初恋の人にもう一度会いたくて頑張っていたのにそれが叶わぬ願いだと知りました。記憶を失くしても、私の中で消えないものがあったようです

珠宮さくら

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そんな騎士団の面々に段々と可愛がられるようになったトレイシーは、護衛されている商人ともすぐに意気投合した。


「トレイシー嬢と話すのは楽しいですな」
「私もです」


そんなことをして、大いに盛り上がりながら隣国にたどり着くことになった。騎士団の面々は、ちんぷんかんぷんなことで盛り上がっていて、その話題についてこれている者は僅かしかいなかった。


「なぁ、あの2人が何言ってるかわかるか?」
「……お前は?」
「さっぱりだ」
「俺もだ。あの2人の頭の中、どうなってんだ?」
「あの2人にしかわからない話し方してるからだろ。混じるとトレイシー嬢は、わかりやすく言い直してくれるぞ」
「は? お前、混じったことあるのか?」
「おぅ、でも商人にすげぇ目で見られるから、もう混じらん」
「「……」」


商人がいないところで、トレイシーに色々聞く者は増えていった。何気ない悩みを言っただけでも、解決してくれるのだ。

それに騎士団長は、頼られる存在からすっかりトレイシーを頼りにしている騎士たちに頭を抱えたくなったようだが、その中心で楽しげにしているトレイシーを見て何も言うことはなかった。


「なんか、アットホームになりましたな」
「……」
「まぁ、騎士団ともなれば、大きな家族のようなものでしょうから、良いのでは?」
「……和みすぎて、使い物にならなきゃいいが」


騎士団長と商人は、そんな話をして団長のボヤキに商人は笑っていた。

それを見て、トレイシーも笑顔になった。

その商人にトレイシーは、ぜひうちで働いてくれと言われることになり行く宛などないトレイシーは、そこで働くことになった。

騎士団の面々も、よく顔を出してくれて商人は呆れて、そんなんで護衛ができるのかと嫌味をよく言っていた。

トレイシーの顔を見に来つつ、相談をしたり、商品を買ったりして帰るのだが、そんな中にあの若者もいた。

誂うばかりのことを言っていたため、今更トレイシーとどんな話をしたらよいのかわからなくなっていたが、トレイシーはそんな彼のことを覚えていなかったりする。

その時、店の前で強風が吹き荒れ、近くの木にスカーフが引っかかってしまったのだ。


「あれ、お気に入りなのに」
「っ、自分が……」


若い騎士が、自分が取ってくると言おうとした時だ。


「え……?」


その騎士の横を一陣の風が通り抜けたかと思えば、トレイシーが木の高いところに引っかかったスカーフを取って、身軽に降りて来たのだ。


「っ!?」
「どうぞ」
「まぁ、まぁ、ありがとう! なんて、身軽に動けるのかしら。まるで、曲芸を見ているようだわ!」


トレイシーは、何でもないような顔をしていたが、それを見ていた若い騎士は悔しかった。


「あんなこと、女性がやることじゃない!」
「……」
「あー、まぁ、怪我したら大変だ。トレイシー嬢、次からは俺らがいるんだ。譲ってくれ」
「譲る……?」
「あら、女性だろうとも、できる人がやって問題があるのか? あんなに見事に木登りができるのに」
「奥さん、騎士の面子というやつですよ」
「あら、でも」
「……見せ場というやつですね。うっかりしていました」


トレイシーは、騎士たちを見た。その中に最初に女性がやることじゃないと言ったのもいたが、見せ場と聞いて更にトレイシーと目があって顔を赤くしていた。


「そんなことしていたら、嫁の貰い手がいなくて困るだけだ」
「……」
「おい、よせ」
「ちょっと、若い方。こんなに素晴らしいお嬢さんが、嫁ぎ先がないですって? 失礼にもほどがあるわ」
「そうだぜ。器量もよくて、愛想もいい。人の相談にも親身になってくれて、あんたら騎士たちすら頼りにしてんじゃねぇか。そんなお嬢のどこ見て言ってんだ」


街の人たちも、若い騎士の言葉にイラッとしたようだ。


「馬鹿。お前、何言ってんだ」
「すまん。こいつの教育はなってなかった。トレイシー嬢、こいつが言ったことは気にするな」
「え? あ、すみません。聞いてませんでした」


他の客の相手をしていたトレイシーは、呼ばれて首を傾げた。

その若い騎士は、騎士団長に説教され、他の騎士たちからも怒られ、トレイシーのところに行くのを禁止されることになった。

他の騎士たちも、あの時いた面々が色々と話したせいで、しばらくあの商人の店に行けず、トレイシーにも会うことができなかったほどの反感を買ったのだ。

そのため、騎士団長が申し訳なかったと頭を下げるまでになり、トレイシーは……。


「すみません。本当に何があったんでしょう?」


色んな人たちが騎士団を近づけまいと怒っているのには気づいたが、何があったかを把握できずにいた。そんなトレイシーに誰も何があったかを話すことはなかった。


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