初恋の人にもう一度会いたくて頑張っていたのにそれが叶わぬ願いだと知りました。記憶を失くしても、私の中で消えないものがあったようです

珠宮さくら

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養子になってから、トレイシーは学園に通うまでになっていた。再び貴族の娘になったのだ。この国の学園を卒業しておかないと後々困るのは、トレイシーだけではない。養子にした家も困ることになる。

それは記憶をなくしたトレイシーにもわかった。ただ、学園と聞いて、ずっと気乗りしない顔をしていた。


「トレイシー。不安なのか?」


トレイシーの顔を見て義兄となったルパートがそう聞いてきた。だが、それにトレイシーが答える前に養父母が……。


「お前なら、問題なく授業に行ける。案ずることなど何もない」
「そうですとも。先生たちも、あなたが通うのを楽しみにしていたではありませんか」


確かに先生たちは、大喜びしてくれていた。特に1人の先生は、トレイシーが記憶喪失になる前の知り合いだったようで、記憶がなくなろうとも変わらないと周りの先生たちに触れ回っていた。


(前の私の話をされても、私にはわからないのよね。……でも、ここまで気乗りしない理由もわからない。とても面倒くさいのよね)


勉強することは好きだ。新しいことを知ることも、好きなはずだが、学園にいい思い出がないのかもしれない。

だが、それを言えばラヴェンドラの学園は、どうなっていると言われそうだ。ただ、そう思うだけでしかないため、トレイシーは下手なことは言えずにいた。

そんなトレイシーが、学園に編入した日のことだ。


「あれが、ラジヴィウ公爵家の養子か?」
「記憶がないんだろ? いきなり、この学園に通うのは難しいんじゃないか?」


学園生たちは、遠巻きにトレイシーを見ていた。


(この視線も気にはならないけど、早く友達を作った方が良さそうね。先生方と語らうのも楽しいだろうけど、友達ができなくなってしまう)


トレイシーは、友達が欲しいと思っていた。授業よりも、同い年くらいの女の子の友達と年頃の令嬢のやることをやってみたかった。だが、その友達をどう作ったらよいものかと悩みながら、それをどうしようかと思うと楽しくなっていた。

そんなことを思っているとパーシヴァルの弟と会うことになった。もっとも、今のトレイシーにはパーシヴァルのことなど、覚えていない。


「お前!」
「?」
「猿女! ここで何をしてるんだ!」
「……猿?」


トレイシーは記憶をなくしていることもあったが、この子息と会うのは記憶が合っても初対面だったのだが、子息の方は親が離婚することになって散々な目に合うことになった元凶のようにトレイシーを目の敵にしていたため、すっかり知っている人物になっていた。

だが、トレイシーの記憶がないことを知らない上、ラジヴィウ公爵家の養子になった相手だとも知らずに猿呼ばわりしたのだ。問題にならないはずがない。

この後、色んなところから叱られることになるが、この時の彼はこれ幸いと怒鳴り散らした。それは、日頃の鬱憤が溜まっていたのも大きく関係していた。ようやく、自分より下の人間を見つけたと思って意気揚々としていたのだ。

その全てが、ただの勘違いだったのだが、彼は気づいていなかった。


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