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肩でぜぇーはぁーしながら、深呼吸をした結果。ジャスミンは、ようやく冷静になれて頭を抱えたくなっていた。
するとお相手様は、何か言う前に祝いの品をジャスミンに思いっきりぶん投げてきたのだ。言われ放題になりすぎて、言い返したいがろくな言葉が出てこないほどビビっていたのだろう。言葉にならないとわかり、物で不満を返そうとしたようだ。
それを避けきれずにいたのは、ジャスミンの反射神経が悪いわけではなくて、自分の後ろにいる女官が避けるのは難しいと思い、完全に避けられなかったのだ。
(私がやったことの返しを女官に負わせるわけにはいかない)
「っ、」
「ジャスミン様!」
側にいた女官がジャスミンを心配して、後ろからは悲鳴がいくつもあがっていた。
(前は、もっと上手くやれたのに。こんなところで、失敗するなんて……)
ここに来るまでのジャスミンなら、こんなことにはならなかった。ジャスミンが、アーロへの怒りに我を忘れてしまったせいだ。
(当たり散らす相手を見誤った私の落ち度だわ。でも、女官に怪我がなくてよかった)
「……何の騒ぎだ?」
そこにそれまでとは別の人の声がした。
「?」
(誰……?)
物が壊れる音に驚いたのか。扉を開け放ったところに護衛の騎士らしき人ときらびやかな衣装を纏った見目麗しい青年が、怪訝な顔をして立っているのが、ジャスミンのぼんやりする視界でも辛うじて見えた。
「で、殿下?!」
(え? 殿下……?)
ジャスミンは、その声に驚いてしまった。声を上げたのは、アーロだ。
「すぐに手当てをした方がいい」
騒ぎ立てるお相手様など、まるで居ないかのように殿下と呼ばれた青年はジャスミンに近づいて、血の流れているのに気づいて布を差し出してくれた。
ジャスミンは、見ず知らずの男に顔の傷を晒したくなくて、受け取らずに手でおさえて俯いた。
「汚れます」
「気にするな。手より布をあてた方がいい」
「そんな女に布を与える必要はありません。さっさと出て行け。目障りだ。お前との婚約は破棄する!」
(それは、こちらの台詞よ!)
言い返したかったが、ジャスミンにはその余裕がなかった。それこそ、破棄を突きつけるならジャスミンは自分でしたかった。
女官たちが、ジャスミンを支えて移動していたが、それに手を貸すこともなく、殿下の方に猫なで声を出していた。
「殿下。わざわざお見えになるとは、どんなご用件でしょうか?」
「貴様に会いに来たのではない。……ジャスミン嬢、失礼する」
そう言うとジャスミンを姫抱きして、用は済んだとばかりに来た道をスタスタと歩き始めたのだ。
「あ、あの」
「彼女を王城に連れ帰る。いや、その前にどこかで、傷を診てもらう必要があるな」
「ウィロウ様のお屋敷に寄るのは、いかがですか?」
「そうだな。手配しろ。姉上と義兄上には、私から話す」
「はっ」
騎士は、すぐさま動いていた。
女官たちも、ジャスミンにあんなことをしたところに長居したくはないのは確かだが、どうしたものかと困惑していた。
「安心しろ。この方は、この国の王太子殿下だ」
「っ、!?」
女官たちは、ひれ伏そうとしたが、ジャスミンの怪我を心配して、キビキビと行動した。ここに長居する必要はないと素早い動きで片付けをして、ジャスミンの後を追うように騎士たちが案内する場所へと女官たちは急いだ。
騎士たちは、その早さに驚いていたが、ジャスミンの女官たちは仮の泊まる場所だと思っていた。それこそ、ジャスミンを長く泊めるにしては部屋が酷すぎるとして、荷物の半分も荷ほどきしてはいなかったのだ。
いつかは、ジャスミンにあう部屋に移動するものと思っていたら、婚約を破棄して別の屋敷に行くことになることまでは想定してはいなかったが。
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