30 / 52
30
しおりを挟む帰宅するとそわそわと待っていたユスティーナに出迎えられることになった。エリシュカの顔を見て、ホッとした顔をする姉に心配をかけてしまったのだと思えて申し訳なく思えた。エリシュカは、疲れきっていたが、心配かけまいと微笑んだ。
「エリシュカ。お帰り」
「ただいま戻りました。お姉様」
エリシュカは、姉に抱きしめられることになり、泣きそうになってしまったが、その背中に腕を回して抱きついたことで、ユスティーナが嬉しそうにしていたなんてエリシュカは知りもしなかった。
そこにエヴシェンもやって来て、何があったかと話すことになった。彼は、大して興味なさげにしていたが、そこにいた。
エリシュカとしては、大したことはないと思っていた。ヤルシルの望み通りになったのだから、それで終わりでよいと思っていたが、そうはならなかったのだ。
両親がエリシュカ以上に疲れた顔をしていたため、何かあったと思ったようだ。
もっとも、両親のみならず、エリシュカも酷い顔をしていたが本人は、それに気づいていなかった。
「は? エリシュカ、あなた、二人を婚約させてと頭を下げたの?!」
ユスティーナは、両親からそんなことがあったと聞いて、凄い顔をしてエリシュカに詰め寄って来た。それにエリシュカは、引き気味になってしまったが頷いた。
「えぇ、相思相愛だと思ったので。二人で何かと過ごすほどですから、婚約することが望みだと思ったので、お願いしたんです」
「……」
「彼は、物凄く喜んでくれていましたし、あちらのご両親も認めてくれたので、よかったです」
相思相愛だと思ってのことだとわかり、ユスティーナが両親の顔を見ていることにエリシュカは気づかなかった。まだ、邪魔だと思われていたことにショックを受けて俯いていたことで、家族がどんな表情をしているかに気づいていなかったのだ。
そんな余裕、今のエリシュカにもなかった。心から、相思相愛な二人を祝福したいのに複雑な気分となっていて、それができないのだ。そんな自分が物凄く嫌な人間のようで、嫌でならなかった。
「そう。エリシュカは、本当に優しいわね」
姉は、エリシュカを抱きしめながら、そんなことを言ってくれた。
エヴシェンは、それを聞いて、こんなことを言った。
「エリシュカでも、そんな風に気をつかえたんだな」
それにエリシュカは首を傾げたくなったが物申したのは、エリシュカではなかった。
「エヴシェン。あなた、ずっと思っていたけど、やたらとヤルシルの肩を持つのね。どうして、あんな男の肩ばかりを持つの?」
「姉さんたちこそ、どう考えても、今回のことの発端はエリシュカの配慮のなさのせいだと思わないのが不思議だ。エリシュカが余計なことしなきゃ、ラディスラヴァ嬢がヤルシルを慰めたりしなかったんだからな」
「は? 何を言ってるのよ!」
エヴシェンも、ヤルシルと同じ思考をしているようだ。
両親も、エヴシェンがラディスラヴァとヤルシルの味方することにイラッとしたようで口論となったが、エリシュカは兄の言葉に深くショックを受けてしまい、落ち込んでしまったままだった。
配慮さえしっかりしていれば、こんな風にお互いが無駄な時間を過ごすこともなく、平和にことが運んでいたに違いない。
よかれと思っていたのに上手くいかないものだと思って、エリシュカは人知れずため息をついていた。
その間、エリシュカ以外の家族が言い争っていたのだが、エリシュカは全く聞いていなかった。
でも、まさか聞いていないと思っていない両親やユスティーナに何かと心配され、使用人たちからも気を遣われることになっても、エリシュカは全く別のことで落ち込んだままだった。
114
お気に入りに追加
955
あなたにおすすめの小説
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

その発言、後悔しないで下さいね?
風見ゆうみ
恋愛
「君を愛する事は出来ない」「いちいちそんな宣言をしていただかなくても結構ですよ?」結婚式後、私、エレノアと旦那様であるシークス・クロフォード公爵が交わした会話は要約すると、そんな感じで、第1印象はお互いに良くありませんでした。
一緒に住んでいる義父母は優しいのですが、義妹はものすごく意地悪です。でも、そんな事を気にして、泣き寝入りする性格でもありません。
結婚式の次の日、旦那様にお話したい事があった私は、旦那様の執務室に行き、必要な話を終えた後に帰ろうとしますが、何もないところで躓いてしまいます。
一瞬、私の腕に何かが触れた気がしたのですが、そのまま私は転んでしまいました。
「大丈夫か?」と聞かれ、振り返ると、そこには長い白と黒の毛を持った大きな犬が!
でも、話しかけてきた声は旦那様らしきものでしたのに、旦那様の姿がどこにも見当たりません!
「犬が喋りました! あの、よろしければ教えていただきたいのですが、旦那様を知りませんか?」「ここにいる!」「ですから旦那様はどこに?」「俺だ!」「あなたは、わんちゃんです! 旦那様ではありません!」
※カクヨムさんで加筆修正版を投稿しています。
※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定も緩くご都合主義です。魔法や呪いも存在します。作者の都合の良い世界観や設定であるとご了承いただいた上でお読み下さいませ。
※クズがいますので、ご注意下さい。
※ざまぁは過度なものではありません。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

私を捨てた元婚約者が、一年後にプロポーズをしてきました
柚木ゆず
恋愛
魅力を全く感じなくなった。運命の人ではなかった。お前と一緒にいる価値はない。
かつて一目惚れをした婚約者のクリステルに飽き、理不尽に関係を絶った伯爵令息・クロード。
それから1年後。そんな彼は再びクリステルの前に現れ、「あれは勘違いだった」「僕達は運命の赤い糸で繋がってたんだ」「結婚してくれ」と言い出したのでした。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる