初恋の人にもう一度会いたくて頑張っていたのにそれが叶わぬ願いだと知りました。記憶を失くしても、私の中で消えないものがあったようです

珠宮さくら

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「ミュリエル嬢か。思い出してしまったのかも知れないな」
「?」


トレイシーは、義姉が元気がなさそうに見えて、婚約した王太子にそれとなく聞いた。すると義姉の亡くなった婚約者が、ラヴェンドラの先の王太子だったと言われたのだ。


(それは、つまり、結婚間近で亡くなったというのは、先の王太子ということ……?)


それを知って、トレイシーの心臓がドクリと跳ねた。


(?)


その理由がトレイシーにはわからなかった。


「トレイシー」
「……はい」
「あまり気に病むな」


王太子にそう言われ、他の家族も気にしすぎることはないとトレイシーは言われたが、それでもミュリエルが気になってならなかった。

するとこれまで仲良くしていたのが、嘘のようにトレイシーに冷たくなったのだ。

それだけではない。また、部屋に閉じこもるようになってしまったのだ。


「……何か用?」
「お義姉様。ずっと部屋にいらっしゃると聞いたので、どこかに出かけませんか?」
「……ずいぶんと余裕ね」
「え?」


トレイシーは、義姉が何を言いたいのかがわからなかった。


「学園の授業と王太子妃となる勉強もあるというのに遊べるの? そんな余裕あるわけないでしょ」
「……」


ミュリエルは、かつてそれで苦労したのか。トレイシーに気を遣わせたくないためなのかはわからないが、構わないでくれとばかりにするのだ。

それだけではない。目が嫌悪感に満ちていた。そんな目で見られたことは、これまでなかった。


(あの目は、私を見ているようで見ていない気がする)


なぜか、向けられているはずのトレイシーは、そう思った。そんな風になるのかと考えても、トレイシーにはわからなかった。

それを見かねたのは、ミュリエルの両親とルパートだ。


「いい加減にしろ! トレイシーに当たり散らすな」
「そうですよ。何が気に入らないのかはわからないけど、あなたのは八つ当たりにしか見えないわ」
「ミュリエル。人にとやかく言われたくないのなら、自力で生きていけ。お前もいい大人なんだ。嫁に行く気がないなら、働くなりしろ」
「煩い! 私の気持ちなんて、誰にもわかるわけがない!!」


ミュリエルの言葉にトレイシーは……。


「そうでしょうね。話す気がないのに察しろ? そんなのできるわけないじゃないですか。あなたにはなり得ないのですから、わかってほしいなら話すしかありません」
「あなた、何様のつもり? 運良く養子になったくせに王太子に見初められた? あなたなんかが、王太子に見初められるわけないじゃない!! 勘違いしすぎる前に婚約なんてやめることね」
「……」


それは、ずっと溜め込んだミュリエルの本音のようにトレイシーには聞こえた。


(この方は、これが本性だったのかも。まぁ、王太子の婚約者になるなら、色々と必要でしょうね)


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