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しおりを挟むそんなことがゼノス公爵家で話されていたとも知らずにそこから誘われることになったとは思っていないトレイシーの浮かれきった両親よりも、蟻の子息のことを思い出していた。
失礼な思い出し方だと思うだろうが、当の本人からしたら、思い出してもらえているだけで大喜びしていたことだろう。
「……あの方とお茶は、楽しそうね」
疲れていた心に思い出された蟻を並んで凝視していた頃を思い出していた。
(そういえば、あの時には王太子の婚約者候補になっていたのよね)
あれやこれやと話したのは、トレイシーが一方的だった。
(あの方は、結局何を見ていたんだろう?)
観察している目は澄んだ瞳をしているのに寂しそうにも見えた。働く蟻を見ていたのかはわからないが、思わず知っていることを話してしまっていた。
それが気になったこともあり、トレイシーは会おうとしたが、それができなくなることが起こるとは思わなかった。
ゼノス公爵は、息子とその令嬢をあわせて自分も会うためにあることを思いついた。
それが、妻と次男の耳に入っても、だいぶ後のことになると思っていたが、別のルートでそれを耳にした者によって、阻まれることになるとは思っていなかった。
それを耳にしたのは、マーセイディズだった。
「ゼノス公爵様とその子息が……?」
マーセイディズが、取り巻きたちがトレイシーとお茶をしたがっていると聞いて、そんなことさせてなるものかと思ったのは、すぐのことだった。
偶然会ったかのようにして、まともな方と言われている公爵子息にそれとなく聞いたのだ。
あちらは、マーセイディズのことをよく知らなかったようだ。ただ、王太子と婚約した令嬢で、婚約者候補になった1人を猿と呼んでいるのを見かけたくらいだ。
「は? いえ、私はナヴァル子爵家のご令嬢と会う約束などしておりませんが?」
「……本当に? ゼノス公爵様も時間があれば、ご一緒すると聞きましたけど?」
「父上と? ……まさか、兄上と会わせるつもりか?」
「あなたのお兄様……?」
「あ、いえ、その、用事を思い出しましたので、これで失礼します!」
次男だとは、マーセイディズは思っていなかったようだ。慌てていなくなったのを見送り、マーセイディズは……。
「あの方に兄なんていたの?」
「……聞いたことがありますわ。頭のおかしな子息がいるとか」
「えぇ、そちらの方をゼノス公爵様は贔屓しているとも聞いています」
「贔屓? 頭のおかしなのを贔屓しても、公爵家が恥をかくだけじゃない」
「そうですわよね」
「そう。何だ。そんなのとトレイシーが会うのね。ふふっ、それは、お似合いでしょうね」
マーセイディズは、おかしそうに笑い、取り巻きたちも顔を見合わせてから、一緒にその通りだと大笑いした。
「何、あれ?」
「また、トレイシー様に何かしていたの?」
「トレイシー様は、見当たりませんけど」
おかしそうに笑う姿を見た候補まで残っていた令嬢たちは……。
「はぁ、駄目ね。あの方が何かする相手は、トレイシー様と決めつけすぎているわ」
「確かにそうね」
「よくありませんわよね。そうなってほしいのに」
何でもマーセイディズが機嫌よくしているのは、トレイシーに関することと思っているのがおかしいと思って、彼女たちは反省したが、全くおかしくはなかった。
マーセイディズは、そういう令嬢だったが、誰もがそこまでではないと思ってしまっていた。優秀な令嬢たちですら見誤るほどの令嬢が、ここにいた。
それが、王太子が残り4人と話して決めた相手なのだ。見る目がないにもほどがある。
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