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しおりを挟む王太子は、ここしばらく浮かない顔をしていた。
ジャスミンが何かと王妃と一緒にいるようになったのだ。会いに行っても、ジャスミンは部屋に居ないことが多かった。
今日も、そうだ。せっかくなら、今日こそジャスミンとお茶をしたいと思っていたら、母に先を越されていたのだ。
チラチラと時計を見て、もうそろそろかと様子を見に行かせたのだが……。
「母上とまだ一緒にいるのか? お茶にしては、長くないか?」
「それが、仕立て屋のことで問題があったようです」
「問題? どんなだ?」
王太子は、ジャスミンが婚約してから、すぐに仕立て屋を呼んだ。だから、もう、仕立てが済んでいるものもあると思っていたが、中々この国の服を纏わないのは、強引に婚約したことが気に入らないからだと王太子は内心でずっと思っていた。
その上、王太子妃の教育係や周りに他所から来たことが気に入らないとばかりに意地悪いことをされていたようだ。それもこれも、王妃がしているのかと思っていたが、王妃のご機嫌伺いたちがやっていたことのようだ。
そんなことをされていれば、この国の服なんて着たくもなくなるだろう。だが、それだけではなくて、婚約者のことも気に入っていないのではないかとも王太子は思っていた。
「は? 仕立てが終わっていないだと?」
「はい。一着も出来上がっていなかったようです」
「っ、どういうことだ!」
王太子は、珍しく声を荒らげていた。その声に報告した者の身体がビクついた。
「申し訳ございません。頼んだ仕立て屋も、あの噂を鵜呑みにしていたようで、ジャスミン姫様のところに仕立て屋が来たのも、少し前だったようです。仕立てあがるのにも数ヶ月かかると言われていたようです。それを王妃殿下が聞いて、すぐに新しい仕立て屋を呼んでくれているそうです」
「そんな、何てことだ」
王太子は、嫌われているのかと思っていたが、それ以前だったのだ。力が抜けたように椅子に座り込んでしまった。
「ジャスミンに一着の服も用意できていなかったなんて……」
物凄いショックを受けていた。それも、そうだ。そんなことあってはならないことだ。
「それで、王妃殿下から伝言なのですが……」
「なんだ?」
「服は、自分が何とかするから、他のものは王太子殿下が直に整えるようにとのことです」
「……おい、まさか」
「装飾品の類も、同じように届いていないようです」
「っ!?」
ジャスミンへの贈り物が何もできていないことに王太子は倒れかけていた。
それこそ、そんなことでショックを受けているとも知らずジャスミンは……。
(こういう時には王太子殿下が来てくれると逃げ道もあるのだけど……)
そんなことで、王太子が来ないかとジャスミンに思われているとは思いもしなかった。
王太子は贈り物が何もできていないことにどんな顔をしてジャスミンに会っていいかがわからなくなってしまい、そこからしばらくジャスミンのもとに通いつめていたのが、遠のくことになった。
ジャスミンは、着せ替え人形となって疲れ果ててしまっていたが、一流の先生たちにお妃教育を見てもらえることになって、楽しそうにしていた。
厳しい先生方だが、意地悪からではなくて、ジャスミンがそれに応えられると思っているからこそ、厳しい先生たちばかりで、それが楽しくて勉強に一層、集中することになった。
そのため、王太子が通いつめて来なくなっていることにも、最初気づいていなかった。
「最近、来られませんね」
「?」
「王太子殿下ですよ」
(あ、そういえば、見かけてないわね)
女官のぼやきにようやく、あっと思ってしまったが、それを顔には出さなかった。
「王太子殿下は、お忙しいのよ」
「でも、2日とあかずにジャスミン様のところに来られていたのに。もう1週間になりますよ」
ジャスミンは、それから更に1週間が過ぎて、仕立てた服が到着したのを見て、遠い目をしていた。
「とりあえずは、急がせたけど。普段使いのものばかりだから、お茶会は仕上げてからにしましょう」
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