初恋の人にもう一度会いたくて頑張っていたのにそれが叶わぬ願いだと知りました。記憶を失くしても、私の中で消えないものがあったようです

珠宮さくら

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「ミュリエル。お前、隣国であったことで、混乱しているんだな」
「そ、そうね。最近、ラヴェンドラの王太子と婚約者が、それぞれ毒殺されそうになったから、そのせいね」
「え?」


トレイシーは、養父母の言葉に涙が引っ込んだ。


「毒殺?」
「いや、本当はお妃教育がいまいちで、全く進まないから、それを誤魔化そうとして、本人が飲むはずだったのを王太子が飲んでしまったのと何を言っても改善されないのに婚約者を亡き者にして新しい婚約者を得ようとしたらしい」
「何で、そんなことに……?」


(自分が飲もうとした……? それは、誰かに殺されかけたと言いたいから? でも、それで王太子が何で飲むことになるのよ。というか、同じタイミングで毒を盛るって、凄いわね)


「王太子は、国王に婚約者をどうにかしないと王位継承権を返上しろと言われたらしくてな。それで頑張っていたが、お手上げになったようだ。そして、婚約者の令嬢は別のことを頑張ることにしたようだ」
「つまり?」
「毒殺されかけて、具合を悪くしたとして、長時間の勉強は難しいと言いのがれるつもりだったようだ」
「それを王太子とお茶している時にしたと?」
「あぁ、証人にしようとしたようだ」
「王太子は、婚約者を殺そうとしたと」
「あぁ、でも、どちらの毒もミックスされてしまっていたようで、大したことない毒と猛毒の組み合わせで、何とか一命は取り留めたが日常生活は普通には送れないことになりそうだ」


(なんだろう。凄く切ない話の後にこの話は、消化しきれないわ)


トレイシーは、記憶をなくしてから会った2人なら、それもやりそうだと思えて苦笑するしかなかった。


「国王が激怒して婚約は破棄になった。王太子は急な病気となり、療養させると言ったが、そのまま幽閉されることになった。元婚約者の家は爵位を返上すると言ったが、娘の療養をするとして田舎に引っこめさせた。娘の面倒を見るようにさせたが、一命を取り留めた娘をどうせなら、さっさと死んでいればいいと当たり散らしているようだ」


(あの人たちも、変わってないみたいね)


トレイシーは、国王と会った時にあれこれ言われたことを思い出してため息をつきたくなった。


「猛毒を飲ませようとする王太子も酷いが、自分も飲むとはな」
「そこに軽めの毒が混じって一命を取り留めたようだ。そんなこともあるんだな」
「……」


トレイシーは、そんな毒をどうやって手にしたのだろうかと首を傾げたくなったが、両方が飲んだことにどちらも消したかった人が裏にいそうだと思えてならなかった。


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