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しおりを挟むそんな両親のもとに生まれたエリシュカは、どちらを怒らせたら怖いのかなんてわからなかったし、考えることもしたことがなかった。
周りは、どちらもそれなりに恐ろしいと思っているようだが、エリシュカにはとても優しくてこれ以上ないほどの理想の夫婦でしかなかった。
「また、お茶会で昔話を聞いて来たのか」
「はい! とても楽しかったです」
「……そうか。よかったな」
父親は、きらきらした瞳でそんなことを言われて苦笑するしかなかった。父は、妻ともう一人の娘を見るも肩を竦めるばかりで、止める気は全くないのがよくわかった。
エリシュカが楽しそうにしているのを見て、程々にしておきなさいと父親すら言うのが精一杯だった。こんな顔をされては、駄目だと言えなかったのだろう。
そんな昔話をよく思っていない者に何か言われていないことに不思議に思っているようだが、夫婦二人になったところで、妻に気になっていたことを尋ねていた。
「時間を毎回、それとなく遅めに伝えてくれているから鉢合わせして騒がれることにはなっていないのよ」
「そうか。……でも、よく、それで気づかれないな」
「昔から、抜けているから」
それを聞いて、どちらがなんて言わなくとも、エリシュカのことではないことは確かだった。それに夫の方が微妙な顔をしていた。
「でも、娘の方が厄介そうよ。できれば、エリシュカとは距離をおいてほしいところだけど、幼なじみで親友だと思っているようなのよね」
親友と聞いて、眉を顰めたのは夫だった。
「あちらも、親友だと思っているのか?」
「まさか。あの女の娘が、私の娘で私に似てない娘を親友だと認めるわけがないわ。あることないことを娘に話して聞かせているのは明らかね。エリシュカのことよく思ってないようなのにそれに気づいていないのだもの。困ってしまうわ」
エリシュカは、そんなことを両親が話しているなんて知りもしなかった。
エリシュカが、幼なじみで、親友だと思っている令嬢からどんな風に思われているかも勘違いしていて、そんな幼なじみとその母親とがかち合わないように周りに配慮してくれていることも知らずに楽しそうにしているのだ。
幼なじみたちに会わないと思って疑問にすら思っていなかったのは、母や姉のようにその話に興味がなくて、他のところで楽しくしていて会わないのだと思っているのだ。
それに母親と幼なじみの母親の仲が悪いなんて思ってすらいなかった。同じ歳の娘として、仲良くしてほしいと両方とも思っていると思っていたが、どちらも仲良くなんてしていないし、娘同士で仲良くしてほしいとも思っていないことに全く気づいてはいなかったのだ。
幼なじみは、エリシュカのように勘違いしていることはなかった。母親と同様にエリシュカのことを目の敵のようにしていたのだが、そんな敵意むき出しでエリシュカのことを好いているどころか、嫌っていることに全く感知せずに親友だと勝手に思われて迷惑としか思ってはいなかった。
しかも、自分よりも先にエリシュカが婚約していることも気に入らないようだが、その辺りのことにもエリシュカは気づいていなかった。
その温度差に周りは気づいていて、そんなエリシュカに会わせまいとしてくれているのだから、エリシュカの母親はそこまでしてくれていて、エリシュカが楽しみにしているお茶会に連れて行かないなんてことはしようと思っていなかった。
それこそ、たとえ、そこでかち合っても、黙ってはいない。ユスティーナも、そうだろう。エリシュカに何かしてくるようなら、容赦なんてする気は全くないのだ。
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