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しおりを挟む生贄が、ハナに決まったことを村人たちに知らせた後、次の満月の時に儀式を行うこととなった。次の満月まで、そんなに日はなかったが、その日を待ち望む者など、この村にはいなかった。
みんなぎりぎりで食べ物がないことに苦労していても、やはりよく知っている子供が生贄になるのに躊躇いが大きかったようだ。
できれば、自分たちがよく知らない女の子が、この村に現れやしないかと言う者までいたほどだった。
「そんな都合よくいくわけなかろう」
「だが、そうなったら、ハナちゃんが生贄にならんで済む」
「それは、そうだが」
ハナは満月まで、好きに遊んでればいいと言われていたが、家の手伝いをしているようだ。
父親と兄が畑仕事をしているところに冷たい井戸水を汲んでは運ぶのが、日課だった。
「おっちゃんたちのもあるよ!」
「おぉ、わしらの分も持って来てくれたんか」
「うん! 今日から、みんなの分も汲んで来る」
「ハナ。んなことせんでもえぇよ」
「ううん。やりたいの。今しか、みんなにお手伝いできないから」
それにハナの兄は涙していた。父親は、ハナがしたいことをやらせてやりたいと頭を下げて来て、男たちは泣きそうになりながら水を受け取って、お礼を言った。それにハナは、満面の笑顔を見せていた。
「やっぱり、他の子がえぇな」
「そうだな。よぅ知らん子なら、心も痛まんしな」
「ここに迷い込んで来る子なら、いらん子だほうしな」
村人たちは、そんなハナの姿に他の子供が現れないものかと思い始めていた。
そんなことを思う村人は、日に日に多くなっていった。みんながみんな、ハナの笑顔を見れば見るほど、いたたまれない顔をし始めていた。
歳のいった老人は、ハナを見ては目を潤ませ、見ただけで泣き出す者までいた。そんな大人たちにハナは困ったような顔をしながら笑顔でいた。
「ハナが、困ってるだろうが」
「ハナちゃん見て泣くんじゃねぇ」
「一番泣きたいのは、ハナちゃんだ」
それを聞いて、泣いていた老人は頷いていたが、あまりに泣く老人にハナは泣かないでと頭を撫でるものだから、益々泣いてしまい、それにつられて泣き出す大人たちにハナはおろおろすることもあった。
だが、それはその一度きりだった。みんな泣き腫らしたような顔をしながらも、ハナの前で泣くことはなくなった。
「別の子が、ここに来てくれたらえぇんじゃ」
土地神様にその子を生贄にしたいと願う者も日に日に増えていた。
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