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しおりを挟む(目が覚めそうにないわね。これ、本当に夢なのかしら? ……もしかして、もうすでに死んでいて、ここって死後の世界とか言わないわよね?)
ジャスミンは、黒髪となっている自分を鏡で見て、眉を顰めていた。
鏡に映る姿は黒髪が思いのほか似合っているが、やはりジャスミンのところでは忌み嫌われていた色なはずなのに徐々にこの世界ではその考えと真逆なことがジャスミンの中で切り替わり始めているようだ。
それは、この世界で呼吸すればするほど、身体の隅々に行き渡るかのようにここの常識がジャスミンの中で上書きされているようだ。すんなりと受け入れ始めていて、側にいる者に頭をどうかしたと思われることはなかったのは、ありがたかった。
(不思議な感じだわ。この色が、段々と自慢に思えてきてるわ。黒って、こうして見ていると違うものね。黒にも種類があるなんて思わなかったわ。今の私は、この髪が自慢なのよね。自慢したくなるのも、よくわかるわ)
ジャスミンは、黒髪を鏡越しにしげしげと見ていた。
「ジャスミン様? どこか、お気に召されませんか?」
「っ、」
そんなジャスミンに船でジャスミンに話しかけて来たジャスミンに仕えて長い女官が、何か気に障ることでもあったかと声をかけてきた。それに何かしたかと肩を震わせる若い女官が髪を整えてくれていたのだ。彼女を安心させるようにジャスミンは微笑んだ。
「そんなことないわ。とても、素敵。気に入ったわ」
「あ、ありがとうございます!」
若い女官が、深々と頭を下げていた。ジャスミンに似合いそうな流行りになりそうな髪のアレンジを思いついたらしく、それを耳にしたジャスミンがやって見せてと言ったことで、震えながらも一生懸命にやってくれたのだ。
自国での流行りは、位の高い女性が式典や日常でしているのを真似られて流行っていく。そのため、そういうものを思いつく若い女官は、気に入られさえすれば将来は安泰になる。
逆に失敗して、恥をかかせたりするとその首が飛んだりすることもあるが、ジャスミンはそんなことをする女性ではなかった。
それでも、気に入られなければ、ご褒美が貰えないため、それに怯えているようだ。
それこそ、ジャスミンは流行りにならずに恥をかいても気にしたりしないだろうが、流行りにする気がなくとも勝手に流行っていて、それに戸惑うことが多かったようだが。ジャスミンは、自分の過去のことのようで、他人事のように感じることに首を傾げたくなっていた。
(変な気分だわ。ここに来る前のことも、思い返そうとすると思い出せる。ここって、もしかして私の前世なのかしら……?)
ジャスミンは、そんなことを思い始めていた。前世だと思うのは、始めからではないからだ。生まれ変わったのなら、生まれて間もない赤子からになっているはずだと思っていた。
来世だとすれば、こんな中途半端なところから始まるなんておかしいはずだ。そんなことをジャスミンは、ここ数日ぐるぐると考えていたが、今のところ正解がわからずにいる。
「ジャスミン様、どれになさいますか?」
「……それは?」
「こちらの国のお菓子です。流石に自国のお菓子をここで作るのは難しいので」
ジャスミンは、その意味が一瞬わかりかねたが、年若い女官がチラチラとお菓子をそわそわして見ているのに気づいて、あぁと思った。彼女だけではない。他の女官たちも、お菓子に目を輝かせていた。
(そういえば、気に入ったり、良いことをした時は、お菓子を下げ渡すのが、お決まりになっていたわね)
それを貰えるとわかって、ジャスミンのところで働きたがる者は多かった。
ジャスミンは父に溺愛されることで、周りの異母兄姉やその母親たちに嫉妬や妬みを向けられて生きてきた。それが、わかっていてもジャスミンに仕えたいと思うのは、甘いお菓子が全てではなかったが、ジャスミンは気づいていなかった。
父に溺愛され、それを鼻にかけることなく、やられっぱなしでいるだけではなかった。容赦なくやり返すのだ。それも、本人のことで激怒することは滅多になかった。怒り狂う時は、他人のためにやっていた。
そんなことで、女官たちの間では人気となっていたようだが、ジャスミンは見慣れないお菓子を見て、困惑していた。
見た目的に自国のものと落差がかなりあった。味が良いのかもしれないが、目で楽しんで食べることをこの国ではしないのかもしれない。細工も凝ってはいない。庶民が食べるものなのかもしれない。それか、ここではそういう質素なものしかないのかもしれない。
(ここのお菓子ねぇ。女官たちは食べたことないから、口に合わなかったら大変なことになりそうね。どれかを直接渡すのは、避けといた方が良さそうね)
ジャスミンは、ここで目が覚めてから前に食べていたお菓子は大雑把な味のものばかりだったと思っていた。お菓子だけではない。料理も、そうだ。見た目の華やかさがないのだ。
(ここの人たちが、私にわざとそういうものを出しているだけならいいけれど、貴族の食事が華やかでないとなったら、慣れるまでに時間がかかりそうよね)
そんなことを思っていたが、ジャスミンは……。
「そう。こちらのお菓子は、好みがわかれそうだから、好きなのを取っていいわよ」
「っ、」
「まぁ、よかったわね。お取りなさい」
「あ、ありがとうございます!」
直接、取っていいと言っただけでも、嬉しそうにしていた。
(まぁ、好きに受け取ってもらえばいいわ。問題は、食べる気が私にないことよね)
お菓子の山を見て、どうしたものかと思っていたが、女官たちはそれに気づいていないようだ。
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