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しおりを挟むオーガスタが留学してから、王太子と婚約したと聞いても姉のアミーリアと母親は、大して驚かなかった。
アミーリアも、その頃、婚約していた。誰と婚約したかというと……。
「アミーリア。婚約者が迎えに来たわよ」
「今、行きます」
母親が声をかけてくれて部屋から出るとチェスターが父と話していた。
そう、チェスターとアミーリアは婚約することになったのは、あの追いかけ回していた令嬢にアミーリアの堪忍袋の緒が切れたことが発端だった。
オーガスタから、公爵家の令嬢で何があったかを手紙で知っていたのもあり、何を言っても好かれているだの。照れていると思っているのにイラッとしたのだ。
「ちょっと、迷惑しているのがわからないの?」
「言いがかりはやめてよ。大体、あなたに関係ないでしょ」
「迷惑しているのよ。彼だけじゃなくて、この学園の全員が」
ブチギレたアミーリアは公爵令嬢というので、あちらでは何かと優遇されていたのだろうが、ここではそんなことはないことをそもそも彼女は知らなかったようだ。
好き勝手なことをしていた彼女は、留学してきてからまともに授業を受けていなかった。
「あなたの国では、許されるのかも知れないけど、ここではそんなことしていて単位なんて、もらえはしないわよ」
「え?」
「留学してきて、単位も取れずに終えたら、その記録が残るのよ。そんな令嬢を嫁にほしいと思うと頃があると思う? この国、授業さえまともに出てれば、取りそこねることはないのは、知れ渡っているのよ」
そう、この国にわざわざ留学しに来るのは、留学したという実績がほしいだけだ。それが、どこの国と知られたら、色々とバレることになるのだ。それを公爵令嬢は知らずに来たようだ。
そこから、追いかけ回している場合ではないとわかった後は、チェスターのことなど構ってられないかのようにしていた。もっとも必死に取り繕うとしたが、単位は足りないまま、留学期間をこれ以上、延長は無理となって顔色悪いまま戻って行った。
あちらで、留学して子息を追いかけ回して遊び呆けていたと噂されることになり、彼女の両親もそんなことないと否定しても、証拠がバッチリ残っていて甘やかし続けた娘の嫁ぎ先が見つからずに跡継ぎの彼女の弟にまで迷惑がかかって大変なことになっているようだ。
そんなことがあって、チェスターはアミーリアが救世主というか。女神に見えたようだ。
「アミーリア。今日は一段と綺麗だ」
「っ、ありがとうございます。チェスター様も、いつもに増して素敵です」
「そうか? 君の隣に相応しくなれているなら、それでいい」
チェスターは、アミーリアをすっかり溺愛していた。元より、姉妹で男性の好みは似ていたのもあり、アミーリアの好みそのものだったのだが、そのことを妹には言えなかったのだ。
それが、チェスターが誰も何もしてくれない中で助けてくれたアミーリアしか、婚約者にしたくないと奮闘して熱烈なアプローチをして婚約することになったのだ。
それをみんなが知っているため、妹の元婚約者を奪ったとは誰も言うことはなかった。
オーガスタは、姉からそのことを手紙だけでなく会ってからも色々聞いた。全部話すことはないと思ったが、姉妹でわだかまりを残したくなかったようだ。
以前のように頭が良すぎるのにそれでも飛び級しても控えめにわざとしているのにアミーリアはイライラしていたのもあり、仲違いしてしまったこともあったからのようだ。
オーガスタとしては、まさか、それにイライラしているとは思わなかった。頭が良すぎる妹がいるのが嫌なのだと思っていたが、そうではなかったのだ。
色々と話してみないとわからないものだ。
姉妹揃って、父のように妻だけを溺愛するような男性ではなくて、増えていく家族を大事にしてくれる伴侶と共に幸せいっぱいの人生を歩み続けることができたのだった。
ちなみにバージルとあのチェスターを追いかけ回していた令嬢は勘当されてから出会うことになり、散々な目にあったというところで意気投合して結婚したらしいが、街では有名なお騒がせ夫婦になったようだ。
何で騒がせ続けたかは、毎回噂に尾ひれがつきすぎて、オーガスタたちの耳に届いた時には、その2人のことだと気づくことはなかった。
「どこにでも迷惑なのはいるものね」
オーガスタとアミーリアは、嫁ぎ先でそんなことを思った。いつまで経っても姉妹関係が変わることはなかった。
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