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しおりを挟むエリシュカが跡継ぎになることになってから、ユスティーナは学園でも、家でも、妹に話しかけるタイミングが掴めずにいた。それが長くなるにつれて、憂いを帯び始めていた。
それこそ、いつもなら呼びかけたら反応してもらえるのに最近では、勉強に集中しすぎているせいでエリシュカの耳に声が届いていないのだ。
エヴシェンの声はたまに勉強のことで、そんなこともわからないのかという声に反応するというのにユスティーナの心配する声が妹には届かないことに姉は物凄く悩んでいた。
あんなに頑張っているのに何かできることはないのだろうかと思っても、今の状態ではエリシュカの邪魔にしかなりそうもない。余計なことをして、邪魔なことは決してできない。
だが、すっかり余裕のなくなったエリシュカが笑わなくなっているのを見ているのも辛かった。このままでは、いつか身体を壊してしまいかねない。
だからといって、頑張るななんて言えるわけもない。適当なんて、中途半端なことをエリシュカは好まないのだ。とりあえずは、全力投球をするのだ。それを邪魔するなんてことをユスティーナは選ぶことは、妹にはできないと決めつけるようなものだ。
あれやこれやと考えれば、考えるほど、ユスティーナはすっかり意気消沈していた。美人が、そんな風にしていると萎れた花のようになっていて、気になって仕方がない。
「ユスティーナ」
「……王太子殿下」
妹が頑張っているのを見ているしかできない状況にユスティーナは、何とも言えない顔ばかりをするようになっていた。
王太子もまたユスティーナ同様、エリシュカのために何かできないかと思っているが、何も思いつかずに心なしかしょんぼりしているように見えた。
そんな二人を見て周りは……。
「あの二人、喧嘩をなさったわけではなさそうね」
「でも、お二人とも元気がないのよね」
エリシュカと話すことがなくなって、王太子も元気がなくなっていた。ユスティーナと同じく癒しが足りずに王太子も遠目にばかりエリシュカを見ていて、美男美女が揃って元気のない姿に周りで見ている面々も目の保養だと言っていられなくなっていた。
「やはり、あのお二人もエリシュカ様が心配なのね」
「でも、今日は楽しそうにされていたわよね」
「っ、それは、本当なの?!」
「「っ!?」」
ユスティーナは、珍しくエリシュカの話題にくいついたのだ。それにその話をしていた令嬢たちの肩が跳ねていたが、ユスティーナと一緒になって王太子もその話題にくいついたことで、令嬢たちはエリシュカのことを話すことにした。
「……エリシュカに勉強を?」
「えぇ、その方の声は聞こえたようです」
「あんなに楽しそうになさっているのを久々に見ましたけど、エリシュカ様はやはり笑っておられる方がいいですわね」
「笑っていたの? そう、あの子が……」
ユスティーナは、それを聞いて嬉しそうにして笑顔になり、王太子もつられるように笑顔となった。
そんな輝かんばかりの笑顔を美男美女がしたことに話をしていた令嬢たちも、周りもざわめくほどの威力があった。
「よかったな。ユスティーナ」
「えぇ、その方にお礼を言いたいわ。一体、どなたなの?」
ユスティーナは、令嬢たちにエリシュカを笑顔にした人物を聞いて驚いていた。ユスティーナだけでなくて、王太子も珍しそうにしていた。
「彼が、そんなことをするとはな。こっちに留学しているとは聞いてはいたが、彼も婚約破棄したばかりで、令嬢と関わろうとするとは思わなかったが……」
王太子は、名前を聞いてそんなことを言った。どうやら、知っている人のようだ。
ユスティーナは、このあと王太子と二人っきりになって、どんな人物なのかを問いただしたことは忘れなかった。
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