」
「あとにしてくれ」
「ですが」
「だから、っ、」
「申し訳ありません。お忙しいところに来てしまったようですね」
「あ、いや、その……」
顔を上げた先にジャスミンがいて、王太子は目を見開いて驚いていた。
「王妃殿下にこの国の服をいただきました。初めての着てみたのですが、どうでしょうか?」
「とても、よく似合っているよ」
「よかった。この色が一番気に入ったんです」
「っ、」
王太子は、その言葉を聞いて顔を赤らめていた。
「王太子殿下。具合がよくないのではありませんか?」
「い、いや、そんなことはない。その、その色が好みなのか?」
「はい。一番好きです」
「そ、そうか」
「?」
その色は、王太子の瞳の色だった。
(何で、そんなに赤くなられているのかしら?)
ジャスミンは、すっかり元いた世界の常識的なことよりも、ここでの自国となっている国の常識で頭がいっぱいになっていて気づいていなかった。
相手の瞳の色を纏わせることは、独占欲を表すが、それを好んで着ることは別の意味があることを。
ジャスミンは隣国から来たから知らないだろうと思いながらも、王太子は嬉しくて仕方がなかったようだ。
「ジャスミン。その色が好きなら、これも気に入ってもらえるだろうか」
「まぁ、綺麗」
王太子は引き出しから、ケースに入っていた髪留めをとりだして、ジャスミンに見せた。王太子の瞳の色の宝石が散りばめられたものだった。
「その」
「謝罪でしたら、無用です」
「だが」
「そのお気持ちだけで、とても嬉しく思います。ですから、どうか、これ以上はお心を痛めないでください。王太子殿下の……、ディミトリウス様のご公務に支障をきたすようなことになれば、私の方がたえられなくなります」
ジャスミンは、悲しげにして瞳を伏せた。その顔は、とても辛そうに見えて、王太子はすぐさまジャスミンの側に近寄った。それは、物凄く早かった。
その頃には、王太子の部屋にいた面々は、音もなくいなくなっていた。
「っ、わかった。もう、気にやまない。だから、そんな顔をしないでくれ」
王太子は、ジャスミンに言われてから、これまで以上に公務も頑張り、時間を見つけてはジャスミンのところに行きつつ、普段着もできたからとこの国をまとい、楽しそうにするのを見てにこにこしていた。
それこそ、強引に婚約して嫌われているものと思っていたら、真逆だったのだと思って王太子は終始機嫌がよかった。
何より、ジャスミンが好きだと言った色が自分の瞳の色なことが嬉しくて仕方がないようだ。
そのため、王宮の庭を一緒に散策するようになって、そんな二人を王宮内ではよく見かけるようになったことで、色んな噂が飛び交うことになったようだ。
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