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(詫びの品を王妃殿下が、わざわざ持って現れるなんて……)


わざとジャスミンは色々やったのだが、教育係の先生方やジャスミンに散々な態度を取っていた女官たちは、暇を出されてみんな王宮から出て行ったのは、あの後すぐのことだった。

ジャスミン付きの女官たちは、散々な言い方をしていた面々が追い出されたことに喜んでいたが、ジャスミンは喜べなかった。全くもって喜べることではなかった。


(追い出されるのは、私の方になると思ってやったのに。なぜ、こんなことになるのよ)


なぜか、王妃に物凄く好かれてしまったようなのだ。何なら王太子よりも、王妃とお喋りする機会が増えてしまった。

ジャスミンの自国のお茶を飲みながら、ジャスミンの淹れるお茶はどれも美味しいと笑顔になっていた。喜んでもらえるのは嬉しいが、そうじゃない。


「ジャスミン姫。お茶会で、あなたをみんなに紹介したいのだけど、いいかしら?」
「え? お茶会ですか? あの、こちらの服は、まだ出来上がるのに何ヶ月もかかると言われているのですが……」
「……まだ、一着もできていないの?」
「え? えぇ、そう聞いています」
「服は、ここに来てすぐに頼んだわよね?」
「確かに仕立て屋を呼んでくださったようですが、お忙しいようで来てくださるまでに数週間かかったので」
「エルシー」
「すぐに調べます」


王妃付きの女官が、ジャスミン付きの女官を連れ立って確認しに行った。

ジャスミンは、ありのままを伝えた。その仕立て屋が気に入らなかったのもある。そんなのが、王宮の御用達なのかと思ってしまい、この国の服をできれば着たくないとすら思っていた。仕立ててくれているのにわがままなことだが、趣味がジャスミンと合わなすぎたのだ。


「王妃殿下」


王妃の耳元で、女官がとんでもないことを言ったようだ。王妃の目が、カッ!と見開いていたが、ジャスミンはお茶を飲んでいて、それに気づいていないふりをした。


(仕立て屋が夜逃げでもしてたのかしらね)


ジャスミンは、のんびりとあの仕立て屋が営業しているとは思っていなかった。王妃の方を見るとにっこりと王妃がジャスミンに笑ったのだ。


(笑っているはずなのに怖いわね)


だが、そんなことを思っていないかのように平然とした顔をジャスミンは貫いた。


「ジャスミン姫。仕立て屋を呼んだから、そこに任せましょう。私のお気に入りの仕立て屋だから、あなたも気に入ってくれるとよいのだけど、気に入らなければ、他を呼ぶわ」


何かあったようだが、その辺もジャスミンは詳しく聞くことはしなかった。ただ、わざわざ呼んでもらうことを申し訳ないと謝罪をして、礼をのべるだけだった。

どうせ、王妃の機嫌を損ねたくない面々の情報を鵜呑みにして、ジャスミンなんてすぐに追い出されると思われていたのだろう。


(仕立て上がってきても着る気はなかったから別にいいけど。趣味に合わないものばかりすすめられたのよね。あれも、私がこの国のことに疎いと思っての嫌がらせよね。言葉も通じないと思っていたようだし)


気合の入っている王妃とその女官たちとジャスミン付きの女官たちは、ジャスミンを着飾らせることで意気投合してしまい、ジャスミンは数時間ほど着せ替え人形になることになった。


(つ、疲れたわ)


前回は、まるっきり張り切っていなかったジャスミン付きの女官たちが、今度は自分たちの意見も聞いてもらおうと躍起になっていたのは、ジャスミンが王妃に物凄く気に入られていたからだ。


「その色合いを着こなせるなんて……」
「……」
「ジャスミン様は、どんなお色でも組み合わせ次第で着こなせてしまわれますから」
「そのようね。お国の服が一番似合っているけれど、この国の服が一番になってくれると嬉しいわ」


王妃の言葉に何とも言えない顔をしかけたが、すぐに微笑んでおいた。


(危ないわ。疲れて、素になりかけてしまった。もう、そろそろ、勘弁してくれないかしら)


ジャスミンは、そんなことを思っていたが、そこからまだまだ張り切る女性たちから逃れることは叶わなかった。


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