婚約者と親友が浮気をしているのを知ったので死んで抗議しようと思っていましたが、運命の人と出会えたことで幸せな未来を引き寄せられたようです

珠宮さくら

文字の大きさ
上 下
2 / 31

しおりを挟む

眩しい光に目を思わず、つぶってしまったジャスミン。強烈な光がおさまったと思ったら、違和感を覚えていた。


「……?」


ジャスミンが、気づいた時には、何とも不思議な感覚がしていた。眩しさから解放されて目を開けて見ると何やら先程までと色んなものが様変わりしていたのだ。


(眠ってしまっていたの……?)


ジャスミンは、姿見鏡の前に立っていたはずが、ベッドに横になっていたのだ。そんなに時間が経っているとは、どうしても思えなかった。目をつぶっていたのなんて精々10秒か、そこらのはずだ。なのにその間に横になっているのなら、気絶していたのかも知れないが、そんな感覚もしないのだ。目が覚めたような感覚でもない。

生まれて初めての何とも言い表せない感覚にきょろきょろと周りを見回すとそこはジャスミンが知っている結婚式が行われる教会の控室ではなかった。姿見鏡もなければ、見慣れた洋風ではなかったのだ。


(本で見たことある。和風というやつよね……? でも、何で??)


装飾が異国風なものばかりとなっていて、首を傾げたくなった。ついさっきまでのことのはずなのに眠ってしまったにしては、そんなものに囲まれたところで、なぜ寝ていたのかがわからない。そんな趣味を持っている友人知人は、ジャスミンの側にはいなかったはずだ。


(どこなの? 式は、どうなったの?)


ジャスミンは、上半身を起こして自分の身体を見下ろした。するとウェディングドレスを着ていなかったのだ。


「え……?」


それどころか、異国の装束を着ていた。しかも、ジャスミンの世界では忌み嫌われる黒髪を自分がしていることに気づいて、ぎょっとして自分の髪に触れたがカツラではなかった。


「っ、」


取れるかと引っ張ってしまい、地毛なことに驚きつつ、痛みに涙目になってしまった。カツラだと思っていたが、地毛だったことにかなり抜けてしまった気がする。痛すぎる。


(まさか、人さらいにでもあったの? こんな風に容姿を変えられるなんて、もしかして結婚式でやろうとしていたことを二人に知られて、その仕返しのつもり? あんまりだわ。一体、何で染めたのよ! 黒髪なんて縁起でもない!)


ジャスミンは、慌てて外を見ようとしてベットから立ち上がると部屋が揺れたのだ。いや、揺れたというか、グラグラしていたのはジャスミンが起きてから、ずっとだったようだが、色々といっぱいいっぱいになっていたようで、起き上がろうとしたベッドに倒れてしまった。


「っ!?」


(地震!?)


コンコンコン。


そこに控えめにノックの音が響いた。

ジャスミンは、その音にバッ!と音がしそうなほど素早く扉を見た。


「ジャスミン様? 大丈夫ですか? これから先、もっと揺れるそうなので、お薬を飲んでお休みになられた方がよいかも知れません」
「……」


ジャスミンは、初めて聞く声のはずなのに。なぜか、その声にホッとしていた。それに首を傾げたくなっていた。


(どうなっているの??)


「ジャスミン様?」
「わ、わかったわ。そうする」


怪訝な声音になっていることにまずいと思って、ジャスミンは慌てて答えていた。


(何で、答えているのよ!? それよりも、ここはどこなのかを聞いた方が……)


だが、ジャスミンは不思議な感覚に襲われていた。


(船の中だったかしら。……そう、何処かに行くのに船に乗っていて……)


ジャスミンは、何処に行こうとしているのかを元から知っているような気が段々してきていた。

そんなことになっているとも知らず扉の向こうから、更に声がかけられた。


「それとこの天候ですので、到着は予定よりかなり遅れそうです。無事に予定のところに着ければよいのですが、もしかすると別のところに着いて、そこから馬車になるやも知れません。そうなるとお相手様の誕生日を直接お祝いするのは、ぎりぎりになりそうです」
「……」


(お相手様って、婚約者のこと、よね?)


聞き慣れない言葉にジャスミンは、なぜか、婚約者のことだとすぐに理解できた。それに疑問だらけになり、わけがわからなくなっていた。


(何で、理解できてしまうのかしら?)


「ジャスミン様? 大丈夫ですか?」


(色んな意味で駄目かも。わけがわからなすぎて、頭が痛くなってきたわ。これは、そもそも、現実なの?)


そんなことを思っていると扉の向こうのジャスミンの世話をしているらしい女性は、船酔いが酷くなったのだと思ったようで、薬を飲んで休むように再度言っていなくなった。声をかけている彼女も、気持ち悪いらしく、うぷっと言って口を何度もおさえていた。

ジャスミンが醜態を晒すよりも、彼女自身が危うくて部屋に入って来なかったのかも知れない。

頭の中が混乱しすぎているのと次第に激しくなる揺れに本当に気持ち悪くなったジャスミンは、酔いどめを飲んで眠ることにしたのは、すぐだった。


(目が覚めたら、結婚式のはず。私が死んだ後が、どうなるか見れないのが残念だわ。きっと、地獄で会えることになるわよね)


それでも、このままではお金の力でもみ消して、浮気していた二人がくっつくかもしれない。

それか、初恋の人がジャスミンのことを嘘つき呼ばわりして、認めないかも知れない。


(……それはそれで、腹が立つわ。あの手紙と証拠写真だけじゃ、破滅にさせるのは無理かも知れない。だから、大勢の前で私は死んで抗議して、出席してくれた人たちに何があったかを知ってほしいと思ったのよ)


それが、ジャスミンの生まれて初めて成就させたいことだった。

そんなことでしか抗議できず、ジャスミンには色々ありすぎて他にやりようがあったとまでは行き着いていなかった。

それこそ、そんなんだから馬鹿だと浮気している二人には笑われて馬鹿にされていたのだろうが、この時のジャスミンにはそんな余裕など全くなかったのだ。

彼らだけを地獄に落とそうとするのではなくて、一緒に落ちようとする辺りが、ジャスミンという女性だった。そんな想いをしていることをどれほどの人が受け止めてくれるかはわからないが、結婚式でやりたいことはとにかく死んで抗議することだけだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...