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しおりを挟む「エリシュカ嬢。あなたが、そのことで頭を下げることはないんだ」
「そうよ」
エリシュカは、ヤルシルとラディスラヴァがなんだかんだと相思相愛なのだと心から思っていた。色々とエリシュカに言っていたのも、婚約したいからだと思っていたのだ。そうでなければ、あんな風におかしなことをするとは思っていなかった。
浮気していたと言わるようなことをして、ヤルシルをほったらかしにしていたせいで、ラディスラヴァと仲良くなったのも仕方がないことだと思っていた。
エリシュカは、自分の至らなさが招いた結果だと思っていた。ヤルシルたちを責める気持ちなんて全くなかった。
ラディスラヴァが、エリシュカの好きな子息だと思って近づいて、奪おうとしてのことだとは欠片も疑ってはいなかったのだ。
「エリシュカ! お前、わかってくれていたんだな!」
それにヤルシルだけが、変な感激をしていた。彼は、エリシュカと婚約破棄をして、すぐにでもラディスラヴァと婚約したいと思っていたようだ。
だが、ラディスラヴァと浮気していたとバレることになったことで、婚約するのは絶望的だと思って落ち込んでいたようだが、彼もまたラディスラヴァに好かれていると本気で思っていた。ラディスラヴァの思惑が、どこにあるかなんて考えてもいなかった。
エリシュカが浮気していたとあることないことを言って婚約破棄しようとしたことについての謝罪なんてこれっぽっちの誠意も彼は見せなかった。
ただ、エリシュカが全て悪くて、そのせいで婚約が破棄となった。そうすれば、すぐにラディスラヴァと婚約できると思っていたようで、そう信じさせたのも✘にだったようだが、さも自分で考えたかのように見せているのも、エリシュカに代わりにやらせて自分の手柄にしていたのと同じことをしているのに過ぎなかった。
そんな程度の子息なのだ。それなのに下げなくてもいい頭をわざわざ下げて頼み込むエリシュカに感激しているヤルシルは周りがどんな顔をして自分を見ているかなんてことに気づいてはいなかった。
そんな息子に彼の両親が何とも言えない顔をしていたのを目撃していたのは、エリシュカの両親だった。
両家の両親は、無言の会話をしていたが、子供たちは気づいていなかった。
「あなた、ここまでエリシュカちゃんが言うのですもの。婚約させてあげましょう」
「そうだな」
「っ、!?」
ヤルシルは、嬉しそうな顔をしていた。エリシュカも、よかったですねと言っていたが、邪魔だと思われていたことに引っかかりがあったままだった。嘘をつかれて、浮気していると言われたことより、邪魔だと言われたことだけが、エリシュカの中でズシリと重みを増していたが、エリシュカはそれに気づかないふりをした。
それでも、喜んではしゃぐ元婚約者に何とも言えない笑顔を見せていたが、両方の両親は浮かれるヤルシルを白けた目で見ていた。
最後まで、エリシュカに申し訳なかったと誠心誠意、謝罪していたのは、ヤルシルの両親だけだった。
だが、浮気していると思いこんで散々なことを言ったことへの謝罪はなかったことで、エリシュカの両親は今後、この家との付き合いをする気はなかった。
ヤルシルの両親は息子さえ、どうにかすれば問題なく付き合い続けるものと思っていたようだ。だが、どの家からも距離を置かれることになることまでは想定していなかったようだ。
その辺りも、息子にそっくりだったようだが、最悪な事態になるまで気づくことはなかった。
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