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しおりを挟む「マーセイディズ様、大変ですわ」
マーセイディズの取り巻きの1人が駆けて来た。昨日、あんなことをゼノス公爵家の次男にしたのも、すっかり忘れてマーセイディズはのんびりしていた。そんな余裕などないのだが、学園では煩くお妃教育のことを言われないため、授業が終わっても長く学園にいるようになっていた。
それに付き合わされているのは、取り巻きたちだ。そのため、毎回付き合うのもローテーションになり始めているが、マーセイディズは1人でも取り巻きがいれば、それでいいようだ。
それを緩和するためにマーセイディズの思考の矛先を自分たちに向けないように必死になっていた。
「何かあったの?」
「また、トレイシーのこと?」
「いいえ。いえ、そうなのかも知れません。ゼノス公爵夫人が、次男の子息を連れて、ご実家に帰ってしまったそうなんです」
「まぁ! それは、大変だわ。離縁なさったの?」
「いえ、そこまでにはなっていないようです」
「ナヴァル子爵家の方は?」
「ゼノス公爵夫人に子爵夫人が色々と言われたようで、お茶をすることはなくなったようです。でも、そのことで、ゼノス公爵様と夫人が喧嘩になったみたいです」
「最悪ね。他所の夫婦の仲を引き裂くなんて、最低だわ」
マーセイディズの言葉に取り巻きたちは、それぞれアイコンタクトをしながら頷いていた。それにマーセイディズは、気づいていなかった。
それこそ、トレイシーが最低なのではない。マーセイディズが、ゼノス公爵家の次男に話をしたから、こんなことになったのだが、そんなことをしたつもりのないマーセイディズはトレイシーのせいだとボロクソに言った。
取り巻きたちは、マーセイディズに付き合わされる日々に嫌気がさし始めていた。
気をそらすためにしているとは言え、マーセイディズが話せば話すほど、そこまで必死になって煽てなくても良さそうなのだ。
トレイシーに対して同じことしかしていないし、周りからの言葉を褒められているとずっと勘違いしているのだ。
昨日、気をそらすためにお茶をするという話題をマーセイディズにして、まずかったのではないかと思い始めていた。
でも、マーセイディズは全くそのまずさにも気づいていないのだ。それにお妃教育が全く進んでいないのにそれから逃れることに必死になっているのだ。
そんなのが、順調に王太子妃になれるのかと疑問に思えてきたのだ。そんな取り巻きたちの心情など知らず、マーセイディズはトレイシーを探しに行こうとしていた。
また、わざわざ探し行くのかと取り巻きたちはげんなりしていたところにトレイシーが通りかかり、マーセイディズにそのことで責め立てられることになった。それはいつものことと違っていて、聞き流すことをトレイシーはしなかった。
「私のせい……?」
「そうよ! あなたが、お茶に誘われたりするからよ」
「……」
トレイシーは、マーセイディズにそんなことを言われて、何とも言えない顔をしていた。
マーセイディズの隣にいる取り巻きたちは、なぜか居心地悪そうにして視線を逸らしていた。
(私というより、この状況からして、マーセイディズが何かしたみたいね。それにしても、授業が終わってもお妃教育をせずに学園に残っていると噂を聞いたけど、この取り巻きたちはそれに付き合わされているのだとしたら、いい迷惑でしょうね)
トレイシーは、そんなことを思っていた。
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