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しおりを挟む「エリシュカ嬢。そこ、違ってますよ」
「え? どこですか?」
エリシュカは、悪戦苦闘しながら解いたものが違うと言われたことで、すぐさま反応した。それこそ、わざとではない。その声だけは、なぜかよく聞こえたのだ。
最近では、両親や姉の言葉もエリシュカの耳には届かなくなっていたが、彼の声はしっかりと聞き取れたために返答したにすぎなかった。
そちらを見るとエリシュカは見知らぬ人が、そこにいた。
父や兄や王太子といった異性の美形に慣れているエリシュカは、それなりに美形と会っても態度を変えるなんてことをしたことがなかった。変な緊張をすることもなければ、じっと見つめられても顔を赤くすることもない。不思議そうにじっと見返して、相手が顔を赤くすることはよくあったが、見つめ合って顔を赤らめたことはなかった。
兄や王太子とは、また違った美形に誰だっただろうかと思いつつも、それよりも違っているところが気になってしまい、彼の名前を聞くことをすぐに忘れてしまった。
彼もまたあまりにも必死になって、跡継ぎとしての勉強をするのを見ていたことで、頑張っているエリシュカを応援したくなったようだ。彼女が、自分のことが誰だかわかっていなさそうなのに気づきながらも、彼女が気になっているところを教えることを優先したのだ。
「ここですよ。ここは……」
とある人が間違いを教えようとしたところで、ヤルシルとラディスラヴァが喧しくなった。
「ちょっと、聞こえてないふりしないでよ!」
「そうだぞ!」
「? あれ、二人共、どうして、ここにいるの? クラス違いましたよね?」
「「!?」」
きょとんとした顔をして、とても不思議そうに言うエリシュカは、自分がクラスを間違えたのかときょろきょろとした。
それには教えてくれた人のみならず、他の生徒も笑った。
エリシュカらしい行動にイライラしていた雰囲気が霧散したのは、すぐだった。
エリシュカは本気で、ヤルシルたちがここにいることに疑問を持っているだけだったようだが。
「エリシュカ嬢。あなたは、間違っていませんよ。お二人共、そろそろ授業が始まりますから、ご自分たちのいるべき場所に戻られたら、どうですか?」
「「っ、」」
二人は、貴族の出身だが成績がいまいちなせいで、エリシュカとはクラスが違っていたのだ。前まではエリシュカが、二人に勉強やらテストのヤマをあてていたが、それをしなくなったことで一番下のクラスになってしまっていたのだ。
それは、エリシュカが跡継ぎになる前に試験の結果が悪すぎて、追試をしても赤点となってしまい、異例のことだが、途中からクラスがかわるはめになってしまったのだ。
それなのにエリシュカに嫌味を言いたいがためにつきまとっているのだ。それをエリシュカは全く聞いていなかったのだが、周りはエリシュカにどうにかしろとは思ってはいなかった。
ヤルシルとラディスラヴァが、自分たちの立場を理解すれば済むとしか思っていなかったのだ。
「本当にそうね。毎回、煩くてかなわないわ」
「ここで、お喋りしたいなら、成績をあげてからにしてほしいよな」
「あげられればだが」
「「っ、」」
そんなことを言われて顔を真っ赤にした二人が、エリシュカのいるクラスに姿を見せることはなかった。
もっとも、姿を見せてもエリシュカが彼らの声に反応することはなかっただろう。エリシュカにとっては、もはや自分が用がない限り、彼らとまともに話す気がなくなっていたのと構っている余裕などなかったのだが、ヤルシルとラディスラヴァは更に恥をかかせたと思ってエリシュカのことを色々と言っていたようだが、その話をまともに聞こうとする者は、もはや一人としていなかった。
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