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しおりを挟むそして、王太子も色んなことを勘違いしていた。
マーセイディズを王太子がお茶に誘う前のことだ。
トレイシーがあれから寝込んでしまい、今も落ち込み続けるほどに自分と婚約したかったのではないかという噂を聞いて、最初は馬鹿にしていたが気になりだしていたのもあった。
会った時に「誰?」と言われていたというのにこの王太子も、マーセイディズにそっくりなところがあったようだ。都合のよいところしか覚えていなかった。
それにマーセイディズの本性を知ってしまうと……。
「話して見ればよかったな」
行動だけで判断するのではなくて、話しておけばよかったと王太子は思うまでになるのも早かった。
それもこれも、マーセイディズの行動が異常すぎるのとそれに関する愚痴や小言やらを毎日必ず耳にするようになったのも大きかった。
「フィランダー殿下! マーセイディズ様にお妃教育に専念していただかなくては、先生方がこぞって辞めようとなさっておられます」
「……そこまでなのか?」
「はい。それとマーセイディズ様は、婚約してから散財してばかりおられます。国王の耳にでも入れば……」
「はぁ、わかった。注意する」
王太子は、執務に追われながら、その報告を聞いて益々失敗したとしか思えてならなかった。
他の候補者はトレイシー以外が、次々と良縁に恵まれていき、王太子に選ばれなかったおかげだとまで言われているようだ。
「お似合いか。……あんなのと私が、お似合いなんて言われたくない」
王太子は、言葉通りに捉えることはなかった。マーセイディズは、それを褒め言葉と受け取っているようで、そんなのを選んだ自分が情けなくなっていた。
そうなると自分が一番のハズレを引いた気がして、マーセイディズをどうにかしようと会えば会うほど。変わってもらおうと言えば言うほど、更に酷くなるとは誰が思うだろうか。
その標的にされ続けるトレイシーは、未だに王太子のことを嘆き悲しんでいた。
生きている方の王太子のことではない。そちらの顔も、声も、あの人に似ていないことしか覚えていないが、トレイシーがもう一度会いたいと恋い慕う人とはまるで違うことだけはよくわかった。
ただ、現実を受け入れられずにいた。いや、トレイシーは途方に暮れていたと言った方が正しいかもしれない。
(私の知るあの人ではなかった。私は、次に何をしたらよいのだろう……?)
何をしたらよいのかが、トレイシーには思いつかなかった。ただ他の婚約者候補たちのように誰かと婚約する気にはなれなかった。
そんなことがあって、王太子はマーセイディズにたった一度、言いたいことだけを言っただけで、マーセイディズは改心すると思っていた。
よくよく考えれば、その程度で変わるような令嬢ではなかったはずだが、王太子は執務が忙しいからと報告を聞くことすら怠ったことで、自分の首すら絞めることになっていることに気づいていなかった。
ただ、報告に来た者のしばらく会っていないから、会ってみたらいいと言われるまま、会う気になったが、本当は婚約者を学園で探すより、猿と呼んでいた令嬢が、どうしているかが気になっていたことが大きかったのかもしれない。
だが、色々とありすぎたのとあれだけ猿呼ばわりしていた令嬢の方がいいなと思い始めていることを誰かに言うことはなかった。
木登りしている姿を見て、忘れていた何かを思い出しそうになったが、それを猿呼ばわりして忘れようと無意識にしていることにも、気づいていなかった。
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