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しおりを挟むラヴェンドラの国王が心配する2人は、王弟が調べ上げた時には既に一緒にいた。更には木登りする姿を見たがっている人たちがいることすら知らず、亡くなった人に似ていることと記憶をなくしても、どうにかこうにかしているのを見て、敵わない人を思い出して落ち込んでいる人がいることも知りもしなかった。
その人たちを知っていたとしても、大丈夫だと思われて身内のことでいっぱいいっぱいになる人たちだ。
まぁ、本当にトレイシーは大丈夫だと思っているから、どうぞ身内に構ってあげてと本人は言うだろうが、そんな彼らに頼られればできることはしただろうが、そんな人たちを頼ることはなかっただろう。
そんな頃、トレイシーは新しい出会いをたくさんしていた。
(この方が、ルパート様の妹さん)
これまで見てきた中でも美人な人がトレイシーの目の前にいた。これまでと言っても、記憶を一度失ってからだから、かなり最近からしかないが、それでもとても美人なのは確かなはずだ。
(婚約者を亡くして戻って来たなら、この容姿だもの。引く手あまたでしょうに。どこにも行きたくないほど、まだ亡くなった婚約者を忘れられないみたいね)
そんなことを思いながら、ここにたどり着くまでのことを思い返した。
その後、ルパートと出会ってから、ラヴェンドラを出て彼が所属している騎士たちと合流したのだが、トレイシーが一緒なことにこれまた色々と言われていた。
(妹さんだけではないみたいね。美形だから、僻んでいるのもあるのかも。……僻まれるほどではないのに。困っている人を見過ごせないだけで、申し訳ないわ)
ただ騎士団長は、ルパートがざっくりと紹介したトレイシーをじっと見て……。
「雰囲気が似てるな」
「?」
「やはり、そう思われますか?」
「あぁ、すげぇ、危ういぞ。拾ったなら、最後まできっちり面倒みてやれ」
騎士団長は、そんなことを言った。それには、周りで冷やかしていた面々も黙った。
「その言い方は、返事しづらいんですが」
「……あの、皆さん、ここで何をなさっているんですか?」
「ん? あぁ、訓練と護衛だ」
トレイシーは、犬猫のような言われようをしているというのにそちらに関して全く気にしていなかった。
そんなトレイシーを冷やかしていた面々も、なんか違うなと思ったようだ。記憶になくとも、マーセイディズに毎日のように学園で色々言われていたのだ。
記憶がある時からは、両親に色々言われるのを聞いていたのもあり、そういう類いのことに反応せずにスルーすることも難なくできた。その話題以外には普通にするのだ。
それなら、普通に話をしてくれる方を話題にするようになった。しつこく反応を見せないことを話題にしているととても残念なものを見る目をされるのだ。
「お前、いい加減にしとけ」
「あんな目をされてまで、絡むことか?」
「っ、」
意地になって絡む若い騎士がいたが、トレイシーの目が段々と心を抉るような目になっていて、何も言われていないのにかなり応えていたようだ。周りからは、色々言われていても意地になっていた。
「トレイシー嬢。若いのに絡まれてるそうだな」
「? え、そうなんですか?」
「……気づいてないのか?」
「ん? あぁ、多分、聞いてないし、見てないんだと思います。なにせ、記憶をなくした娘の心配より、怒鳴り散らすのに毎日付き合わされていましたから。安静にしていろと言われて、ベッドから出れないせいで、気が済むまで何日も付き合わされていたんです。大事な要件以外は、頭が休んでしまうんですよ」
騎士団長は、それに親の顔をした。
「我が子の心配もしない奴がいるとはな」
「ずっと、そうだったようです。記憶があった時の方が長く付き合わされていたんです。私は、数日だけでしたから」
「だとしてもだ。なんか困ったことあれば、言え」
「え、それをわざわざ言うんですか?」
「ん?」
「困ったことなんて、解けない難問のようではありませんか。そんな解きがいのあるのを誰かに言うのなら、自分で解きたいです」
「……くくっ、そうか。お嬢さんは、危ういように見えて、あいつの妹には全然似ていないな」
そう言って騎士団長は、楽しげに頭を撫でた。トレイシーは、楽しげにしているのを見てきょとんとしていた。
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