初恋の人にもう一度会いたくて頑張っていたのにそれが叶わぬ願いだと知りました。記憶を失くしても、私の中で消えないものがあったようです

珠宮さくら

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だが、しばらくして、パーシヴァル・ゼノスは珍しく怒りを露わにした。珍しくというか。基本、何を考えているのかがわからない子息で、大きな声を出すこともしたことがなかったが、この時ばかりは違っていた。

いつも神出鬼没で、気の赴くままに生きていたパーシヴァルは、どこかに行っていたかと思えば戻って来るなり……。


「父上!」
「何事ですか? 旦那様は、執務中ですよ」
「兄上。また、何かしたんですか? 恥ずかしいから、やめてくださいとあれほど……」
「父上!!」


母と弟の声など聞こえていないようにパーシヴァルは、父を呼んだ。目の前にいる2人のことなど、どうでもいいかのようにしていた。

それに母と弟のトバイアスは、益々腹を立てたが、それすら無視した。

騒ぎが聞こえて父親は姿を現した。


「どうした?」
「お話があります」
「だから、邪魔は……」
「2人共、いいから下がっていろ。パーシヴァル、中で話そう」


父は、息子のパーシヴァルのことをよく知っていた。ここまでして呼ぶのだから、大事な話なのだと思っていた。息子のことはよくわかるが、逆に妻ともう1人の息子の方は、理解が難しいところがあった

だが、公爵家の嫡男は頭がおかしいとよく言われているせいで、母と弟は邪魔なことばかりしていると思っていて、そんな風に謂われているとは思っていなかった。それこそ、まともなのは自分たちの方だと妻と次男は思っていた。

おかしいのは、常に長男であり、その味方ばかりをする夫であり、父親だと思っていた。

パーシヴァルの話ばかりをきちんと聞こうして連れて行くのをイライラしながら見ていた。いつも、そうだ。優先するのは、パーシヴァルの方だ。


「全く、あんなのがこの家を継ぐなんて、恥をさらすだけになるというのに。旦那様が、甘やかすからつけあがるのよ」
「本当にその通りですね。兄上のせいで、何度笑われたことか」
「その上、学園にもろくに行っていないというのに。あんなのがこの家を継ぐなんて、どうかしているわ」
「全くです。私が、学園でどれだけ兄のことで耐えているか」
「そうよね。可哀想に」


そんな話をしているのは、いつものことだった。もっともパーシヴァルのことを笑っているのは一部で、兄以上に弟の方が笑われていたりするのだが、この親子も言葉通りに捉えて中身を理解していなかった。

笑われているのは、頭のおかしな長男のことだと思っていた。だから、この時もパーシヴァルがまたおかしなことをしたのか。しようとしていると思って、どうにかしなくてはと思っていた。

それをゼノス公爵家の使用人たちは……。


「おいおい、また、何かする気か?」
「流石にしないだろ。奥様は、旦那様と約束なさっているんだし」
「確かに。だが、あれは忘れている気がするのは気のせいか?」


そんなようなことを思って使用人たちは、面倒に巻き込まれたくないとばかりに見ないことにした。

この時、怒られるとわかっていながら、夫人に何か言っていたら違ったかもしれないが、みんな迷惑を被りたくなかった。

それに行動を起こす前に首をささないと今したところで意味をなさないような頭をしていた。

そんなところが、そっくりな親子だった。根に持ち続けても、他の大事なことを忘れるような頭をしていた。


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